表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

92/120

第92話

「むぅ、どうやったらさ、フィアみたいに大きくなるの?」

「ん~、別に何かした覚えもないし、それに……」


 斜めに視線を()らして、考えるような仕草(しぐさ)を取った司祭の娘は “走ったり”、“階段を昇降したり” する際に胸が揺れて痛いと(なげ)く。


 他にも後ろで(ボタン)を止める服が着にくいとか、ドレスだと生地の前だけ持ち上がって足元の(たけ)が前後で微妙になるなど、良いことばかりじゃないとリィナを(なだ)めるも、持たざる者の理解は得られない。


「なにそれ、自慢なの? 上から目線の自慢だよね、修正してやる!!」

「うきゃあ、ちょっ、やめなさい!」


 九死に一生を得て以降、身体的な成長に乏しい半人造の少女(ハーフホムンクルス)(いきどお)り、いやらしい手付きで豊かな乳房を執拗に揉み込んでいれば、魔の手より逃れようと足掻(あが)いた幼馴染の肘が自らの胸元に突き刺さった。


「痛ッ!? 暴力反対! 私がイジメられてる、助けて!!」

「いや、自業自得なのは一目瞭然だろう」


「あはは… いつも、こんな感じだと大変でしょうね、お客様」


 何の寸劇を見せられているんだと呆れつつも、年若い店番の娘が同情の混じった生暖かい眼差(まなざ)しで俺に微笑みかけてくる。


 そうでなくとも、専門店の雰囲気に居づらさを感じていたので、咄嗟(とっさ)の返事に困ってしまうと同時、場違いな自身の存在が商売の邪魔となる可能性に思い至った。


「……軒先(のきさき)で待つ、金銭は預けておくが、無駄(づか)いするなよ」


 一声掛けて、革製の小袋を整息したばかりのフィアに投げ渡す。


 緩い放物線を描いた金銀貨幣入りの(ぜに)袋は、難なく皿のように構えた彼女の両掌に収まり、じゃらりと金属音を鳴らして売り手の目つきを(かす)かに変えさせた。


「近頃は上下で一式(そろ)った蠱惑的な下着も増えていますし、お嬢様方に似合う良品を選んでみせますから、少しだけお待ちくださいな♪」


「ふふっ、今夜一緒に()せてあげるわ」

「もう、勝手に私を巻き込むのは駄目ですよ、リィナ」


 やや不満げに(たしな)めるも満更ではない様子で、こちらを(うかが)う司祭の娘に見送られ、瀟洒(しょうしゃ)な内装が(ほどこ)された店舗の外へ足を向ける。


 暮れゆく秋空に浮かぶ羊雲の群れをぼんやりと(かど)え、明らかに少しとは言えない時間を潰せば、自領の産物である亜麻色の大判紙に包まれた購入品を(たずさ)えて、ほくほく顔の二人がやってきた。


「こう、綺麗に(つつ)んでくれるのが嬉しいですね」

「多分、紙代もお値段に転嫁されているとは思うけど……」


 喜んでいる司祭の娘に水を差すほどでもないため、掘り下げずに軽くなった(ぜに)袋を受け取り、今月の残りは節制に(つと)めようと誓って(きびす)を返す。


 なお、建設中の製紙工場へ戻った時点で日は落ちており、現場の進捗(しんちょく)確認よりも先に併設された新居で(つや)やかな下着姿を披露されるという、何処か(しま)まらない王都での初日は(つつが)なく過ぎていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ