12「うん。何だか分かる気がするよ」
そして、あすかに連れられ、僕は近所の公園に。
園内には、遊具で遊ぶ幼い子供、ジョギングをする若い男女、そしてその風景をスケッチする年老いた画家など、多種多様な人たちがいた。
「わたくし、公園が好きなんです」
そんな風景をぼーっと眺めながら、あすかはポツリと言葉を漏らす。
雪ノ宮あすか。十五歳。
今日のあすかは、純白のセーラー服を着ていて、ブルーの襟に藍色のスカーフ、紺色のスカートを着崩すことなく、綺麗に着用していた。一方あすかの容姿はというと、中学生とは思えないほど大人びた雰囲気である。
特に目を引くのは瞳と髪で、エメラルドグリーンの綺麗な瞳と、鮮やかな青色のロングストレートの髪の色は、彼女の神秘性をより一層高めている。要するに、特上の美少女ということだ。整った目鼻立ちや均整の取れた手足も合わさって、三次元の人物というより、絵本の中のお姫様という感じ。こんな子が僕の実妹だなんて、いよいよ信じられないほどだ。
「家や学校にいると、誰もがわたくしに対して遠慮をしたり、持ち上げようとしてきます。しかし、ここなら誰もわたくしのことなど気に留めようともしません」
「あー、なるほどね。有名人とかに多そうな悩みだね」
「公園には老若男女、あらゆる人たちがいます。そこにはそれぞれの価値観、それぞれの生活、それぞれの人生があります。その枠組みの中では、わたくしなどほんのちっぽけな存在でしかないと自覚できて、とても癒されるのです」
「うん。何だか分かる気がするよ」
「それは重畳でございます。ところで……」
園内をぼんやりと眺めていたあすかは、急に真面目な顔で僕に向き直り、
「……本日、お兄様をお迎えに上がったのは、ご相談したいことがあるからなのです」
「うん。やっぱりね」
というより、それしかないよね。
と、その前にあすかの紹介。
目の前にいる雪ノ宮あすかは、DNA鑑定もされた正真正銘僕の妹だ。しかし、今は別々の家で暮らしている。それには、複雑な事情があったからだ。
その「複雑な事情」を簡単に説明すると。
・今から十七年前、実父と実母との間に僕が生まれる。
・三年後、実母が実父の暴力に耐えかね、家を出る。その後、実父は死亡。
・僕は、今お世話になってる「神奈月」家に引き取られる。
・それからすぐ、家を出た実母は「雪ノ宮」家に嫁ぎ、あすかを産む。
……ザックリ、ほんとにザックリ説明すると、こういうことになる。ちなみに、僕の実母である雪ノ宮つばめの現夫は最近になって死亡しており、財産分与とか考えると更に面倒なことに。
「……お兄様? お兄様、大丈夫でございますか?」
ハッと気がつくと、あすかが心配そうに僕の顔をのぞきこんでいた。
僕はあわてて、
「あ~、ごめん。ちょっとボーッとしてた」
「そうですか。申し訳ありません。お疲れのところ急にお呼び立てして……」
(お兄様の心労を増やしてしまうとは、この雪ノ宮あすか、一生の不覚。ただでさえ、お兄様には並々ならぬ苦労をおかけしているというのに。ここは、ただちに切腹をして謝罪の証とするしか……)
「あー言っておくけど。ほんとに『ちょっと』だからね。僕はいつもぼーっとしてるから、この程度の『ぼーっ』は『ぼーっ』の内に入らないくらいだよ。だから、この程度のことであすかが気に病むことはない。分かるね?」
「は、はい。勿論でございます、お兄様……」
(お兄様にこれ以上ご負担をおかけするくらいなら、あすかは喜んで死を選ぶ所存でした)
これなんだよなあ。僕は心の中でため息をつく。
あすかって、持ち前の礼儀正しさと名門の生まれなことから、武士かって言うくらい古風な上、信じられないほどネガティブなんだよね。
「まあ、雑談はこれぐらいにして、そろそろ本題に入らない?」
「……そうですわね。もう日も遅いことですし」
(申し訳ありませんお兄様。わたくしの段取りが悪く、お兄様の貴重なお時間を無駄に。あとで座禅をしながら反省することとします)
心の中で、軽くネガティブ発言を呟くあすか。座禅くらいならまあいいけど。
「お兄様にご相談したいことというのは、わたくしの身体についてなのです」
「えっ、そうなの? どこか、体調でも悪いとか?」
「いいえ、そういうわけでは……。いえ、そうですね。そうかもしれません」
「なんだ、だったら遠慮なく言ってよ。僕に出来ることなら、協力するからさ」
「左様でございますか! それでは、お話させて頂きますが……」
僕の言葉に、あすかは嬉しそうに表情を弾ませた。
この反応を見て、僕は内心嫌な予感がしていた。間違っても「最近だるくて……」とか、「眠れないんです~」とかではないよな。もっと真剣な、そして悲愴な悩みというか……となると、もうアレのことしかないよね。
うーん。やっぱりこの問題とは避けて通れないかあ。
「わたくしの悩みというのは、最近妙に記憶が抜け落ちる時間があるということなのです。そして、そのたびに思うのです。わたくしの心には、何か危険な人格がひそんでいるのはないかと……」




