2「であれば、勝負の方法は決まりましたわね」
なんで、こうなってしまったんだろう。
しかし、僕には止める手立てもなく。
やってきました次の休日。
僕、ほみか、あすかの三人はそれぞれテーブルについている。母さんは急に仕事が入ったとかで家を空けている。
その時に『二人のことは頼むわよ』と念を押され仲裁役を仰せつかったのだが、当然のことながら、二人は僕のことなど無視して話を進めるわけで、
「よく逃げ出さずにあたしの挑戦を受けたわね、あすか」
と。
好戦的に切り出すほみかに対し、あすかは悠然とした笑みを浮かべながら、
「それはこちらの台詞ですわ。負けることが分かっていて、よくこの場に顔を出せたものですわね。その向こう見ずというか、蛮勇だけは賞賛に値しますわよ、ほみかお姉さま」
「上等じゃない。今日こそアンタを消し炭にしてやるわ」
……なんか、どんどん話が大げさになってきてるな。
不安に思い、僕はバチバチと火花を散らす二人に声をかけた。
「まあ、二人とも穏便に頼むよ。それで? 勝負の方法はどうする? 三回戦ぐらいにして、先に二勝した方が勝ちってことでいいんじゃない?」
「そうですわね。さしあたっては花嫁修業の定番であるお料理、お掃除、お洗濯、お裁縫などで勝敗を決めるというのはいかがでしょう? お兄様を巡っての勝負ですから、当然お兄様に審判をしていただいて」
……うん。まあ、そんなとこだろうな。
僕はあすかの発言にうなずいた。
別に僕の花嫁を決める勝負ではないのだけど、いってみれば二人が遺恨を残してるのは「どっちが僕の妹としてふさわしいか?」なのだから。
僕としてもそういう家事のスキルは、ないよりあった方がいいと考えてるし。
「分かったよ。じゃあとりあえず――」
「ちょっと待ちなさいよ!」
そこでほみかが割って入ってきた。
「今時、女の方が家事をやるっていう考えは、あたし嫌いなのよね。なんか、女だから料理できて当然~、みたいな? べ、別にできないわけじゃないけど、女の価値をそういう家政婦さん的な立ち位置で評価しようって考え方には、批判の声をあげさせてもらいたいわ」
おっ、言うねーほみか。
もっともらしいことを言ってるから素人なら騙せたろうけど、兄である僕は騙せない。なにせ、ほみかの殺人的な料理には昔から苦しめられてきたから。料理だけじゃなく、家事全般であすかに勝つ自信がないんだろう。
「ということで、ゲーム、アクセサリー作り、ネイルアート……このあたりで決着をつけようと思うの。いいわね?」
「ほみかお姉さまったら。何を仰いますやら」
一人で話を進めようとするほみかを、あすかは一笑に付す。
「先ほどから静観して聞いていれば。そのようなものはただの『趣味』ではありませんか。妹の座を争うのですから、お兄様の負担を少しでも減らすため、家事の技術を競い合うのは自明の理というものですわ」
おー、これも上手い言い回しだ。
というより、こんな丁寧な言い方されたら何でもそれっぽく聞こえるな。
とはいうものの、ぶっちゃけあすかも、ほみかのいう種目で戦いたくないんだろう。あすかは雪ノ宮という名家の生まれで、一般的な女子の遊びに詳しいとは思えない。
僕としてはほみかとあすか、どっちに肩入れするわけにもいかない。ここで止めるのが一番無難なんじゃないか?
「まあまあ、二人とも」
競技種目について議論を繰り広げる二人を、僕は手で制して、
「やっぱりさ。勝負なんて野蛮なことは止めようよ。お互い親戚同士なんだからさ。仲良く親交を暖め合って――」
「お断りよ」
「お断りいたします」
しかし僕の博愛精神は、息の合ったユニゾンにかき消されてしまった。
ほみかは、あすかに対しキッと向き直って、
「ちょっと! アンタ卑怯よ! 詰まるところ、自分が得意な科目しか提案してないじゃん!」
「それは、ほみかお姉さまも同じですわ。というより、先ほど家事には自信があると申したではありませんか?」
「う、うっさいわね! そんな揚げ足取りはいいのよ!」
「どうしても家事全般がお嫌なら、茶道や華道、着物の着付け、お琴、書道、舞踊などで勝負して差し上げてもようございますが?」
「なんで全部伝統芸能系なのよ! アンタ万能すぎでしょうが! ていうかそんなことより! あたしのいう勝負で――」
「ちなみに花嫁修業の項目には、言葉遣いや一般常識といったものもございます。冠婚葬祭や親戚づきあい、仕事の会食などで旦那様に恥をかかせることになりますからね。そういった点で、ほみかお姉さまはまず負けているかと」
「な、なんで戦ってもいないのに負けになるのよ!」
「いえ、申し訳ありません。口が過ぎました」
激昂するほみかに対し、意外にも深々と頭を下げ出すあすか。
「え? え? なによ、いきなり……」
急な謝罪に、あすかは怒りを向ける矛先を見失い、狼狽した。
なるほど。下手に挑発してほみかを怒らせるより、調子を崩させることを選んだか。このへんは、あすかの方が一枚上手だな。
「ほみかお姉さまの言うことにも一理あります。ようするに、わたくしとお姉さま、どちらに利することもなければ、よいのでございますね?」
「え、ええ、そうよ。なんだ、ちゃんと分かってるじゃない……」
ほみかの言葉に、あすかはフッと笑みを漏らし、
「であれば、勝負の方法は決まりましたわね」
こう、ほみかに向けて宣言した。
「わたくしとほみかお姉さまの三番勝負――、一回戦目は、『腕相撲』ですわ!」




