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僕だけに聞こえる彼女達の本音がデレデレすぎてヤバい!  作者: 寝坊助
デレ3~主人公、まさかの離縁!? 幼馴染とクラスメートのバトルもヤバい!~
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44「だって君は……本当はすごく、優しい女の子だから」

 僕は、ことりを追いかけコテージを出た。

 すぐそこには、小さな遊歩道があった。木で出来た階段を下って森の中へと入っていった。右も左も木ばかりで、いわば樹木の迷路だ。月が出ているため何とか先は見えるが、それでも歩を進めるのは容易なことではない。僕はリビングから裸足のまま出てきてしまったのだ。せめて靴を履いてくればと後悔した。


 ガサガサガサ! という音がした。と思って辺りを見渡したが誰もいなかった。風が木の葉を揺らす音だったようだ。枯れ木を踏みしめる音、ホゥホゥとフクロウの鳴き声。昼間なら取るに足りないことだが、夜だとこれほどまで不気味に感じるものなのか。しかし、僕は歩みを止めるわけにはいかなかった。


 彼女(・・)を助けるために。


 夜の山道というのは、想像以上に歩きにくいところだった。街灯で照らされ、きちんと舗装された道路とは訳が違う。明かりといえば月明かりだけ。道は曲がりくねって細く、少しでも油断すると足を踏み外しそうだ。


 そんな風に土道を散策してると、耳をつんざくような悲鳴が聞こえた。

 僕はその方向へと走った。そこは、切り立った崖の上だった。すぐ下は海だ。もし落ちたら、助かる可能性は低いだろう。まさに断崖絶壁だ。


 悲鳴の主はすぐに見つけた。立花綾だ。彼女はおさげ髪を振り乱し、服ははだけ、体にはあちこち擦り傷がついていた。

 メガネには亀裂が入っていた。その奥の瞳には激しい混乱と、おぞましいまでの恐怖があった。


「立花……さん?」


 僕は立花さんに声をかけた。


「あ……」


 彼女はカッと目を見開いていた。恐ろしさのせいか瞳孔が開いている。


「立花さん、僕だ。神奈月だよ。あすかはどこに行ったんだ?」


「あすか……」


 僕がその名を口にすると、立花さんはビクリと肩を震わせた。


「雪ノ宮……あすか……雪ノ宮……うわぁぁぁああああああああああああああ!!」


 突然彼女は、気でも触れたかのように叫び出した。僕は慌てて、立花さんの肩に手を置いた。


「落ち着いて。大丈夫だ。僕がついてる。だから状況をくわしく――」


「……!」


 手に痛みが走った。立花さんが僕の手を払いのけたからだ。僕が一瞬ひるんだ隙に、彼女は背を向け、僕が来た道を引き返していった。


 気がつくと、僕一人だけが取り残されていた。いや、一人というのは違うか。気配を感じる。もう一人。僕のすぐ後ろに立っている。


 僕は後ろを振り向いた。


「はぁい♪ ぉ兄様」


「ことり……」


 高所に立つ恐怖も相まって、緊張しながら僕はことりと対面した。

 彼女のほうは落ち着いていて、取り乱してる様子は微塵もない。ただ無機質な瞳が、真っ直ぐに僕を見据えているだけだった。


「ことり、もうやめるんだ。こんなこと」


「……」


 僕は話しかけたが、ことりは返事をしなかった。


「こんなことをしても、何の意味もない。あすかも、君も。みんな不幸になるだけだ。それは君にも、もう分かってるはずだ」


 僕がそう言うと、ことりは着物の懐に左手を忍ばせた。おそらくまた短刀を出すのだろうが、僕に逃げる気はなかった。


「ねぇ、ぉ兄様。ひとつだけ教えて?」

 

 思ったとおり、短刀を取り出したことりは、僕に向かって言った。


「どうしてぉ兄様は、ぃつもことりの邪魔をするの?」


「邪魔してるつもりはないんだけどね。むしろ、人助けのつもりさ」


 僕が肩をすくめて言い返すと、ことりは静かにため息をついた。


「わざわざ出てこなければ、まだ死なずに済んだのに。バカなぉ兄様」


「バカなのは認めるけど、殺される為に走ってきたわけじゃないよ。僕はちゃんと、五体満足で帰るつもりだ」


 余裕を持って答える。ことりは玩具に興味を失くした子供のような表情で、


「殺されなぃ、と思ってるんだ」


 と言った。


「だから、そんな冷静なフリしてぃられるんだ。でも、残念ね。クリスティーナは意識を失ってるし、こんな所までは誰も助けに来られなぃ。もぉ、ぁたしの邪魔をする者はぃなぃのよ?」


 僕は首を振った。ことりは薄く笑って、


「ぐふふ……。ずいぶん余裕ね。何か策でもぁるの? それとも、ただのハッタリ……? どっちにしても、ぉ兄様はこれまでね!」


 ことりは短刀を僕に向けて構えた。僕のすぐ後ろは崖。逃げ場はない。


「死ね、ぉ兄様!」

 

 ことりは僕に向かって、猛烈な勢いで突進してきた。


「……!」


 ことりが放つ短刀の切っ先が、僕のすぐ喉元まで迫ってきた。凶刃が僕に突き刺さるまで、あと数センチまでの距離になる。


 その瞬間を、僕は瞬き一つせずじっと見ていた。ことりの動作には何ひとつ迷いがないように見えた。しかし、刃は刺さらなかった。僕の喉に触れるギリギリのところで、ことりが寸止めをしたからだ。


「ぉ兄様……なぜよけなぃの?」


 うつむきながら、搾り出したような小さい声で、ことりが尋ねる。


「殺されないことを、知っていたから……かな?」


 僕がそう答えると、ことりは顔を上げた。


「……どぉして?」


 ことりは、唖然としていた。

 僕は親が子供を諭すように、優しく彼女に言い聞かせた。


「だって君は……本当はすごく、優しい女の子だから」

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