32「ここじゃ何だから。近くの喫茶店にでも行こうか」
……六時間目のチャイムが鳴り、放課後の教室。
教師が去ったあと、クラスメート達はこの後遊ぶ予定で一気に騒がしくなる。
「ねえ」
僕は、隣の席のアリサに話しかけた。
「このあと、何か予定ある?」
「……このあと、ですか?」
(……特にありませんけど)
「なければ、僕にちょっと付き合ってほしいんだけど。大事な話があるんだ」
「……大事な、話?」
(……大事なお話ってもしかして……プロポーズ!? ……のはずないですよね。でしたら、何でしょう、一体……)
アリサは表情を強ばらせ、緊張してる様子。
まあでも、心の声でこのあと予定がないことは分かってるんだけど。わざわざ時間を取らせるのも申し訳ないし、一応確認だけでも取っておくか。
「そう。大事な話なんだけど、ダメかな? ダメだったら、断ってくれてもいいんだけど」
「……!」
僕がそう言うと、彼女はガタッと椅子から立ち上がり、大きな声で、
「……ぜ、全然ダメじゃないです! むしろ暇です! 退屈で退屈で死にそうでした! 喜んでお付き合いさせて頂きます!」
と叫んだ。ふーっ、ふーっと荒い息を吐き、顔を真っ赤にして。周りの騒々しい生徒達も、流石に何事かとこっちを見る。
注目を集めてしまったので僕は、出来るだけ声を潜めて、
「あ、ありがとう。じゃあ、ちょっと時間もらうよ」
「……はい。ところで、その。お話というのは?」
「ああ。それはね」
僕は、おずおずと尋ねるアリサに向かって、人差し指を口元に当てながら、
「ここじゃ何だから。近くの喫茶店にでも行こうか」




