42「ア、アリサ! 水着! 穴開いてるよ!」
「あつっ! あっつい! ほんとにあつい!」
それからしばらく。
りおんはお風呂場に響き渡るくらい「熱い!」を連呼したあとで、
「……何するの! ほみかちゃん!」
後ろを振り返り、噛み付くようにほみかに向けて叫んだ。
「何するの! ……じゃないわよ!」
しかしほみかは、それ以上に怒って怒鳴り返す。
「りお姉こそ、マジで何してんのよ。水風呂に入ってくるとか言って、遅いから気になって様子を見にきてみれば。体を擦りつけ合っちゃって、いやらしい! ここは人ん家の別荘なのよ? 少しは自重しなさい!」
「いやらしいって何よ! わたしはただ、透ちゃんの体を洗ってあげてただけ!」
「体を洗うのに、胸を押し付ける必要なんてないでしょーが!」
「そっ、それは……」
「まったく……。バカ兄貴の優柔不断さを利用して、お風呂場でこんな卑猥なことしてるなんて……。こんな素晴らしい露天風呂でソープまがいなことして、恥ずかしいとは思わないの!?」
「ち、違うもん。ちょっと暴走しちゃったところはあるけど、そんなやらしい気持ちはないもん……」
「何よ、ここまで来てまた言い訳!? りお姉ったらどこまで往生際が悪いの! とにかく、バカ兄貴から離れなさいよ! 大人しくできないんなら、りお姉だけさっさと帰ってもらうわよ!」
「ぶ~」
不満げにほっぺたを膨らませるりおんだったけど、洗い場にかけてあるシャワーを手に取ると、思い切り栓をひねった。
ほみかに向けて。
「ほみかちゃん、くらえ!」
「あっちゃあああああああああああああああああああああああ!!」
今度は、ほみかが悲鳴を上げる番だった。相当熱かったのだろう。たまらずにお風呂場を走り回っている。アリサはその様子をただおろおろと見ている。そろそろ注意した方がいいかな? 僕がそう思っていると、体を冷ましたほみかがりおんを睨みつけ、
「火傷するところだったじゃないの! 何すんのよ! りお姉!」
「ふん! 先にやったのはほみかちゃんだもんね!」
「何よ! 悪いのは全部りお姉じゃないの! 自分が悪いのを棚に上げて逆ギレとか、マジサイテー! 信じらんない!」
「うるさいもん! ほみかちゃんこそ、透ちゃんとわたしのイチャつきタイムを邪魔しないで!」
「とうとう本性を出したわね! そんなりお姉には、お仕置きしてやるんだから!」
「なにおー! ほみかちゃんこそわたしの恐ろしさ、分からせてあげるわ!」
そう言って、二人は風呂桶に熱々のお湯を溜め出した。
最大限まで熱湯が補充された桶を持ち、向かい合って構える。
……二人の間に、静寂と緊張感が走る。
先に口を開いたのは、ほみかだった。
「どうしたの? りお姉、ビビッてんの?」
「ほみかちゃんこそ。――分かってるでしょ? この勝負、先に動いた方が負けだって」
「そんなの関係ないし。勝つのはあたしだし」
「うふふ、面白い冗談ね。じゃあ、そろそろいこっか」
「望むところよ!」
そして二人は、構えた桶の熱湯を、お互いにかけようとした。
その時。
「……二人とも止めてください! いい加減に怒りますよ? 私」
「「「……あ」」」
と。
僕、ほみか、りおんが声を上げた時にはもう遅かった。
ザバアアアアアァァァッと。
ほみかとりおんの間に止めに入ったアリサは、二人に熱湯をぶっかけられていた。
「ア、アリサさん……」
「あ、あわわ。アリサちゃん、何で……」
ほみか、りおんと、それぞれがもの凄く申し訳なさそうな顔でアリサを見る。そりゃそうだろう。アリサは髪も体もびしょ濡れだし、全身からは湯気が立ち上ってる。かろうじて無表情をキープしてはいるが、間違いなく熱いはずだ。
「……きゅう~~~~」
そう呻き声を発した次の瞬間、アリサはバタッと床に倒れた。
すぐに僕はアリサの元まで駆け寄ると、
「大丈夫か、アリサ! しっかりしろ!」
アリサの体を抱き起こし、そして後悔した。
なぜ後悔したかというと……彼女がつけてる水着のバスト部分に穴が開いてて、乳房が見えてしまっていたからである。その為、僕は慌ててアリサから離れた。
「ア、アリサ! 水着! 穴開いてるよ!」
「……え? う~~~~」
僕がそう声をかけると、アリサはタイルの床から起き上がった。
まだ熱さが消えていないのであろう。自らの体をさすりながら。
「あつつ……あ」
体をさすっている内に気づいたのだろう。
自分の水着が溶けていることに。
「……あ」
そして、アリサは僕を見た。
何が起こったのか僕はまだ理解出来ていないが、先ほどまで清楚だったアリサの水着はどんどん面積が狭まっていて、もはやりおんの水着と大差ないくらいセクシーになっている。
アリサは僕と数秒目を合わせると、僕の疑問に答えた。
「……あの。お母さまが、『アリサには特別な水着を用意します。これで神奈月さんをノックアウトしてきなさい!』って……。私は反対したんですけど、お母さまが無理やり……」
(……私、透さんに襲ってほしくてつい……。お母さまから一定時間水に濡れると溶ける水着をもらってきたんです。こういう水着って、男の人の理想だって聞きましたから……)
「そ、そうなんだ……」
僕は納得した。やっぱり、クリスティーナさんの仕業か。
こうしてる間にも、アリサの水着はどんどん溶けていった。
――僕とアリサは、親友だった。
もちろんアリサのことを、性的な目で見たことは何回かある。アルビノゆえか周囲の目を引く純白の肌だし、アリサ自身もとてつもない美貌を持つ正に『絶世の美少女』なのだ。これで何とも思わない男はいない。
それでも。親友の露出した肌をこうして見るのは、何だかためらわれた。
アリサの体は、凄く魅力的だったから。
アリサの水着はもはやフレームの部分だけを残して、あとは申し訳程度の布が大事な部分を覆っているだけの形となっていた。そのため、アリサの整った肢体や輝くような白い肌を存分に拝むことが出来た。胸は控えめだがそれでも形のいい美乳で、ほっそりした瑞々しい体は水を弾いてて……。本当に、思わず襲ってしまいそうな……。
……って、僕は何を考えてるんだ!
「――ごめん! 僕は先に上がらせてもらうよ!」
「……え? 透さん?」
アリサの声を無視して。
僕は脱兎の如く風呂場を走り、脱衣所へと駆け込んだのであった。




