6「いやあ。堪能させてもらったよ」
そんなこんなで、ほみかとあすかの料理対決。
ルールを説明すると、以下の通りとなる。
始めに予算の上限を決め、同じ店で材料を揃える。予算内の材料ならば何品作ってもOKだが、調味料や調理道具なども予算の範疇とみなす。だが、うちに元々ある物ならば何を使っても問題なしと、こんな感じだ。あとはジャンケンで適当に順番を決めてもらい、僕が食べ比べをし、美味しいと思った方を勝ちとする。
そんなわけで順番を決めた結果、まずはあすかの料理から先に食べることになったのである。
「さあお兄様。どうぞお召し上がりくださいませ」
そう言ってあすかは僕の前に置いたのは、花びら型のガラス鉢に盛られた、キュウリとなめ茸の和え物だった。
「輪切りにしたキュウリとなめ茸を、ミョウガとごま油で和えたものですわ。お口に合うとよろしいのですけど」
「あーうん、大丈夫だよ。どっちも嫌いじゃないから……じゃあ、いただきます」
僕は微笑みかけつつ、箸を掴んであすかの料理を口にする。
パリッとしたキュウリとヌメヌメしたなめ茸の食感が、ピリッと辛く新鮮な味付けで――ハッキリ言って、すごく美味しい。何個でもいけちゃうくらいだよ。
「うん、うまいよ。ちょうどいい味付けだね」
「ごま油とミョウガの他に、醤油、砂糖、酢と、七味唐辛子で味を整えております。お気に召したようで重畳ですわ」
「ふうん、ずいぶんと手間ひまをかけてくれてるんだね?」
「当然のことですわ。お兄様に食べていただくものを、最大限美味しく調理するなどということは。さらには、お兄様の血肉となる食物ですから、お兄様の健康に配慮した、安心安全の食材を使用するということも重要ですわね。もし万が一、お兄様を食中毒などにさせてしまったら、わたくしの命などではとてもあがないきれませんわ。お兄様の損失は雪ノ宮家にとってだけではなく、宇宙にとっての損失なのですから」
はは、こやつめ。と聞き流してしまいそうだけど。心の声が聞こえてこないということは本気で言ってるな。まあ害意があるわけじゃないから別にいいけど。
パクパク。
モグモグ。
…………ごっくん。
それからも次々と、あすかは料理を僕の前に並べた。
鯖は刺身じゃなくて、一尾まるごと出てきた。これがまた普通の鯖焼きよりも旨みがしっかりとしていて、箸が止まらなかった。
椀物はオクラとエリンギのおろし椀で、かつお風味の上品な味わいが絶品。揚げ物は鱚で、すだち塩でいただいた。天ぷら屋並みにサクサクッとした衣の中に、癖のない繊細な味が閉じ込められている。
「ちょ、ちょっと! アンタ、食べすぎじゃないの? そんなんで、あたしの料理食べられるの?」
(あすかの料理そんなに美味しそうに食べないで! ほみか自信なくなっちゃうからあああああああああ)
猛烈な勢いで箸を動かす僕に、たまらずほみかが抗議を入れてくる。
「だってそうでしょ? どれだけあたしが美味しい料理作ったって、満腹なんだったら美味しく感じるわけないじゃない! 大体、味を審査するのに何でいちいち完食しなきゃいけないわけ!? これ、完全にあたしにとって不利じゃん!」
「あー……、ごめんごめん。美味しくって、つい……」
「なによ! 美味しいって……「まあ! 本当ですの!? お兄様!」」
なおも怒りが収まらないほみかを突き飛ばして割って入ってきたのは、あすかだった。
「それをお聞きして大変嬉しいですわ。よく言うではありませんか。調理方法はいわゆる技術に過ぎないと。食べていただける人のことを思って、初めて美味しく感じるのだと――お兄様にそう思っていただけたということは、わたくしの愛が通じたということですわね!」
「う、うん。愛情はまあ……確かに感じたけど。手間ひまがかかってるのは間違いなさそうだね。特にこのサバって、一夜干しだよね?」
「はい。干して水分を飛ばした分、旨みがはっきり出ますので。わたくしが生魚を開いて干しておきましたの」
「へえ、干物を作ったんだ。結構手間をかけたんだねえ」
「手間などと、とんでもございません。お兄様に美味しく食べていただくための下ごしらえと考えれば、それがわたくしにとっての喜びなのですわ」
「美味しく食べてもらうためならば……か。いい心がけだねえ」
……とまあ、そんな感じで質問タイム。
あすかほどじゃないけど、僕も一応料理は作る。食材に関しての質問、調理技術に関する知識を、初心者の僕にも分かりやすいように抗議してくれ、その造詣の深さは聞いていてちっとも飽きなかった。しかしほみかだけは、不満そうな顔で僕とあすかのやり取りを見ていた。料理を褒めたことではなく、単純に僕とあすかが仲良くしているのが気に入らないのだろう。
「まだ走りですけど」
最後にあすかがデザートとして持ってきたのは、よく冷えた柿だった。確かに時期としてはまだ早かったが、オレンジの果肉を口に入れると、野趣のある甘みが広がった。
う、うまい……。
思わずよだれが出そうになってしまった。
「お兄様、これを……」
するとすかさず、あすかがお絞りを出してくる。
「あ、ありがとう……」
僕はちょうどいい冷たさのお絞りを受け取ると、顔を拭いた。
「いやあ。堪能させてもらったよ」
食後に熱いほうじ茶を飲みながら、僕はつぶやいた。
例えば料理の出し方。あすかが器を卓に給仕する時は、僕の目障りにならないよう最大限気を遣われている。
しかも、ことりとも音を立てないのだ。器がぶつかる音や衣擦れの音などで、僕が気分を害することのないようにと。
それすなわち、食べる人のことを気遣っての行為に他ならない。味のみではなく、こういった些細なことに僕は感激させられたのだ。




