31「わたしもう、ヤンデレ病じゃなくなったの」
放課後、僕とりおんは近所の公園までやってきた。
ここは思い出深い場所だ。ほみかとよく遊んだ場所でもあるし、僕が木登りから落ちて、共感性症候群に目覚めるきっかけを作った場所でもあるし。
――そして、僕とりおんが初めて出会った場所でもある。
ブランコ、滑り台、ジャングルジムぐらいの遊具、小さな池、天まで届きそうなほど生い茂った巨木。あれから何年も月日が流れたというのに、この空間だけは怖いくらい何も変わらない。
「変わんないねーっ、この公園」
一本杉の横のベンチに並んで腰かけるなり、りおんが言った。
りおんと毎日のようにここで遊んでいた時は、二人とも園児服だった。それが今では制服を着ている。
「う~~ん、ここはやっぱり涼しいね~♪」
「うん。この木には感謝しないとね」
大きな木が樹影を落としているので、清涼な風が吹いてきているのだ。僕は巨木に向かってお礼を述べた。
「いきなり呼び出して、ごめんね? ほみかちゃんが風邪だっていうのに」
「いや、それはいいんだ。それより……」
「うん、要件を言うね」
僕の言いたいことを察したらしいりおんが、真顔になった。
そして瞬きすることなく、空に向かって飛び立つ鳥達を見つめながら言った。
「――わたしってさ、ほんとに透ちゃん達には迷惑かけっぱなしだったよね」
ボソリと、後悔の念をりおんは口にする。
「ヤンデレ病にかかってたとはいえ、透ちゃんやほみかちゃんに酷いことしちゃった。透ちゃんのことで頭いっぱいで、透ちゃんに近づく女の子は、みんな悪魔に見えてた。だから排除すれば、二度と透ちゃんは誑らかされないって、本気で信じてた。そして、本当なら絶対に許されないようなことをした。でも、透ちゃんとほみかちゃんは許してくれた。それどころか、わたしを受け入れてくれた。前みたいに、いえ、前以上にわたしと仲良くしてくれた」
「そんなの、当り前じゃないか」
僕はわざとおどけて手を振ってみせた。
「りおんは、何も変わってなんかいないよ。僕やほみかだって。悪いのはヤンデレ病さ」
「……」
りおんは、じーっと僕を見つめた。
「ねえ透ちゃん、ほんとにそう思う? わたしは、ほみかちゃんも透ちゃんも殺そうとしたんだよ? こんなわたしを、ほんとに許しちゃっていいの?」
「……いいもなにも、僕もほみかも、もう何とも思ってないって」
りおんは、寂しげに視線を逸らした。
「でもね。わたしは、わたし自身を許せないの。あんな酷いことした自分を。独りよがりで、勝手だった自分を。そして、どうしたら罪を償えるかって、ずっと考えてたの」
「りおん?」
「わたしね――」
その瞬間、風が少しだけざわついた。
りおんは、舞い散る落ち葉や風の音に負けないよう、凛とした声で言った。
「わたしもう、ヤンデレ病じゃなくなったの」




