11「たとえ一%でも勝てる確率があるのなら、あたしは最後まで希望を捨てないわ」
ということで。
ほみかとあすかの三本勝負。二本目は「お掃除対決」となった。
ルールは簡単、各々清掃担当を決め、制限時間内に、どれだけ綺麗にできるかというもの。もちろん、これも審判は僕がすることとなった。
ほみかとあすかの対決をする前に、僕の家の紹介をしておこう。
土地面積は160.9m²、4LDKで木造の二階建て。築年数は四十年ほどだ。見た目はごくごく普通の一軒家で、豪華すぎず地味すぎずってところかな。
築年数はかなり経っているけど、前の売主は中々几帳面な性格だったらしい。リフォームは大分前に行われているはずが、キッチン、お風呂、トイレとも新しいものに交換されていた。
まずほみかに掃除してもらうのは、お風呂。人工大理石の浴槽を使っているので汚れにくくはあるが、それでもわずかな傷や水垢などは付着している。しかし滑らかな質感のため、力を入れてこすりすぎると、傷が出来てかえって汚れがついてしまう。そこら辺はうまいこと綺麗にしてほしいところだ。
あすかは、玄関と廊下の二ヵ所。玄関はタイル清掃はもちろんのこと、細かいことを言えばサッシやドアの隙間など。もっとも人の出入りが多く、時には来客もあるのだから、ここも綺麗に磨き上げてほしい。そして、廊下。素材は合板のフローリングなので、基本はモップがけと水拭き。特に床磨きなんかは、結構体力を使うからね。どれだけ辛抱強く続けられるかがポイントだ。
そんなことを考えながら僕がリビングで待機していると。
約束の時間になったので、僕は二人が掃除した箇所を見比べてみることにした。
「はい、あすかの勝ち」
しかしまあ、即断即決だった。
タイルのカビはそのままだし、桶や椅子にも水垢がついている。鏡を触ればザラザラしてるし。数時間もかけてこれとか、逆に凄いよ。
ほみかは僕の判定に不服だったようで、思い切り頬をふくらませながら、
「ちょっと待ってよバカ兄貴! 何であたしの負けなのよ!」
「……じゃあ、次の勝負いってみようか」
「あたしを無視して話進めないでよ! ……てかまだ、あすかの方見てないんだけど! こんなの不公平よ! 八百長よ!」
「……いや、ほみかは逆にこれで勝ちだと思ってる?」
「当たり前じゃん!」
恐ろしいほど気持ちよく言い切るほみか。
しかし浴室を見渡す限り、綺麗どころか何も変わってるとは思えない。ハウスクリーニングを頼んでこれだったら本社に乗り込むレベルの酷さだ。
「例えばこのタイルの壁だけど、ちゃんとカビ取り用のスプレーしたか? 五~十分くらい置いてから擦ると、綺麗に落とせるんだけど」
「……な、なによ。それぐらい知ってたし。ただ、忘れてただけだし……」
(え~~~っ! そんなの知らなかったよう~。お兄ちゃん、先に教えといてえええ)
「あと風呂桶や椅子なんかは、洗剤をつけてラップでパックして時間を置くと、汚れが落ちやすくなるんだけど。そういうのも知らなかったわけだ」
「うん……って、違うし!」
思わず認めかけ、慌てて首を左右に振るほみか。
そのまま勢いよく浴槽を指差し、僕の顔を真っ直ぐ見つめながら、
「……こ、これ見なさいよ! あたしが時間をかけて丁寧に磨いたの! 凄いでしょ!」
「え。これ、ほみかがやったの?」
「そうよ! さっきの誤審は水に流してあげるから、判定を撤回しなさい。あたしの勝ちだとね!」
「……いや、これ見るからに駄目じゃん」
「へ?」
呆けたように聞き返すほみか。
でもこれは流石に見過ごせないだろう。どんな力で擦ったのかは知らないけど、浴槽中に小さな傷がビッシリついている。よほど頑固な汚れだったのならともかく、そもそも汚れが少ない大理石の浴槽をここまでしつこく磨き上げる必要はない。
「とにかく。これで勝ち星はあげられないね。あすかの方が全然綺麗だった」
「納得できないわ! こんなのインチキよ! あすかにだって、失敗してる所があるかもしれないのに! どこがどうあすかの勝ちなのか、あたしにも分かるように説明しなさいよ!」
(ひーっ! まさかお兄ちゃんがほみかの味方してくれないなんてえええぇぇっ! でも、なんで? 何でほみかのこと見捨てるのお!?)
「ええ、これでまだ諦めないの……?」
「あったりまえじゃん。たとえ一%でも勝てる確率があるのなら、あたしは最後まで希望を捨てないわ」
「カッコいい台詞だけどあすかのミスにすがるのはね……まあ分かった。とりあえず、あすかの掃除した箇所を見せればいいんだろ? 一緒に見に行こうか。凄いから」
「……ううっ」
冷や汗をかきながらしり込むほみかを連れて、僕はあすかの待つ廊下へと向かった。




