町を賑わす話題
ノエル達に罵詈雑言を浴びせ、ギルドから逃げた翌日、俺は最悪の目覚めを味わっていた。
「何で俺はあんなことを……」
ノエル達が俺をパーティに誘ってくれた。それがあいつらの心から言葉だと分かっていた。孤児院で一緒に暮らしているときからいつも俺達四人で行動していた。
冒険者になった当初は一緒に冒険をしたこともあったのだ。けれど、冒険を重ねるうちにその頻度は少しずつ減っていった。
冒険をして戦闘を重ねどんどんと強くなっていく三人に、俺が劣等感を感じ始めたことがきっかけだった。めきめきと頭角を現し、他の冒険者からも一目置かれる存在となっていくあいつらといつまでもFランクのまま埋もれていく俺。
俺達がだんだんと離れてしまうことは必然の事だった。でもそれはあいつらには全く非の無い話だ。俺に力が無かったから、あいつらの横に立てるようになれなかった俺のせいだ。なのに……
「ははっ、酷え顔だな。最低最悪な野郎の顔だ」
顔を洗おうと洗面台の鏡を見ると、そこには全ての悪感情をグチャグチャに混ぜたような気持ち悪い男の顔が写っていた。
それが自分の顔だと理解するのに少し時間がかかってしまうほどにその顔は歪んでいたのだった。
それからどれくらい時間が経ったのだろうか? 窓の外を見ると既に日が落ちていた。クエストを受けずにこうやって一日を無駄に過ごしたのなんて何時ぶりだろうか。
「腹減ったな」
こんなに酷い気分の時にも人間というものは腹が減るらしい。生きているんだから当然のことだけど、こんな時くらい空気を読んで欲しいとも思う。
「……何か食いに行くか」
布団から起き上がり、最低限の身支度を整える。町を適当に歩いて、適当に店に入ろう。
今はなるべく人に会いたくない。出来るだけ早く帰ろうと思いながら俺は部屋を出た。
◇◇◇◇
部屋を出て町をしばらく歩くと、町の異様な雰囲気に気付いた。町全体が何だか妙に活気づいているというか、人の出も普段よりも多いし、何よりその表情がみんな明るい。何かあったのか?
「あれー? そこにいるのは万年Fランクの無能冒険者じゃないかー?」
前から冒険者らしきヤツが近づいてくる。
「ベルーガ……」
Dランク冒険者ベルーガ。
「ぶははっ、いつにも増して辛気臭い顔してるな。あんまり近づくなよ? 無能がうつる」
お前の方から近づいてきたんだろうが。いつも何かにつけて絡んで来やがって。
「幼馴染みだからってノエルに親しげに話しやがって、お前なんかより俺の方があいつに相応しいってのによ」
またノエルか。こいつ俺に絡んでくる時はいつもノエルの名前を出すな。
「ノエルに用があるなら俺じゃなくて本人のところに行けよ」
そう言うとベルーガはかっ、と切れた後に俺の胸ぐらを掴む。
「てめえがノエルの名を出すんじゃねーよ。俺の女だぞ、無能のお前が気安く近づける女じゃねーんだ。てめえはノエルの幼馴染みっていう温情で俺に生かされてるって事を忘れんな」
「お前の女かどうか、決めるのはノエルだろ」
俺に言い返され、ベルーガがさらに切れる。怒髪衝天になっていたベルーガは拳を握るが、何かを思い出したようにピタッと止まる。そしてニタぁとニヤけ面を浮かべる。
「そうだぁ、そう言えば聞いたぜ? お前ノエル達に嫉妬から暴言を吐き捨てて、逃げ帰ったそうじゃないかぁ? 心底みっともないよなぁ、無能冒険者?」
「ぐっ……」
ベルーガはあの場にはいなかったはずだ。なんで知っているんだ。
「ぶっはは、なんでお前が知ってんだって顔してんな。まだ知らなかったのか、幼馴染みの若き英雄候補のBランク冒険者と万年底辺のFランク冒険者の決裂って話が冒険者の間で広まってんだよ。だから、冒険者の間じゃお前の評価は最底辺まで落ちてんだぜ?」
広まっている……まあ、あの場には人がたくさんいたし広まってしまうのはしょうがないか。それにしても最底辺か。なるべくしてなったって感じだな。
「まあ、お前の話はその後出たビッグニュースで陰に隠れちまったけどな」
「何だよ? ビッグニュースって」
俺の反応を見ると、ベルーガは一瞬驚きの表情を浮かべる。
「それも知らなかったのかよ? 町の雰囲気見て何か感じなかったのか?」
町の雰囲気がいつもと違ったのはそのビッグニュースの影響だったのか。
「ノエル達がついにAランク昇級試験を受けるんだってよ。それも王都のギルドからの直々の推薦らしいぜ」
「ノエル達がAランク試験を……」
ランク試験を受ける場合には、ギルドに申請しその申請をギルドマスターが承認した場合に受けることが出来る。これは全てのランクに適応し、FランクだろうがAランクだろうが関係なく適応される。
しかし例外としてギルドから直々に推薦された場合は、この手続を行わずに冒険者の任意で受けることが出来るのだ。
「ついにノエル達がAランクになる、それもこの試験に受かれば王都のギルドに所属出来るんだ。てめえとの差は決定的になるな」
ベルーガは大声を上げて笑う。しかし、俺にはベルーガの笑い声は届いてはいなかった。
「っおい!! てめえ!! どこ行くつもりだ!!」
ベルーガの手を振りほどき、俺はギルドまで走り出した。
「っくそ!! 何やってんだ!!」
Aランク昇級試験を受けるかどうかは本人達が決める事だ。俺が口を出すことじゃない。
けど、このままじゃあいつらが潰れてしまうかも知れない。
そう考えた時、俺の身体は俺の意志を置き去りにして走り出していた。




