第91話
多少の思う事柄はあれど、手早く内見を終わらせて馬車の積み荷… と言っても、生活必需品は買い揃える想定なので、あくまでも旅人程度の荷物を皆で運び入れる。
取り敢えずの作業が片付いたところで、足りない合鍵の処遇について聞くと藪蛇だったのか、何やら三人一緒に商業区へ出掛ける次第となった。
「俺も工場建設の進捗を確認すべき、なんだけどな」
「ぶつくさ言わないの、ダーリン」
「街の中心地を見て廻るのも意味があります」
人の左腕に絡みついて身を摺り寄せるリィナや、僅かに離れて追随するフィアと街路を歩き、作業中の大工に聞いた最寄りの鍵工房へ向かう。
辿り着いた先の親方に “女連れでくる場所でもないだろう” と白い目で見られつつ、手持ちのひとつを渡すと彼は矯めつ眇めつ、様々な角度より眺めた。
「結構、煩雑で細かい模様のウォード鍵だが… この刻印を見る限り、うちの職人が造った代物のようだし、四日で複製品を仕上げてやるよ」
「どうやら、運が良かったようだ」
「ははっ、確率的には四分の一だぜ、狭い界隈の話だからな」
錠前を専門的に造る工房は少ないらしく、然ほど恵まれた状況と言えないものの、速やかに合鍵が受け取れるのはありがたい。
後で商取引を反故にされないよう、依頼人と請負人の双方が債権を持ちながら、債務も持つ慣習に基づいて少額の前金を支払い、符牒を受け取って屋外へ出た。
以上で用件は済み、散策がてら表通りに並んだ店舗の軒先を見流していれば、豪商が財力を示すために異国で買ったと思しき、獣人種の従僕が目に留まった。
「兎耳メイド、あざとい感じが半端ない」
「愛らしい見目が良い方向に働いているのか、いないのか……」
ぼそりと呟いた半人造の少女に頷き、大切に扱われていそうな兎人の少女を見遣るも、秘められた胸裏を知ることはできない。
ただ、綺麗に整えられた姿から、こちらも身内の服を新調する必要性に気づく。
地母神派の司祭であるフィアの法衣は万能だが、ざっくばらんなリィナの斥候装束だと、場にそぐわないことも多いはずだ。
(付き合いで誰かの屋敷に呼ばれる機会もあろうし、初期投資の範疇と割り切ろう)
そう判断して二人を連れ、若い女性向けの服飾店に入ったが最後、実に一刻ほども時間を奪われてしまう。
高級志向と趣味嗜好のどちらを取るか、愁眉を曇らせる現金な幼馴染に負けず劣らず、日頃はお洒落に無頓着な司祭の娘まで真剣な表情となり、近場の数店を梯子させられるという窮状に陥った。
さらに漸く其々の買い物が終わったと思えば、最後に立ち寄った店舗の隣が珍しい下着専門店というのもあり、両腕を掴まれた状態で引き摺られていく始末。
「ダーリン、こんなのはどうかな♪」
「ちょッ、人の身体を使うのはやめなさい!」
にんまりと嗤うリィナが背後から手を廻し、服越しに情熱的な赤いブラを当てているのはフィアの胸で、止め紐を引き絞ると平均より “たわわ” な果実が強調された。




