337 洞窟の奥には……
「明かり……」
そう呟いたのはファリスだ。
彼女は前を睨み、そう言った。
その言葉は俺達の持つ明かりをさす言葉ではない。
目の前に大きな扉と燭台、そしてあのゴブリン達が居る。
彼らは暇そうに門兵をしているみたいだ。
「洞窟の中に扉? 怪しいなんてもんじゃないな」
俺は思わずつぶやいた。
だが、それは仲間達にとっても同じだったようだ。
「そうだね、こりゃいよいよきな臭くなってきたね」
物陰に隠れ俺達はゴブリン達の様子を見る。
よくよく見るとやはりゴブリンの様でゴブリンではない。
一体あれは何なのだろうか?
そんな疑問を思い浮かべつつも今度は扉を見る。
立派な装飾でこの洞窟にはまるで合っていない。
しかも、まだ新しいのが遠目にも分かるほどだ。
元々ここが遺跡とか嘗て人が住んでいた場所と言うのなら扉があるのは分かる。
だが、そんな情報はないし、もしそうだとするなら周りの壁も人の手が入っていなければおかしい。
しかし、この洞窟はどう見たって自然に出来た物……。
それに手を加えたとしてもとても人の手とは思えない雑さだ。
「あそこに何があるって言うんだ?」
俺は扉を睨み、その奥にある物を見ようとする。
だが、扉が開く事は無い。
「これじゃ分からないだろ? 一旦戻ろう」
カインがそう口にした時、扉は重々しい音を立て開く。
「キューラお姉ちゃん!」
小声でファリスが俺の名を呼び、俺は明かりを消した。
このままでは中に居る連中に気が付かれる可能性があるからだ。
そして、そちらへと目を向けると……。
「なん……だ? あれ……」
そこで見たのは一人の男。
そして、多くのゴブリンもどき。
更には攫われたであろう少女達が虚ろな瞳で笑っている光景だった。
汚れているかはここからじゃ分からないが少なくとも服が破られている訳ではない。
ただ、笑っているのだ。
それは恐ろしく、背筋に悪寒が走った。
「また壊れたか、新しい物を持ってこい」
男はゴブリン達にそう言うとゴブリン達はケタケタと笑う。
「チッ!! 孤児無勢が! さっさと行け!!」
その態度に苛立ったのか男は一匹のゴブリンを蹴った。
するとゴブリンは悲鳴を上げ、慌てたように俺達の目の前を過ぎ去っていく……。
「ふん……」
残った門兵は去って行ったゴブリンを指差して笑う。
なんだ、これは?
それに今孤児と言ったのか? じゃぁ……あれは、子供? 何の? いや、まさか、人間の子供だとでもいうのだろうか?
男の方を睨むと俺の目に映ったのは……。
「なん……だ、あれ……」
彼の向こう側、捕らえられた女性達の方。
そこには巨大な魔物が居た。
それが何なのかは分からない。
だが……普通じゃないそれに俺は目を奪われた。
まるで人と魔物の融合と言えば正しいのだろうか?
それは呼吸をしている様で……。
『キャァァァァァアアアアアアアア!!』
叫び声をあげた。
「うるさい! 失敗作が!!」
まさか……今の声……。
おいおい、どいう事だよ……誰なのかは分からない。
だが、あの声は……。
ザクッという足音が聞こえた。
俺は慌てて音の方へと振り返ると其処にはクリエが立っている。
「クリエ!?」
彼女はまるで導かれるように声の方へと向かっていく……。
まずい!? 彼女の中でなにかが刺激されたのだろう。
そして、その刺激はあの声の正体にある。
だが、今はまずい。
俺達にあいつらと戦うほど余力はない。
そして、あの魔物もどれほどの力を持つのか分からない。
とはいえ……クリエは本能と言って良いのだろうか? 音を立て門へと向かっていく。
当然暗闇の中から現れた彼女に魔物達は驚くが、すぐに武器を構えた。
獲物が来た。
そう言うかのように騒ぎ始め……男は振り返り嫌らしい笑みを浮かべる。
「おお、勇者が来たか……しかも女、これは良い道具になりそうだ」
彼女を見てもまるで動じない男に悪寒を感じるが、放って置く訳にはいかない。
「カイン! トゥスさん……ファリス!!」
俺は3人の名前を呼び飛び出した。
チェルはまだ十分には動けないからだ。
すると彼は尚嬉しそうな声をあげた。
しかし、カインを見ると舌打ちをし……。
「男はいらないのだがな……」
「やっぱりお前は変態か……」
いや、そうだけどカイン? 今はそこを突っ込んでる場合じゃないぞ?
「その子達に何をした! それに後ろに居る魔物、ゴブリン……こいつらは何だ!!」
俺が叫ぶと男は高笑いをし、頭を押さえる。
そして、こちらを猟奇的な瞳で見つめ……。
「人だよ」
「……人?」
カインは首を傾げたが、やっぱりか……。
さっきの悲鳴、恐怖におびえる女性の物だった。
つまり、こいつは……。
「影響を受けやすい小さい子供は簡単に魔物に出来ても大きいのはな……男は駄目だ精神が脆く壊れやすい。だから、女を攫ったのだが、魔物になる前に壊れるものが多くてな困っていた。魔王が出来る事だ、他の物に出来ないとは限らない」
そう言うと彼は俺達へと目を向け……。
「冒険者は危険だと思い避けていたが……うむ、香の臭いは良い匂いだっただろう?」
にたりと笑う男に俺は悪寒を感じるのだった。




