35 クリエの元へ
ライムのお蔭で封じられた魔法は無事使えるようになった……
それから程なく鳴り響く銃声。
それを合図にキューラは酒場の牢からの脱出を試みる。
だが逃げ道は無く、キューラは仕方なく天井を魔法で撃ち抜きそこから逃げる事を考えたのだが……?
「ちょ、ちょっと派手にやり過ぎたか?」
俺はぽっかりと空いた穴を呆然と見つめながら呟く……
いや、相手は闇奴隷商なんだ手加減は無用だよな? うん……そう思う事にしよう。
「後は、どうやって上にあがるかだな……」
縄みたいな物は無いし、俺の背では当然天井には届かない。
飛行魔法はそもそも神聖魔法だから俺には使えないからなぁ……
「ライム、俺を上に運んで行けたりしないか?」
今回はライムに頼りっぱなしだな。
そう思いながら訪ねると、ライムはプルプルと震えた後にピョンピョンとどこかに行ってしまった……
無理って事か? 無理なら無理で仕方が無い。
何も逃げなくてもいいんだぞ?
「ライム、戻って来い! 無理なら――てぇ!?」
俺はライムの去って行った後を追い、部屋の中へと目を向け、狼狽した。
そこには若干大きくなったライムの姿があり、俺の言葉通り傍へと戻ってきた。
「ど、どうしたんだ? お前……」
『………………』
訪ねてもライムはただ震えるだけだ。
しかし、もしかして――
「運べるのか?」
そう聞くとライムはピョンピョンと跳ねる。
つまりは、イエスってことか? なら――
「悪い、やっぱり上へ運んでほしい、頼めるか?」
すると再び跳ねながら移動をするライム……
何をしているのかが気になり後を追ってみると――
「な、なるほど……」
そこで起きていたのはライムがそれぞれの部屋にある水瓶の中へと入り、出てきた時には大きくなっている。
つまり、水を飲んで巨大化しているって事か……
それを繰り返すうちに肩に乗れるぐらい小さなスライムだったライムはいつの間にか俺ぐらいの大きさになり、穴の下まで移動をすると立ち止まった。
乗れ、ってことか? 若干戸惑いつつライムの上に乗ると――
「ひゃぁぁ!?」
俺はまたも変な悲鳴を上げた。
それも仕方が無い、ライムは形を変え徐々に上へと俺を運んでくれた……しかし、乗っている場所は硬さはある程度あるものの柔らかい事には変わりがない。
落ちない様に気を使ってはくれているのだろうが、かえって揺られる羽目になり、思わずゾッとする事もあるのだ。
それでもライムはゆっくりと俺を登らせていき床へと丁寧に降ろすと自身の身体を引っ込めた。
「ってライム!?」
運んでくれた事には感謝をしなければならないな、そう思った時にはもう一つの問題がある事に気が付いた。
そう、ライムは巨大化している……
つまり、この崩れた床に乗ることは出来ないんじゃないか? と焦り、下を覗いてみると――
「便利な身体な……お前」
そこに広がっていた光景は――水を吐き出したのかびちゃびちゃになった床に小さなスライムが居る光景で……
そのスライムは壁へと張り付き、俺の元まで戻ってきた。
「おかえり、助かったよ」
そう言ってライムを手に乗せてやるとどこか満足そうに手の上で跳ねるライム。
うん、やっぱりこいつは可愛げがあるな。
後でちゃんと林檎を買ってやらないと罰が当たりそうだ。
さてと、じゃぁ……向かうとしますか……
俺は近くに見える扉の方へと向かい、聞き耳を立てる。
歩いて来た距離的にもそんなに遠くは無いはず、恐らくこの向こう側が酒場なんだろう……
でも、何も聞こえない……静かだ。
っていう事は無事捕まえて外に出たってことか……なら安心だな。
なら早く戻って安心させてやらないとな……あれクリエは泣き虫で、なんかほっとけないって感じだし――
「全く、真面目に戦ってる時は勇者してるのになぁ……」
一回しか見た事が無いが、あの勇敢さには脱帽した。
あの見事なまでの戦い方はこれからの旅に欠かせない、そう……俺達の目的はくどいようだが誰も犠牲にせず魔王を倒す事だ。
そう思いつつ扉を開ける――
「………………は?」
そこに広がっていた光景は俺の予想とは違う光景。
「ク、クリエ……?」
金色の髪を持つ女性は力なく倒れており、その周りには赤いものが見える……あれは一体どういう事だ!?
慌てて辺りを見回してみると一人男性が倒れている……見た事が無い人だ。
血を流してるって事は無事ではないと言う事だろう……だが、トゥスさんは? トゥスさんはどうした?
そう思い辺りを見回してみるとまるで盾になっているかのように机が立てかけられており――その向こう側からは微かな気配を感じる。
それに気が付くと同時に何者かが俺の身体を掴み――
「お、おい! 小娘動くんじゃないぞ!! へ、へへへ……」
俺の頭へと突き付けられたのは恐らく銃なのだろう……つまり、これでクリエを……?
「へへへへ、ゆ、勇者の死体は後で片付けろよ? お前が悪いんだ、お前がな」
俺の所為? ああ……そうだ、俺が余計な事に首を突っ込まなければこうはならなかった。
だが、これはあんまりじゃないか? クリエは死ぬ事を怖がっていた……ただの女の子だ。
俺は拳を痛いぐらい握り閉める……俺が傍に居れば――盾ぐらいにはなれたはずだ。
それにトゥスさんは平気なのか? あの陰から出てこないと言う事は倒れてる男は敵で戦った際に重傷を負っているのかもしれない……
「お、おい! 女ァ!! 出て来い!! このガキがどうなっても良いのか? そこの勇者みたいに転がしてやるぞ!!」
男の声に机の裏からガタリという物音が聞こえる。
するとその音に遅れてゆっくりと姿を現せたのはトゥスさんだ……
肩からは血を流していて、力なく垂れ下がっている腕を見ればどう見ても無事ではないのは分かる。
「あんた、それ何処で手に入れた?」
「お前等エルフから買い取ったんだよ!!」
話からしてソレとは銃の事だろう、事実俺がこの世界に来て銃という物を初めて見た。
話には聞いてはいたが、本当にあるのだろうか? というほど見かけなかったんだ……だが、そんな事はどうでも良い。
クリエは? クリエは無事なのか? 本当に死んでしまったのか?
そうだとしたら、いや、そうじゃなくても――――!!
俺は言いようもない怒りに身を震わせる。
すると、俺の様子に気が付いたのか、男は何やら笑い声を上げると――
「どうする? このガキは怖くて震えてるみたいだぞ?」
トゥスさんへとそんな事を言っているが勿論、違う。
俺はただ――許せないだけだ――
「っ!? ――あ、がっ!?」
まるで俺の憤りに反応するかのように左目は熱を帯び、以前にも感じた様な燃えるような感覚を得る。
「暴れるな!! ――――!!」
なん、だ? 暴れんなって言った後にこいつは何を言った?
聞こえない、それに何故か右目の方が痛くて開けてられない……何で熱い左目は大丈夫なんだ?
そう思いつつ右目だけを閉じると、赤い景色の中――見えるはずも無い物が見えた。
『――――――――』
「なっ!?」
それは、夢に出てきた魔族で――
『――――だ、生きている。守ると――たなら、使いこなしてみろ』
俺の目の前に現れた男は悪人面を隠すことなくそう口にした――




