37「と・に・か・く。アリサのこと、頼みましたよ?」
僕らは玄関を出てすぐのロビーに荷物を置くと、外に出た。
クリスティーナさんに案内され、広大な庭へ。
「用意の方はあらかた整っておりますの」
ふかふかの芝生の上には、木のテーブルと椅子が並べられていた。
テーブルの上には食器や食材が、テーブルの横にはグリル台が設置されている。
「皆様の為に、張り切ってご用意させて頂きましたの。どれも産地直送の上質な食材を揃えておりますが。……皆さんのお口に合うといいのですけど」
クリスティーナさんはそう言って、テーブルの上に並べられた食材を指差した。
「おーっ」と僕らは声を上げる。
バーベキューの主役である肉は霜降がのったジューシーな牛肉を筆頭に、おそらくは最高級部位であろうさらりとした油の豚肉、さらにはしっとりとした柔らかさの鶏肉などが、これでもかというほど皿に盛り付けられていた。
肉だけではない。伊勢海老、アワビ、ホタテ、サザエ、大アサリなどの特上の海産物が、新鮮なままで置かれていた――のと同時に、八百屋さんでも売ってないようなフレッシュな野菜が、よりどりみどりとカットされた状態で積んであるのも嬉しい。いやがおうにも、僕らのテンションも上がってしまうというものだ。
「ジュル……美味しそう! 早く食べたい!」
「こら、ほみかちゃんたら……。よだれなんか垂らして、お行儀が悪いわよ? レディは、こういう場所ではきちんとしてなきゃ」
「……いいんですよ、りおんさん。皆さんに喜んでもらうために準備したんですから。ほみかさんも、いっぱい食べてくださいね?」
「それにしても、凄いですねえ。雪ノ宮さんなんかは、こういうのっていつも食べてらっしゃるんですか?」
「わたくしが普段食べているものは、普通の食事ですわ。といってもスーパーなどで売ってるものではありませんけども。雪ノ宮の名を継ぐものとして危険なことのないようにと、安心と安全を重視したものが出されております」
と、ほみか、りおん、アリサ、立花さん、あすかの会話。
感想は人それぞれだが、共通してるのは皆テンションが高いということだ。
「それでは、アリサ。火を起こしてもらえるかしら?」
「……はい、お母さま」
クリスティーナさんに呼ばれ、アリサがグリル台の前に立つ。
着火剤を適量、目皿の上に置く。
その上に積まれた木炭に、ガスライターで火をつける。
あとは、うちわで漕ぐだけ。まあ簡単かなとは思ったけど、意外とアリサはもたついていた。うちわの風が弱すぎて、火が十分に燃焼できていないようだ。
「あらあら、アリサったら下手ねえ。そんなことでは日が暮れてしまうわよ?」
「……すみません、お母さま」
一生懸命うちわを漕ぐアリサ。すると、クリスティーナさんは何故か僕の前まで歩いてきて、
「神奈月さん。黙って見ているおつもり?」
と、コッソリ僕に耳打ちした。
「え、何がですか?」
「何を仰っているの、神奈月さん。ここは男として――」
クリスティーナさんは小声でひそひそと、
「男の力強さを見せ付ける良いチャンスではありませんか。アリサは勉強の成績は優秀ですが、こうした力仕事は少しも出来ません。そこで、『やあ、アリサ。困っているようだね。僕でよければ、代わってあげるよ』と言って助けてあげれば、アリサは曹操から赤兎馬を貰った関羽の如く喜ぶことでしょう」
「ああ、そういうことですか。例えはちょっとよく分からないですけど」
「アリサはもうあなたにベタ惚れですが、どうにもあの子は消極的すぎます。なので、神奈月さんのリードが必要なのです」
「い、いや。リードって言われても……」
「アリサはウブな子です。困っている所を男性から助けてもらうというベタベタな展開でも、すぐときめいてしまうでしょう。それが神奈月さんなら尚更です」
「そ、そうですかね……」
「と・に・か・く。アリサのこと、頼みましたよ?」
そう囁くと、クリスティーナさんは僕の背中をパアンと叩いて押し出した。
うーん、でもなあ。今回のキャンプって、ことりをどうするかっていう重要な目的があるわけで、僕としてはただ遊びにきたわけではないんだけも。
まあいいか。
ここの所アリサにはキャンプに連れていってもらったり、あすかの身辺調査をやってもらったりとお世話になりっぱなしだし。それにクリスティーナさんの言うとおり、困っている女の子を放っておくというのは、男が廃るってものだ。
「……うう。全然火が強くならないです」
「アリサ! 代わるよ!」
僕はそう言うとアリサの元まで歩き、うちわを譲り受けるのであった。さあ、バンバン炭を扇ぐとしますか!




