表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕だけに聞こえる彼女達の本音がデレデレすぎてヤバい!  作者: 寝坊助
デレ1~妹と幼馴染のバトルがヤバい!~
12/217

12「歌えばいいんでしょーっ! 歌えばー!!」

 ここは学校からほどよく近い街中のカラオケ店。それぞれの好きなソフトドリンクが入った、精密な細工のグラス。煌びやかなライト照明。モダンなガラステーブルもあって、カラオケ店というよりはお洒落なバーといった感じだ。


「――さあ、誰から歌う?」


 僕は曲を入れるタッチパネルの機械を、三人の前に置いて尋ねた。


「ふん! 言いだしっぺなんだから、バカ兄貴から歌いなさいよね! これ、あたしの歓迎パーティなんでしょ!?」


(ほみか、トップバッターなんて無理無理! まずお兄ちゃんの歌から聞きたいの! お願い、ほみかのためにラブソング歌って♡♡♡♡♡)


「えっと……わたしも一曲目はちょっと、かな。緊張するもの」


(わたしは、透ちゃんとデュエットがいいな! すっごくラブラブなやつ♡♡♡♡ 一緒に腕組みながら歌うの! 白輝さんとほみかちゃんの歌はどうでもいいから)


「……ルーム料金もったいないですし、誰も歌わないなら私が歌いますよ?」


(……全然自信ないですけど、最後に回されるよりはマシです)


 僕の問いに、ほみか、りおん、アリサさんの三人が答える。


「お、アリサさんが歌うんだね。じゃあ、はい。マイク」


 僕がマイクを差し出すと、アリサさんは少し強張った表情で受け取った。

 そして、曲を入力すると歌いだした。


「へえ……」


「すっごーい……」


「むう……」


 僕、ほみか、りおんの順に、それぞれ感嘆の声を漏らす。

 アリサさんが歌ったのは洋楽だった。ためらってばかりいないで、あるがままの自分を見せていこう。そんな歌詞を、透き通る綺麗な声で見事に歌い上げていた。


(でも、どこか寂しげなんだよな……。あ、そうか……アリサさんは、自分と重ね合わせて……)


 歌詞の内容と、アリサさんの現状がそっくりなことに気づく。歌詞中の主人公は自己主張を上手くできない。アリサさんも、同じく本当の自分をさらけ出すことが出来ないでいる。いや、それはアリサさんだけじゃない。ほみかも、りおんも。そして、僕も……。

 

 アリサさんが歌い終える。

 点数は八十九点。上手ではあったんだけど、声量がなかった分マイナスされたようだ。


「ふうっ――。こんなものでしょうか……」


(……ど、どうでしたか? 神奈月さん。私、下手じゃなかったでしょうか?)


 余裕そうな口ぶりながらも、不安そうな心情を吐露するアリサさん。

 そんな彼女に対して――僕は惜しみない拍手を送った。


「凄いよ! 素直に感動したよアリサさん! こんなに歌が上手かったなんて……いや、歌だけじゃない。歌に込めるアリサさんの気持ちも伝わってくるものがあったよ!」


「……別に、気持ちなんて込めてません」


(あ……ありがとうございます…………そんなに褒めてもらえるなんて、嬉しくて恥ずかしくて死んじゃいそうです)


 そう、はにかみながら答えるアリサさんは、とても美しかった。

 ライト照明に映し出された白い肌は、まるで雪の結晶を連想させたからだ。それでいて、腰元まで垂らされた真っ白のストレートヘアーは、オーロラのように吸い込まれそうな輝きを見せている。同じ人類とはとても思えなかった。


「と、透ちゃん!」


 僕のことを睨みつけながらりおんが叫ぶ。

 その姿に、僕は危機感を覚えていた。ツンデレ病やクーデレ病よりも、ヤンデレ病は危うく繊細な病気であるからだ。僕が返事を返す前に、りおんは僕から機械を奪って曲を入力した。


「次は、わたしが歌うね!」


 と、ポカーンとする僕を置いてけぼりにして歌いだすりおん。

 その歌声だが――――


「うっそ。りお姉うますぎ! プロ並みじゃん!」


 ほみかが、りおんの歌に聞き惚れている。

 ほみかだけじゃなく、アリサさんも、そして僕もだ。


「これって……ラブソングか」


 僕は呟いた。歌詞は、片思い中の彼に告白したいけど出来ない、という王道のバラードだった。歌そのものは滅茶苦茶上手かった。聞くのが心地よいくらい、真っ直ぐに通る声。しかし、それ以上に心に響くものがある。


 ――りおんは、僕だけを見て歌っていたから。

 ほみかやアリサさんには一切目もくれず、ひたすら僕だけに熱視線を送っている。顔をほんのりと桜色に紅潮させながら、白い喉をビクビクッと震わせながら……。


 これはきっと僕だけに向けられた歌。

 それが、少し気恥ずかしかった。


「すっごーい! りお姉歌上手いんだね! 今度コツ教えてよ!」


「うふふ。いいよ~」


「……何ていうか、迫力が凄かったです」


 と、曲が終わった後でキャアキャアはしゃぐ女子達。かく言う僕も、歌い終わったりおんに「どうだった? どうだった?」としつこく聞かれ、「最高でした」と何度も言わされたのだが。


 ちなみに、りおんの点数は九十六点だった。音程、抑揚、ビブラート。全てに置いて高水準だったようだ。

 さあ、あと歌ってないのは僕とほみかだけだ。僕はほみかに視線を送ると――


「な、何よ! 何見てんのよバカ兄貴! ま、まさかあたしにも歌えとか言うんじゃないでしょうね!?」


(あううううっ。ほみかダメええええ。自信なくなっちゃったあ。この二人の後に歌える自信ないよう。タンバリン叩くから、許してお兄ちゃああああああん)


 うん、妹よ。本音も建前も両方情けないぞ。


「いいじゃないか、別に。ほみかの歌、お兄ちゃんも久しぶりに聞きたいな」


 僕がそう言うと、


「わたしも聞きたいな、ほみかちゃん。今日の主役はほみかちゃんなんだし、沢山歌わないと損だよ?」


「……そうです。私達も歌ったんですから」


 という、りおんとアリサさんからの援護射撃があった。

 おっ、これは面白くなってきた――と、意地の悪い笑みがこみ上げてきた。

 僕だけならいざ知らず、この二人に勧められては、流石のほみかもやらざるをえないからだ。


「……わかった、わよ、歌えばいいんでしょ」


 ほみかは覚悟を決めたようだ。りおんからマイクを受け取ると、スーッと息を吸って呼吸を整えた。

 そして、ほみかはマイクに向かって大声で叫んだ。


「歌えばいいんでしょーっ! 歌えばー!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ