8「りおんは、バカだな」
「透ちゃん。本当にごめんなさい!」
平身低頭。
ベッドの上で正座し、僕に頭を下げるりおん。
「……まあ、過ぎたことだからもういいんだけど」
僕は頭を掻きながら答える。
「本当に、こんなことはこれっきりにしてくれよ? 今回助かったのは奇跡みたいなものなんだからね?」
「ううう、ごめんなさあい」
りおんは、今にも泣きそうな顔で、
「わたしね、透ちゃんが白輝さんと式場でキスした時から、ヤンデレ病が発症してたみたい。もちろん、透ちゃんは白輝さんを助けるために結婚式を中止しようとしてて、それ以上は何もないんだって、頭では分かってたんだけど。それでも、自分の気持ちが抑えられなくなったの。ほんとにごめんなさい」
「……やっぱり、原因はそこか。りおんも分かってるじゃないか。アリサさんは僕のクラスメートで、大切な親友だし、憎からず思っている。でも、だからってそこまでヤキモチを妬くことはないだろ?」
「……嘘。白輝さんにキスされた時、透ちゃん全然嫌がってなかったもの。それを見て、どうしようもなく不安な気持ちになった。ああ、わたしなんかもういらないんだって。そう思うと、白輝さんが憎くて憎くて仕方なくなっちゃったの」
りおんの独白に、僕はため息をつく。
「りおんは、バカだな」
「ふえ? わ、わたし、バカ?」
「うん、バカだよ。どうしてそう、結論を急ごうとするんだ? 僕は、りおんを捨ててアリサさんを選んだわけじゃない。もちろん、アリサさんが嫌いなわけでもない。今の僕は、答えを出すつもりなんかないんだよ」
僕はほみかと、そしてあすかの姿を思い浮かべた。
「何しろ、他に立ち向かわなきゃならないことが山ほどあるからね。それが片付かない限り、僕は誰も選ぶつもりはない。だけど、全ての問題が解決したら、僕は自分の心に整理をつけようと思うよ。それは、約束する」
「心の整理? じゃあ、わたし達の中から誰か一人を選んで、付き合ってくれるってこと?」
(と、ととと透ちゃ――ん! ついに、浮気相手を捨てて本妻であるわたしの元に戻ってきてくれるんだね? 嬉しいよお、わたしの答えは、もうOKだからね!)
と、心の中で都合のいい解釈をするりおん。
僕は、そんな現金な幼馴染を前に苦笑しつつ、
「……勘違いはしないでほしいんだけど、あくまで心の整理をつけるってだけだからね? 百%りおんを選ぶとは限らないし、もしかしたら誰も選ばないかもしれない。要は、落ち着いたらその辺をキチンと考えるってことだから」
と、釘を刺しておいた。
じゃないと、また暴走してしまうかもしれないしね。そしたらまたいつ刃物を持ち出すか分からないし、言うべきところはキッチリ言っておかないといけない。
「うん、大丈夫だよ透ちゃん! ちゃんと分かってるから!」
(うふふ、大丈夫だよ透ちゃん……。監禁して毎日愛を囁いて、わたしのことしか見えなくしてあげるから。それに、万が一わたし以外の誰かを選んだら、透ちゃんを殺してわたしも死ぬから!)
気持ちのいい返事とは裏腹に、心の中では物騒なことを企むりおん。
これだけ元気ならもう大丈夫そうだな、と僕が考えたのも束の間。りおんはフラフラとベッドの下へと倒れそうになり、
「あう~、クラクラする~」
僕はその体を慌てて抱き止めると。
ベッドの上に横たわらせ、布団をかけてあげた。
「……おいおい。言っとくけど、溺死寸前だったんだからね? 幸い後遺症はなさそうだけど、これ以上無理しちゃダメだよ」
「うううごめんなさい。透ちゃん。迷惑ばっかりかけて。ほんとにごめんなさい」
「わかったから。いい加減に大人しくしてくれ。もうすぐ、りおんのおじさんとおばさんが迎えにきてくれるはずだから。僕はこれで帰らせてもらうよ?」
「えーっ? 透ちゃん、帰っちゃうのお?」
(嫌だよお! せっかく透ちゃんと二人きりなのに、離れ離れになっちゃうなんて! パパとママなんて追い返しちゃっていいから、透ちゃんとずっと一緒にいたいよお!)
可愛らしく不満の声を上げる一方で、心の中ではご両親を邪険に扱うりおん。
「帰るよ。流石に今日は疲れたからね。僕も布団に入って休みたいんだよ」
「どうしてもダメ?」
「ダメって何が?」
「パパとママが来るまででいいから、そばにいてもらいたいなあ……なんて」
(帰さないよ! 二人きりな上にベッドまであるんだから! 赤ちゃんが出来るまで回数無制限の生○ックスをしてもらうよ!)
「うん……つまり、保健室に二人きりなのをいいことに、僕と交わって既成事実を作りたいと。そういうことだね?」
「えっ……! ち、ち、ち、違うよ! そんなこと考えてないよ!」
(あれっ何でバレたんだろ。顔に出てたのかな?)
両手をブンブン振りながら、本音を隠すりおん。
ていうか、そんなにテンパってたら、自白したのも同様なんだけどね。




