18「いや、それはおかしいから」
前置きが長くなってしまったけど、僕はあすかにプレイ方法を教えることにした。
「じゃあ、基本的なところから。キャラの左上に、二本のゲージがあるだろ? 上が体力ゲージで、これが尽きると負け。その下が気力ゲージだ。さっきも少し説明したね?」
「はい。体力ゲージが減ると攻撃力も低下することもお聞きしました。まあ、ようは体力を削られなければよいものかと」
「その認識で合ってるよ。そして、真ん中にあるのが制限時間。無制限でやることも出来るけど、今回は時間制にしよう。時間内に、より体力が残っている方が勝ち。同数なら引き分けだ。ここまではOK?」
「問題ありません」
「理解が早くて助かるよ。それじゃ、いよいよ実戦に移ろう」
僕はそう言うと。
自分が操作するキャラ――アンディを、あすかの操作する葵へと近づけた。
「今から僕が攻撃するよ。いいね?」
「は、はい! いつでも!」
あすかは準備万端とばかりに頷いた。目は大きく見開かれ、画面を文字通り、食い入るように見つめている。その表情からは、伝わってくる情報を一片たりとも見逃さないという気迫が感じ取れた。なので、僕は一切の手加減なくボタンを押した。
――Yah!
野太い叫び声と共に、アンディは右腕を振り上げた。
瞬時にムチを振り下ろす。大きな腕が振りかざす固い紐は、遠心力と共に弧を描き、やがて一つの直線となって少女に叩きつけられる!
――あんっ!
「きゃあ!」
絹を裂くような二つの少女の悲鳴――その一つはあすかのものだった。
「おのれ……アンディ殿……か弱い婦女子に対し暴行を加えるとは、何と卑劣な」
「いやいや……」
画面上の葵と同じく、ムチで叩かれた個所を庇うあすか。ていうか、今のは比較的弱い攻撃なんだけどね。今のを暴行とするなら、超必殺技とかどうなるんだ。
「ま、まあ。とりあえず、攻撃方法はこんな感じだ」
「むう。子供向けのゲームと侮っていたのですが、意外と暴力的なのですね」
「まあね。苦手なら、別のゲームに変更してもらうように、僕からほみかに頼んでみるけど?」
「いけません! それでは、ほみかお姉さまに負けを認めることになってしまいます! お兄様、もっとバンバン攻撃してくださいませ!」
鼻息を荒くして、僕の提案を拒否するあすか。
まあでも今回の勝負は、いわゆるほみかとの真剣勝負なわけだし、ゲームソフトの変更なんて、あすかのプライドが許さないのだろう。それなら尚更、僕も手を抜くわけにはいかない。あすかの言うように、バンバン攻撃していくことにしようかな。
「それじゃあ。無駄口はここまで。容赦なく攻撃していくけど、覚悟はいい?」
「はい! もちろんでございます!」
――Hahaha!
――きなさい!
僕とあすかの気合に呼応するかのように、待機中のアンディと葵が互いを挑発し合っている。
――Hah!
僕がボタンを押すと同時に、鋭く速いムチが二回にわたって繰り出される。
びしっ!
ばしんっ!
「あうっ、あううっっ!!」
「……ねえ、あすか?」
あすかはまたしても葵と同じリアクションを取っていた。しかも今度は、悲鳴まで全く同じだよ。いや、確かにこのゲームはリアリティ高いよ? 高いけどもさ……昔の人じゃないんだから、自分が打たれたのと勘違いするなよ。
「も、申し訳ありません。お兄様」
あすかは僕の言いたいことを先読みしたのか、深々と頭を下げ、
「そ、その……このゲーム、本当に臨場感があって凄いですね。葵様が攻撃を受けているのを見ると、まるで自分がムチ打ちされているような……そんな錯覚に陥るのです」
と、まるで闇のゲームでもしているかのようなことを言い出してきた。
「ちゃんと分かっているのです。これはあくまで虚構の世界であって、現実のわたくしには何一つ干渉していないと……。分かっているんですけども、何となく体が勝手に反応してしまって。真に申し訳ありません、お兄様」
「いや、いいよ。初めてなら仕方ないことだし」
「ありがとうございます。でも……」
「でも?」
「お兄様にムチ打ちされていることを想像して、何かこう、高揚感のようなものも感じているのです。お兄様の性処理奴隷として、無慈悲な凌辱を受けているのだと……そう考えると、とても興奮してしまう自分がいるのです。これも、おかしくはありませんわよね?」
「いや、それはおかしいから」
ていうか、そういうことか。
てっきり画面越しに伝わってくる迫力に圧倒されて……とか、そっちの方だとばかり思っていたけど、単に被虐趣味に火がついただけか。心配してマジで損したよ。




