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第65話

誓約歴1260年5月初旬


 国境を跨ぐ街道付近に設営されたウェルゼリア領軍の陣地、その片隅かたすみで見つけた手頃な平岩に腰掛けて、王国の各地より届けられる救援物資の搬入作業を眺めていたら、現場指揮官の騎士侯が歩いてくる。


 想定外の事態が起きたのかと勘繰かんぐるも、柔らかい表情を浮かべており、特段の問題をかかえているような雰囲気ではない。


 先んじて顔を合わせたおり、格式ばった挨拶と申し送り事項の伝達だけに留めたことから、言及できなかった話題でもあるのだろう。


「いつぞやの魔物狩り以来ですね、ジェオ様。小箱の開錠では父が世話になったと、妻からの手紙で知らされております。ありがとう御座いました」


「いや、俺は何もしてないぞ?」

「ん… 頑張ったのは私、面白い構造の鍵だったし、良いけどさ」


 相手の死角となる裏側にて、岩の後ろ半分へ座り込み、こちらに背中を預けていたリィナがぼやく。


 もう一人の存在に気づいた壮年の騎士侯は位置取りを変え、動きやすさ重視で露出度高めな布鎧姿の少女を視界に収めた。


「冒険者殿も一緒でしたか、意識が向かなくて申し訳ない」

「相変わらず、騎士さんは堅苦しいね」


 苦笑しながらかすかに身動みじろぎするも、斥候の娘に姿勢を整える様子はなく、このままもたれた状態で会話に応じる腹積もりらしい。


 あまり宜しくないために毅然と立ち上がれば、唐突に支えを失ったことで、“うきゃあ” と可愛らしい悲鳴が聞こえてくる。


「うぅ、最近、ダーリンが冷たい、釣った魚に餌は与えない主義なの?」

「また語弊のある物言いを… あとで分からせないとな」


「ははっ、仲良いですね、お二人とも」

「「否定はしない」」


 俺の台詞を先読みして見事に引き当てたリィナがにやつき、どや顔を向けてきたのは平素の通りだが、知己ちきの騎士侯にまで生暖かい目で見られると居心地が悪い。


 そっと視線をらした先、遠からず英雄や傑物に成りそうな人物を見繕みつくろい、縁結びさせる教会の方針で専属司祭になったフィアが声を上げ、人道支援の中心となる修道士の一団に野営地での指示を与えていた。


 毎日鍛錬に付き合わせた結果、武闘派になり果てた聖職者らしからぬ豊満な肢体を誇る娘は、地母神派の教区長より贈られた武骨な聖槍のせいで非常に目立つ。


「“槍の乙女” 殿もご健勝な様子、機会があるなら雪辱を晴らしたいものです」


「言っておくが、前より武芸はきわまっているぞ?」

「微妙に恥ずかしい二つ名、王都まで伝わるくらいだからね」


 さらりと言い添えた斥候の娘もフィアと一緒になって、散発する小鬼などの討伐依頼を積極的にこなしており、領内と隣接地域では名が知られていたりする。


 度々、冒険に拉致される領主の嫡男おれも含めて……


「まぁ、お陰で人手が集まったから、良いとしておこう」

「ん~、極東のことわざならうなら、怪我の功名?」


「我々、ウェルゼリアの領兵は歯がゆい部分もありますけどね。すでに共和国からの独立宣言はの都市で成されたのでしょう?」


 やや不服そうな騎士侯が統一感のない冒険者らを見遣みやり、これ見よがしに問いただしてくるものの、領軍に国境を越えさせるのは時期尚早なので避けたい。


 必然的に人員や支援物資の護衛をになうのは彼らとなり、取り急ぎ近隣より総勢八十名ほどの荒くれ者が集められていた。

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