39「皆さん。そろそろお風呂にしましょうか」
「皆さん。そろそろお風呂にしましょうか」
夕食を食べ終え、ダイニングルームでくつろいでいると、クリスティーナさんが僕達に向けて言った。
「ただあいにく、男性用と女性用とで分かれているわけではありませんので、混浴で入って頂くような形となります」
「まあ、そうでしょうね」
流石にみんなと一緒に入るわけにもいかないので、僕が率先して答える。
「じゃあ、入浴時間を分けますか。僕は全然後からでもいいですけど……」
「何を仰っているの? 神奈月さん」
クリスティーナさんは何故か呆れたように半眼で僕を見ながら、
「皆さんで一緒に入ればよろしいじゃないの。共に汗を流し、共に身体を洗い、共に湯に浸かる。これもまた、交友の証ですわ」
「いやいや。そういうわけにはいかないでしょう」
「なぜですか? 一緒に入った方が時間も短縮できるし交友も深まるし光熱費もかからないし。一石三鳥ではありませんか。それとも神奈月さんは、アリサと一緒にお風呂に入りたくないとでも?」
「ち、違いますよ! あ……違うんですけど……そうじゃなくて!」
「あたしは賛成よ!」
僕がクリスティーナさんの詰問にうろたえていると、ほみかが右手を挙げて、
「だって、男女で分かれてないんでしょ? だったら、仕方ないじゃない。『郷に入っては郷に従え』って言うし。いやー、あたしは変態バカ兄貴と一緒にお風呂だなんてごめんだけどねー。まあ、バカとはいえ家族なんだから問題ないっしょ!」
「あら。ほみかさんはお兄さんと一緒にお風呂に入ってもいいと仰るのね?」
「えへへ……そうです。いや、勘違いしないでくださいね! あたしは別に、バカ兄貴と一緒に入りたいからじゃなくて、ただ単に仕方ないから……」
「分かりましたわ」
慌てて言い訳をするほみかの言葉を遮って相槌を打つクリスティーナさん。
「それでは、りおんさんは? あなたは、お嫌かしら?」
「わたしも大丈夫ですよ!」
りおんは一切の躊躇も見せず、輝くような笑顔で言い切った。
「だって、クリスティーナさんの言ってることが全部正しいんですもの。別々に入ると時間が勿体ないですし。合理的な考えだと思います」
頬を紅潮させ、ハアハアと荒い息をしながら合理性を強調するりおん。
ていうか、ほみかはともかくりおんと一緒にお風呂は流石にマズくないか? りおんて簡単に性欲のタガが外れるし。お風呂場でヤンデレ病を発症されでもしたら、瞬く間に襲われそうなんだが。
「そう。それで、アリサは?」
「……私も問題ありません」
クリスティーナさんに問いかけられ、アリサもハッキリと同意する。
「……お風呂はみんなで入った方が楽しいとのお母さまのお考えはもっともです。それに、神奈月さんだけ仲間はずれだなんてありえませんし」
「なるほど。分かりました」
アリサの返答を聞いて、クリスティーナさんは満足そうに微笑む。
「それでは、あすかさんはどうですか?」
「……わたくしは、誠に残念ながら遠慮させていただこうかと……」
「えっ、そうなの?」
問い返したのは僕だ。こう言っちゃなんだけど、あのあすかが僕と一緒にお風呂に入らないなんて、何だか意外だ。
「いえ、違います! 決して、お兄様とお風呂に入るのが嫌なわけではありませんわ!」
何をどう勘違いしたのか、涙目で必死に僕に訴えかけてくるあすか。
「ただ、今はその……体調が少し優れなくて! お風呂場で倒れてはお兄様にもご迷惑がかかると思っただけですわ! 本来ならばお兄様のお背中をお流しするのがわたくしの努めなのですが……誠に申し訳ありません!」
(体調が悪いというのは嘘です。わたくしも……お兄様と一緒にお風呂に入りたいです! ……でも、そうすると見られてしまいます。わたくしの、醜い身体を……)
「あ、あすか……」
共感性症候群により、あすかの言う「体調不良」は嘘だと分かった。
その理由については、拒絶の色が強いため僕でも読み取ることは出来ないが。
しかし、なぜだ?
醜い身体って言うけど、あすかは服の上からでも容易に分かるくらいスタイル抜群だぞ? それに、ほみかやりおんやアリサまでもがお風呂に入るのに、あすかだけが参戦しないなんて。どうにも腑に落ちない。
「あ、じゃ、じゃあ……私も不参加で」
と言ったのは、大人しくみんなの話を聞いていた立花さんだ。
「皆さんはお知り合い同士かもしれないですけど、私はその、神奈月さんのことあまりよく知らないですし、その、やっぱり恥ずかしいです……。お風呂は後でいただくとして、私は雪ノ宮さんとお話でもしています」
「はい、分かりましたわ。それでは、神奈月さん、ほみかさん、りおんさん、アリサ。まずはこの四人で温泉に一緒に入っていただくということで。よろしいですね?」
「全然よくありませんよ!」
僕はたまらず大声を上げた。
しかし何だね。実の娘をクラスメートと混浴させる母親がどこにいるかね。
もちろん、本当の本音を言うならば、僕だって彼女達と一緒に温泉に入りたい。というか誰だってそうだろう。
「やっぱり僕は止めておきますよ。クリスティーナさんが何と言おうとも。まずいものはまずいですよ。裸で一緒にお風呂に入るなんて……」
僕は煩悩を断ち切るように首を振りながら言った。今回のキャンプはそういうことが目的じゃないし。ただみんなで美味しいご飯を食べて、ゆっくり温泉に浸かる――そんな普通の喜びを味わいに来たのだ。
「裸? 何を仰っているのかしら?」
僕の言葉に、クリスティーナさんは意地悪い微笑を浮かべた。
「裸でだなんて、一言も言っておりませんよ。温泉には、みなさんで一緒に入って頂きます。――ただし、『水着』でですけど」




