プロローグ
昔の記憶を思い出すと、いつも妹と遊んでいた。ジャングルジムのてっぺんからジャンプ、鉄棒にて逆上がり四回転の練習、スピードをつけたブランコの立ち漕ぎなど、やんちゃな妹は危険な遊び方が好きだった。僕はというと、そんな妹にハラハラさせられながらも、日が暮れるまで付き合っていた。物心付いてから両親が離婚するまでの間は、ほとんど妹と時を過ごしてきた。
僕が妹のことで、特に印象に残っている思い出と言えば。
いつものように、妹が乗っているブランコを、僕が後ろから押していた時だった。
刺激が好きな妹はスピードが出ているほど上機嫌になるので、僕も必死になって背中を押してあげていた。しかし、その日はいつもと様子が違っていた。前日がどしゃぶりで地面がぬかるんでいたことだ。
そう、妹は足を滑らせ泥の中にダイブしてしまった。
全身泥まみれ。
お気に入りのパーカー、お気に入りのスカート……そして、一番気に入っていたカチューシャ。
僕はハッとなった。妹は自分が泥まみれになったことよりも、お気に入りのカチューシャを汚してしまったことに怒っていた。
「もう、サイテー! バカ兄貴なんて、だいっきらい!」
初めて妹に嫌いと言われたことを、今でもハッキリと覚えている。
妹に嫌われた? いやだ、嫌われたくない。
僕は、妹に何度も謝り、持っていたハンカチで全身を拭いてあげた。
しかし、カチューシャの汚れはどうしても取れなかったし、そもそも事故のショックでポキっと折れてしまっていた。
だから僕は、妹にちょっとそこで待っているように言い残して、デパートまで走った。ありったけのお小遣いを持って。代わりに、妹に似合うリボンを買ってあげようと思って。
妹はピンク色が好きだったはずだ。それにリボンも好きだったはず。だから、きっと喜んでくれる。
「きゃっ、アンタやるじゃん。しょうがないわね。これで許してあげるわ」
僕の思惑通り、妹は大層喜んでくれた。
もらったばかりのリボンを嬉々として自分の髪につける妹を見て、僕は胸をなでおろした。
そして思った。
妹が、好きだ。
妹に、愛されたい。
心から、強く、そう願った。




