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僕だけに聞こえる彼女達の本音がデレデレすぎてヤバい!  作者: 寝坊助
デレ2~第2の妹登場!? クラスメートのお嬢様もヤバい!~
103/217

50「……私は、神奈月さんのことが大好きです……」

 あれから僕は、相当眠っていたらしい。

 僕が目を覚ました時に見えたのは、心配そうに上から僕を覗き込むアリサさんの顔と、目に差し込む赤い夕日だった。


「……あ、気づきましたか?」


 僕が起きたことを確認すると、アリサさんはぱあっと表情を明るくした。


「ああ……何とかね」


 反対に僕は。

 痛さと悔しさから、とても笑顔を見せる気にはなれず、パタリとふたたび頭を下ろした。


「あともう少しだったんだけどなあ……油断した。ごめん、アリサさん」


 今の僕は。アリサさんに膝枕をされていた。

 まるで高級な枕に頭を埋めているような心地よさだった。アリサさんの白くてスベスベした太ももに膝枕をされるのは、まさに男冥利に尽きる。しかし今の僕には、そんな喜びに浸る気にはなれなかった。


「あいたた……。ちょっと口を動かすだけで、顔中めちゃくちゃ痛いよ。ちくしょう、青木ヶ原め。調子に乗って散々殴りやがって……」


 僕は、自分の顔をそっと触ってみた。

 顔中腫れ上がっていて激痛が走ったが、血はほとんどついてなかった。

 不思議に思い横を向くと、アリサさんが手にしているハンカチに血がべっとりとついていた。


「ああ、拭いてくれたのか。ごめんね。ハンカチ、駄目にしちゃって」


「……そんなこと、なんでもないですよ」


 アリサさんは申し訳なさそうに言った。

 そして、今にも泣き出しそうな潤んだ目で、


「……私がもっと早くあの人を止めていれば、こんなことにはなりませんでした。でも、私にはできなかった。恐怖で体が動きませんでした。私は、卑怯者です」


「いや、誰だってそうだよ。気にすることはないさ」


「……気にしますよ。神奈月さん、こんなに傷だらけになってるんですから」


「……そんなに酷いの? 僕の怪我」


 そんなに深刻そうな顔で言われると少し怖くなってきた。

 僕の不安を察したのか、アリサさんはフルフルと首を横に振りながら、


「……あ、いえ。青アザと内出血が酷いですけど、骨や歯が折れたりはしてないみたいです。二、三日もあれば腫れも引くと思います」


「そっかあ」


 怪我の具合が酷くないことを確認し、安堵のため息をつきながら、


「本当にごめんね。あともう一歩でアリサさんを助け出せたのに。肝心なところでポカやっちゃって」


「……どうして神奈月さんが謝るんですか。あなたは、私のせいでこんな目に合ってるんですよ? 少しは、私のことを恨もうとは思わないんですか」


「僕は、自分の意思であいつと戦ったんだ。アリサさんのせいなんかじゃないよ」


 僕は笑って、


「僕には、金も地位も名誉もない。青木ヶ原の言うとおりさ。だから拳を交えることで、青木ヶ原に負けを認めさせてアリサさんを救い出そうとした。力づくでね。それは、平和的でも根本的解決でもない。僕のしたことは、青木ヶ原と何の変わりもないんだ」


「……そんなことないです。神奈月さんは、正々堂々と戦いました。卑怯なことをしたのは、あの人の方です。砂をかけたり、タックルをしたり。酷い人だとは思っていましたが、あそこまで酷いとは思いませんでした」


「それでもさ。約束は約束なんだ。男と男が一度交わしたからにはね。青木ヶ原が卑怯な手を使ったからといって、僕までルールを破っていいことにはならない」


「……そんなのおかしいです」


 アリサさんは尚も食い下がり、


「……どうして、ですか? どうして私なんかのために、そこまでするんですか? 最初から勝ち目なんてほとんどなかったのに。ましてや、あの人が約束を守る可能性なんて0なのに。どうして、ただのクラスメートに過ぎない私を? そんなことまでする価値なんかないじゃないですか。それなのに……」


「そんなことないよ」


 僕は、アリサさんの言葉を途中で打ち切った。

 アリサさんは今、とてつもなく後悔と反省をしている。だから、安心と気楽さを感じる声で、


「アリサさんただの友達じゃない。親友だ。アリサさんとは今まで、一緒にお昼を食べたり、一緒に帰ったり、一緒に遊園地に行ったりもした。アリサさんからは楽しい思い出を、いっぱいもらってるんだ。少なくとも僕にとっては、大切な宝物だ。それがアリサさんが苦しい時だけ見てみぬふりをするのは、本当の友達って言えるのかな? 違うよね。僕はただ、わずかな可能性でもいいから君を助けたかっただけだ……」


「…………」


 アリサさんは無言で、僕の顔をじっと見つめていた。

 おそらく、だが。殴り合いなどしなくても、もっと効率のいい解決方法は幾らでもあっただろう。例えば、雪ノ宮の家に頼んで結婚を妨害してもらうとか。


 しかし、僕にはそれが出来なかった。

 アリサさんは僕の友達だから、僕の力で助けてあげたかったからだ。


 ふいに、アリサさんが口を開いた。


「……神奈月さん」


「ん。なに?」


「……あなたは、バカです」


(……私なんかのために、こんな無茶をして)


「え?」


「……他人のために、勝てない相手に戦いを挑んで。こんなにもボロボロになって。それは、愚か者のすることですよ?」


(……理解ができません。私は、あなたのために何もしていないのに、どうしてここまでしてくれるんですか?)


「ああ、そっか。いや、特に理由はないんだけど……」


「……だから……」


(……でも……)


 一瞬の空白。

 まるで世界が止まってしまったような、静かで穏やかな沈黙が続いた。

 

「――アリサさん?」


 僕がそう聞き返すと。

 まるで、たんぽぽの綿毛を運ぶそよ風のようにふわりと。

 儚げな笑みを浮かべて、アリサさんは呟いた。


「……私は、神奈月さんのことが大好きです……」

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