表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/24

未完の才能

「な、に、これ……?」


 グレイシア大洞窟の最深部に進んだノエル達の目に最初に映ったのは、にわかには信じがたい光景だった。


「嘘だろ……?」


「……信じられない」


 そこにあったのはある生物の死骸、圧倒的な強者であったはずのグレイシアの主、ブラック・ウルフの無惨な姿だった。


「一体何があったんだ……?」


 ブラックウルフはAランクに指定されている強力な魔獣で、全長5メートルを超える体躯と強靱な牙と爪を持ち、今まで数々の力ある冒険者を返り討ちにしてきた。


 ブラックウルフを討ち取ることがこの大洞窟の攻略の同義とされる程の魔獣であったはずなのに、そのブラックウルフが殺されているんだ。その亡骸に目を落とすと、何か大きな、生物に噛み殺されたような大きな傷跡がついていた。


 ブラックウルフよりももっと大きな何かに……


「グルルルル……」


 何かがいる。大きな……これまでに出会ったことのない、とてつもなく大きく恐ろしい魔獣がそこにはいた。


 背筋が凍る、知らないうちに頬を冷や汗が伝う。グレッドもシノンも同じ感覚を味わっているだろう。明確な恐怖がノエル達を容赦なく襲う。


「……来る」


「グォォォォォォォォー!!!!!」


「り、竜……かよ」


 ブラックウルフが可愛く思えてしまう程の圧倒的な威圧、鋭い眼光はまるで剣の切っ先のように鋭利でノエル達を抉る。


 ブラックウルフの4倍以上はあるであろう体躯、全身を覆う純白の鱗と双翼、一本一本が大剣の如き牙と鉤爪は御伽噺に出てくる竜そのものだった。


 何で洞窟に竜が? という疑問が浮かんだが、それを今考えたところでどうなるわけでもない。今重要なのは私達の前に竜がいて、私達は窮地に立たされているということ。


 ブラックウルフにさえ勝てるかどうか分からなかったのに、それよりも圧倒的に強い竜相手に勝てるとは到底思えない。それでも、


「やるしかないでしょ、相手にとって不足なし、この竜を倒して、私達はAランクになる!!」


「ああ、これで逃げてちゃあ男が廃る。金剛の盾の名にかけて全ての攻撃を防いで見せる!!」


「うん……援護は任せて」


 鞘から剣を取り出し、構える。グレッドも盾を、シノンは詠唱を開始する。


「行くよ!!」


「おお!!」


「…うん!!」


 いつものフォーメーションを取り竜へと向かっていく。剣士であるノエルが相手の注意を引きつけ、グレッドは盾としてシノンを守る、そしてシノンの魔法で私達を強化しつつ、敵へ攻撃を仕掛ける。


「スキル【神剣の理】発動」


 ノエルがそう告げると、彼女の身体とその手を持つ剣が淡い光に包まれる。


 ノエルのスキル【神剣の理】の能力は、スキル自身が世界に検索をかけ、その状況に応じた最適な剣技を、この世界に存在、或いは存在したあらゆる剣技の中から割り出し、それを行使出来るというものである。


 ノエルの突撃を正面から受けようとする竜、ノエルはそれを見て「自分たちは脅威じゃないとでも言いたいのか」と怒鳴りたくなった。竜の行動は明らかに格下に対するそれであったからだ。


「そっちがそのつもりなら、こっちも遠慮なく行かせてもらうわ!!」


『検索完了……剣士ノークス、剣技【龍死一閃】』


 ノエルの脳内にスキルの声が響く。その声を聞き、ノエルは薄く笑った。【龍死一閃】って、今この瞬間のための剣技じゃないかと思ったからだ。いくら最適な剣技を検索するといってもここまで安直な剣技があるんだなぁと思う。そのノークスって人は竜と戦ったことがあるのだろうか。ノエルはスキルに従い、剣士ノークスの構えを行う。その構えはただ一点を狙い澄ますように作られた構え、レイピアの構えに近いものであった。

 

「ノエルちゃん、支援魔法はかけておいたから」


「ありがと! シノン!!」


 突撃するノエルの後ろからシノンが支援魔法をかける。身体強化の魔法だ。身体強化であればノエル自身でもかけることができるが、シノンの身体強化魔法はノエルの使う身体強化とはレベルが違う。スキル【魔の深淵】を持つシノンが行使する魔法はどれもがとても高いレベルを誇っている。身体強化なら、ただの子供でも一撃でDランク魔獣を倒せるくらいに強化させることが出来るのだ。


 身体強化の魔法を受けたノエルは目にも止まらぬ速度で竜へと突っ込む。そしてその速度をそのまま剣へと乗せる。


「龍死一閃!!!」


 剣先に集約された力が一気に解き放たれる。この一撃であれば、竜の強固な鱗も貫くことが出来るかもしれない。しかし、竜は身をその翼で覆い、そのノエルの攻撃を受ける。翼で受けられたノエルの一撃はダメージを与えるには至らず、動きを止められたノエルはそのまま後方へ吹き飛ばされる。


「ぐっ……」


「大丈夫か!? ノエル!!」


「っ……平気よ」


 吹き飛ばされたノエルは大したダメージを受けてはいなかったが、それ以上に精神的なダメージが大きかった。これまで【神剣の理】で導き出された剣技が通じないということは一度だってなかった。どれだけ強い魔獣だろうと、かつての或いは現在の全ての剣から検索した最適であれば、倒すことは雑作もなかったからだ。


 それが最も容易く止められ、全くダメージを与えられなかったのだ。ノエルが動揺してしまうのは当然のことであった。


「グガァァァァアア!!」


 ノエルの攻撃で完全にノエル達を敵と認識した竜は臨戦態勢に入り、咆哮する。それに一瞬怯んだノエル達を竜のブレスが容赦なく襲う。


「ノエル下がってろ!! 俺が受ける!!」


 ノエルとシノンの前に立ち、グレッドがスキルを発動する。グレッドの持つ盾が金色に輝き、三人を覆う結界が展開される。それに合わせてシノンも身体強化、防御力の底上げを行う。


「三重結界、大樹の盾!!」


 ブレスとグレッドの結界が衝突する。三重結界、大樹の盾はグレッドが現状で使うことの出来る最硬の防御技であった。

 

「ぐっ、うっそだろ……!!」


 だが、グレッドの展開した結界は一層、二層といとも簡単に破壊され、残るは三層だけとなってしまう。ブレスの勢いは確実に減らしているが、それでも残りの結界だけではブレスを相殺しきることは出来ない。


「舐めんな!!」


 グレッドは結界が破壊されるのと同時に新たな結界を展開し、何とかブレスを防ぎきる。


「ぐっ……はぁっ、はぁっ、はぁっ……どうだ、デカブツ」


 三重結界にさらに新たな結界を展開させることでブレスを防いだが、最大防御を破られたことは三人にとって少なくない精神的ダメージを与えているだろう。強がっているがその表情は決して余裕のあるものでは無かった。


「って、マジかよ!!」


 次いで竜が尻尾で三人をなぎ払おうとする。ブレスを防ぎきったグレッドだが、さすがに2撃目には反応仕切れなかった。代わりにノエルがシノンの横に立ち、自信の身を盾にする。


 『検索完了……剣士ドッドランド、剣技【護神剣】』


 防御特化の剣技を即座に検索し、実行する。さらに身体強化の魔法を自らにかけ、守りに入った。


「ぐっ……ああ!!」


 護神剣によって、尾のなぎ払いの威力を極限までいなすが、それでも受け止めきれない。それほどに竜の攻撃は重たいものであった。シノンの壁になるために正面から受けたということもあり、少なくないダメージを受けてしまう。


「ノ、ノエルちゃん!!」


「なんともないわ! それよりもあなたは魔法の方に集中して!!」


 自身の攻撃を二度も止められたことによって竜は一旦様子を見る。その隙に崩された陣形を元に戻し、グレッドが先頭に立つ。


「悪いノエル、俺の仕事だったのに」


 らしくもなく謝るグレッド。盾の役割を担うグレッドからしたらさっきの攻撃でノエルがダメージを負ってしまったことを自分の責任だと感じるのだろう。


「お互いカバーし合うのがパーティーでしょ」


「ああ、そうだな。次は俺がカバーする番だ」


 ノエルの言葉を受けグレッドの闘志が再び燃える。


「三重大帯結界、大森林!!」


 自身の全ての力を振り絞り、最大の防御結界を展開する。先程展開した大樹の盾を広範囲に渡って展開する大技。それを自分達を囲むように展開することで防御領域が作られた。


「へへっ、これはてめえでも簡単には壊せないぜ? さっきのブレスでもな!!」


 グレッドの言葉通り、展開された結界は竜のあらゆる攻撃を防いでいた。鉤爪による攻撃も尻尾の一振りも、ブレスでさえも防ぐ。


 グレッドの全力の結界は竜の攻撃に耐えていた。しかし、それも長くは続かない。連続の攻撃に結界は徐々に崩されていく。加えてグレッド自身も防御結界を維持し続けるのに限界が来てしまった。


「シノン、行ける?」


「うん……バッチリ」


 ノエルの呼びかけにシノンが強く頷く。


 ノエル、グレッドの後ろで支援魔法を送っていたシノンは同時に攻撃魔法の詠唱も行っていた。それが今完成したのだ。


「グレッド!!」


「ああ!! やっとかよ!!」


 待ってたぜとグレッドは叫びながら結界を解く。急に結界が消えたことによって竜の中で一瞬動揺が生まれてしまった。その一瞬をシノンは見逃さない。


「……エレメント・アル・バースト」


 火・水・風・雷・土の五大属性を混ぜ合わせ圧縮し、高密度のレーザーとして打ち出すシノンの最大攻撃魔法。五大属性を全て混ぜ合わせたレーザーは触れたものを全て溶かすほどのエネルギーを持つ、スキル【魔の深淵】を持つシノンだからこそ出来る神業だ。


 シノンの魔杖から放たれた魔法は一直線に竜へと放たれる。竜の硬い鱗による装甲も一度触れたら最後、跡形も無く消し去るだろう。


 しかし、魔法が竜に当たる、そう思った瞬間に竜は全身から超高密度の魔力防壁を展開した。


「……嘘でしょ?」


 シノンのエレメント・アル・バーストは竜の魔力防壁をかろうじて貫通することに成功するが、威力をほとんど削られた一撃は竜にダメージを与えるまでは至らなかった。


「グォォォォオオオ!!!」


 竜の咆哮が洞窟中に轟く。


 その時、三人の頭に浮かんだのは明確な敗北のイメージ。


 己の最高の技が通じず、まるで何もなかったかのように余裕を見せた竜。ノエル達はそれに勝利するイメージが全く出来なかったのだ。


 もし彼女達があと数年力を磨く時間があったのなら、状況も違っただろう。


 それほどの才能を彼女達は持っている。ただ、今はまだ未完の才能、それだけの話だったのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ