20「本当に来てくれたのね、透。ああ、夢みたい……!」
雪ノ宮邸。
邸宅というよりはお城といった方が的確なお屋敷に、僕は今車で向かっている。
ちなみに車種は、映画で出てくるような長いリムジン。
まあ雪ノ宮からのお出迎えだから別に驚きはしないけど。それでもフカフカのソファーのような座り心地のシートにはマッサージ機能がついていて、目の前にはテレビが視聴できるタブレット、さらには冷蔵庫まで完備しているのには驚いた。いや、ここはホテルかってぐらい。
というわけで乗り心地は最高なのだが――今日会いに行くのが僕の生き別れになった母親、つばめさんだと思うとやはり気が滅入ってくる。
そんな憂鬱な気持ちを誤魔化すかのように座席を上下にリクライニングさせていると、流石リムジン。あっという間に目的地の屋敷へと辿り着いたようである。
そう、それはまさに「お屋敷」だった。
しかも、かなり馬鹿でかい。
僕の家が、丸々十個ぐらいは入ってしまいそうに感じた。それはこの屋敷から放たれる重厚なオーラによるものだろう。
他を圧倒する存在感がある巨大な堀。門をくぐると、高そうな錦鯉がウジャウジャ泳ぐ大きな池。生け垣には、立派なイヌマキ――といった古風で情緒ある雰囲気を見ていると、戦国ゲームの中にでも迷い込んだ気分になる。
「「「「いらっしゃいませ、神奈月様」」」」
土間で靴を脱いでると、着物を着たいかにもTHE・女中といった女性たちが出迎えてくれた。
正直な所を言うと、この家は僕には合わない。今の家の広さに慣れきってるというのもあるけど、とにかくこの家はデカすぎる。こんな格式ばったお屋敷で暮らしていたら、僕なんか数日と持たないだろうに。よくあすかは平然としてるよ。
いや、もしかしたら。こんな家で暮らしているからこそ、ああいう杓子定規な考え方に育ったのかもしれない。
なんてことを考えてると。
長い、長ーい廊下を渡って、ようやく客間に通される。
突然現れた生き別れの母親に対して、どういう態度をとればいいのかまだ決めかねているけど。それでもあすかのことは放っておけないし、ことりはもっと放っておけない。意を決して、障子を開けると、
「透!」
いきなり部屋の主に、ガバッと泣きながら抱きつかれた。
青紫の和服を着て、髪をキッチリ結い上げた、その女性は。
「本当に来てくれたのね、透。ああ、夢みたい……!」
「ちょ、苦しい。苦しい」
雪ノ宮つばめ。
僕をこの家に招いた――そして、僕の実の母である。
「透。透透透……!!」
こんな堅苦しい屋敷の中でどんな歓迎の仕方だよ――と思ってしまうほど、つばめさんは僕をキツく抱きしめ、その豊満な胸の中に僕を埋める。
しかも何か良い香水つけてるらしく、上品で清楚な香りが鼻をくすぐった。
というか、うん。この人会うたびに抱きついてくんの?
そうツッコミたかったんだけど、つばめさんは大粒の涙を流しながらさめざめと泣いているので、ツッコむにツッコめない。恥ずかしいので、すぐに離してくれるといいんだけどなあ――そんなことを心の中で考えながら、僕はつばめさんに抱かれ続けた。




