表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕だけに聞こえる彼女達の本音がデレデレすぎてヤバい!  作者: 寝坊助
デレ3~主人公、まさかの離縁!? 幼馴染とクラスメートのバトルもヤバい!~
154/217

46「……あすかのこと、よろしくね」

「ことり……悪い冗談は止めろ」


「冗談じゃなぃ。断ったら、今度こそ本当にぉ兄様を殺す」


「そんなこと、お前に出来るわけないだろ」


「試してみる?」


 ぐいっ、と。

 ことりは短刀を僕の左胸に強く押し当てた。

 肌が切れ、つつーっと血が滴り落ちる。


「こんなことしたって、何の意味もないぞ」


「意味はぁる」


「あすかが、悲しむじゃないか」


「分かってなぃよ。ぉ兄様は、何も」


 寂しげな笑みを浮かべながら、ことりは自身の左手の静脈を見せた。

 そこには、


「ことり……お前」


「あすかは、暗闇の世界に囚われてぃたの。でもぉ兄様と会うことが出来て、ようやく光の差す道に歩き始めた。でも、ここでぉ兄様に見捨てられたら、きっとあすかは死を選ぶ。こんな風に――」


 ことり、すなわちあすかの左腕には、真一文字の傷があった。おそらく、自傷の跡だろう。あすかがあの時、僕と温泉に入ることを激しく拒絶していたのは、これが理由だったのだ。


「……あすかの境遇については、可哀想に思う。でも――」


「ぉ兄様があすかのそばにいてくれるなら、ぁたしは安心してぃなくなれる」


「ことり、それは違うぞ……っと、あぶない」


 ことりの言葉に思わず身を乗り出しかけ、短刀が突き刺さる寸前で慌てて体を引っ込めた。

 

「違うって……何が?」


「あすかにとって、一番支えになるのは君なんだ。僕じゃない。今までだって、ずっとあすかのことを助けてきたんだろ? あすかは今でも、ことりのことを慕っているんだ。僕があすかのことを支えるのに何の不満もないけど。それでもことり、君はあすかにとって必要な存在なんだよ」


「そんなこと……ぁるわけなぃじゃなぃ!」


 髪を振り乱し、僕の言葉を拒絶することり。

 僕はそんなことりをじっと見つめ、


「僕だって同じなんだよ、ことり。だからまだ、雪ノ宮の家に行くわけにはいかないんだ。あの家に行ったら、名家のルールに従わなきゃいけなくなる。母さんや、りおんや、アリサや、ほみか。周りの人たちとも会えなくなる。でも僕は、大事な人たちがいたから、ここまでやってこれたんだ。この気持ち――ずっとあすかを見守ってきたことりになら、分かるだろ?」


「……ぅん。わかるよぉ」


「ごめんね、ことり」


 頷くことりに、僕は謝罪した。


「でも、これだけは言わせてくれ。僕は、あすかのことを今まで以上に大切にするし、兄として、ちゃんと守ってやるつもりだ」


「ほんとぉ?」


「ああ、本当だ。嘘は言わない。僕はあすかのことを、世界中の誰より大事に思ってる。何たって、生き別れの妹なんだからね。それに――」


「それに?」


「ことり。君もね」


 僕がそう言うと、短刀を持つことりの腕が震えた。

 おいおい。間違って刺さないでくれよ。僕がそう願っていると、


「ぉ、ぉ兄様……」


 目じりに涙を溜めて、頬を赤くして――、鼻をぐずらせながら、ことりが言った。


「なんで、そんなこと言ぅの?」


「えっ、なんでって?」


 なぜと問われて僕は言葉に詰まる。


「ぉ兄様、ぃつもことりのこと邪険に扱ってたじゃなぃ。『いい加減にしろ』とか『あすかの体から出て行け』とか」


「うん。それは実際思ってたよ。でも、その時は真相を何も知らなかったから……。ことりだって、最初は僕と敵対してたけど、今はこんなに普通に喋ってくれるじゃないか」


「ぁぅぅ……。それはだって、ぉ兄様があすかを苛める悪ぃ人だって思ってたから……」


「なら、いいじゃないか。お互いに誤解が解けたってことで」


「で、でも……」


 ことりは俯きながらぶつぶつとぼやき、納得していない様子だった。

 本当に頑固な奴だ。僕はそんなことりの頭に、ぼふんっと手を乗せた。

 不意のことに、ことりは真っ赤になった顔を上げ抗議する。


「な、何をするの、ぉ兄様!」


「何って、ご褒美だよ。今まであすかのことを守ってくれて、ありがとう。ちょっとやり方に問題はあったけどね……。とにかく、お兄ちゃんとして頑張った妹は褒めてあげないと」


「ご褒美って……ぁたしは子供じゃなぃ!」


「いや、子供だろ。ていうか、何でそんなに顔を赤くしてるの?」


「だ、だって……」


 ことりの声は、もう涙声になっていた。


「今まで誰も、ぁたしのことを一人の人間として見てくれなかったから……。ぁたしはあすかの中にいる別人格で――怖がられることはぁっても、褒められることなんてなかったから。だから……」


「そんなことはもう、どうでもいいんだよ。考えてみれば、これは素晴らしいことだ。もう会えなくなったはずの兄妹が、こうしてまた巡り合えるだなんて。ことりもあすかも、今まで出来なかった分僕に甘えればいい」


「そ、そんなこと出来――」


「それに、さ。悪ぶってることりより今のことりの方が、僕は好きだな」


「~~~~っ!!」


 顔どころか、耳たぶまで真っ赤にして。

 頭から湯気を出しそうなくらいことりは赤面していた。


「ぉ……ぉ兄様の、バカ……。こんな時に、何言ってるのよ……」


 そう言いながら、ことりは僕の胸から短刀を離した。その表情は、悪戯を咎められた子供のようにバツが悪そうだった。

 額にはうっすらと汗が浮かんでいて、視線はあちこちに泳いでいて、息を荒くハアハアとついていて。


――まるで。

 まるでこれから死んでしまうか(・・・・・・・)のように。

 心配する僕をよそに、ことりは口を開いた。


「ねぇ、ぉ兄様」


「なに……?」


「ぁりがとぅ。ぁたしのこと、妹だって言ってくれて」


 ゆっくり。

 ゆっくりと。

 本当にゆっくり、ことりは前のめりに倒れた。

 僕は、慌ててその体を抱きとめる。


「おい、ことり?」


「……ぁりがとぅ」


「何言ってるんだ。しっかりしろ! おい!」


「……あすかのこと、よろしくね」


 それが、ことりの最後の言葉だった。


「よせ! 消えるな! ことり! おい! ことり――――――――――!!」


 僕は大声で叫ぶが、ことりからの返事はなかった。

 なんでだよ。

 これまで散々ケンカをしたし、僕は何度もことりに殺されかけたけど。それでも、僕に忠告をしてくれたり、話もちゃんと聞いてくれるようになって。


 やっと分かり合えたのに。

 なんで、いなくならないといけないんだよ。


「……いつも勝手に出てきて、散々暴れまわって、自由に好きなことして。最後の最後まで、こっちの意志は無視して勝手に消えるのか。本当に、ワガママな奴だよ……お前は」


 溢れ出てくる涙を止めるために、憎まれ口を叩きながら。

 僕はことりが抜けて出た「あすか」の体を、抱きしめ続けていたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ