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253 従者と言う名の勇者

 勇者は奴隷エルフを殴り、傷つける。

 到底人とは思えないその行動に街の人々は苛立ちの声をあげた。

 しかし、エルフを弾をこぼした瞬間、勇者は彼女に向かって剣を振り下ろした。

 そんな時助けに入ったのは……カインだった。

「アンタは誰だ?」


 勇者を睨むカインは一歩も引くことなくそう口にした。

 その様子は俺から見たら普通だ。

 だが、周りの人間にはどよめきが走った。

 女の子を傷つける勇者に対して苛立ちや嫌悪感を感じていた彼らだが、誰一人として助けようとしなかった。

 いや、彼らだけじゃない。

 仲間である彼女達もだ……そんな彼女達を含めカインの行動に驚いている様だ。


「見て分かんないのかよ? 勇者様だよ、ゆ う しゃ さ ま !!」


 自分の事を紹介している自称勇者だが、カインはそれを聞きつつ首を盛大に傾げた。


「アンタ馬鹿か?」


 その上、馬鹿などと言い始めた。


「――なっ!?」

「アンタが勇者な訳ないだろ?」


 いやまぁ、カインにとっては勇者って言うのはクリエの事だし、実際に彼は勇者とは言えない事をしている。

 なら、勇者じゃない! と言ってもおかしくはないんだが……。


「こいつ……なら見せてやるよ……」


 そう言った奴はゆっくりとエルフの方へと目を向けた。

 だが、剣はもうない。

 魔法を使うなら詠唱が必要だ。

 例え短剣が何かを忍ばせていても関係ない、カインが居る。

 そう思っていた。


「おい、フィオ……自害しろ」


 真っ直ぐエルフの少女へと視線を向けている勇者さんはそんな事を言い始めた。

 うん、カインお前が正しかったよ。

 アイツは馬鹿だ……誰が好き好んで自害をするだろうか?

 する訳ない。

 するはずがない……普通はそう考えるだろう。

 だが……。

 大きな瞳から大粒の涙を流したエルフの少女はがたがたと震え始め。


「これは命令だ」


 なにかまずい……そう思った俺は再び駆け始める。


「ファリス!! 2人を押さえろ!!」


 1人で2人を相手にするのは無茶がある。

 そう思ったが、今こっちにはファリスしかいない。

 俺は彼女にそう頼み、走ると……目の前では信じられない事が起きていた。

 エルフの少女の胸の辺りから何かが光り始める……するとイヤイヤをするように首を激しく振った少女は何故か銃を頭へと向け始めた。

 カインはその光景を見て目を疑っているのだろう、呆然としている。

 彼じゃ間に合わない……だが、俺はもう射程圏内だ!!


「グレイブ!!」


 魔法を唱え、放つ――!! 同時に背中に衝撃を受けた。

 確認すると僧侶の子が俺にしがみ付いている様だ。

 しかし、もう関係ない。


「――ぁ」


 銃には魔法が当たり、壊しながら吹き飛ばした。

 怪我をしたようだが、死んではいない……後で僧侶(この子)に治してもらえばいい。

 とにかく、あの子は助かったが……今のは一体なんだ?

 まるであの子の意志とは無関係に自害をしようとしていた?


「良しよくやった! お前には夜にたっぷりと褒美をやるよ!」


 自称勇者は命令を邪魔された事よりも俺を捕まえた事の方が大きかったようだ。

 一歩一歩と俺に近づいてくる。

 カインとファリスはそれに気が付き、此方へと向かって来てくれているが……。


「2人は他の奴を頼む!!」


 俺は思わずそう叫んでいた。

 何故そう言ったのかは分からない。

 だが、俺の中で浮かび上がったのは……クリエの言葉だ。


『なんで……なんで……』


 あの時疑問に思った言葉。


『なんで言う事を聞いてくれないんですか……』


 身体に違和感を感じた言葉……そして、今の状況。

 おそらく従者とはそう言うものなんだ。


「お前は、もう終わりだ……2人よりも胸は無い、でもあいつよりは育ってるどんな声で鳴くか楽しみだ」


 鼻の下を伸ばしながら下卑た笑みを浮かべる奴に対し俺は……。


「やってみろよ……お前なんかに従う訳が無いだろ? 俺は俺だ」


 大丈夫だ……なんでかは分からない。

 だが、きっと大丈夫だ。

 そして、俺は何より確かめたかった……こいつが本物なのか……。

 いや、先程のエルフの子の行動……あれはきっとあの魔法の影響だ……ならこいつは本物なんだとは思う。

 だが……そうなれば――。


「そう言ってられるのも今の内だけだ……お前は今日から僕の奴隷だ!!」


 そう言って右手をかざした男は俺の首筋へと触れる。


「偉大なる我が父、聖神ガゼウルよ!! 我は望むこの者と共に歩まん事を、この者は望む我に付き従う事を、我らをその聖なる鎖にて繋ぎ止めよ!!」


 以前一回だけ聞いた事がある魔法。

 それが唱えられると、首筋に暖かさを感じた。

 この魔法は勇者しか使えない、従者の契約を結ぶものだ。

 やはり、こいつは本物の勇者って事だろう……力だけは……。


「……ははははは! どうだ!? おい!! これでお前は僕の物だ!!」


 そして、なによりも誰よりも……愚かでくだらない存在だ。

 クリエは自分の運命を知り悩み苦しみ恐れていた。

 だけど、彼女はその優しさから……世界を救おうとしていた。

 だからこそ、俺は……先輩の代わりと思っていた従者を彼女為にとあの街で彼女が涙した時に誓った。

 こいつはどうだ? 同じ運命を持ちながら……私利私欲の為に力を使う。

 勇者? いや、こいつは魔王と言っても良いだろう。

 寧ろ、人の皮を被ったオークなのかもしれないな。


「脱げよこの場で……裸になって土下座しろ!!」


 そして、俺が従者になったと信じているのだろう……。

 本当に愚かだ……俺はクリエの従者で彼女を守る為に戦う。

 そして、彼女が守りたいであろうものは彼女の代わりに守ってやる!!




 ああ…………なんだ……。






 単純な事だったんじゃないか、答えなんて最初からあったんだ……恨みで憎しみで戦うんじゃない。

 俺は……俺のしたい事を彼女が傷つけられた事で曇らせていた。

 自分自身で視界を遮っていたんだ。


「おい! 早くしろよ!!」


 怒鳴り声が聞こえる、そうだ……早くしないといけない。

 待ちきれないなら……答えてやらないといけないな。

 きっと待ってるんだ……。


「精霊の業火よ!! 我が拳に宿りて焼き尽くせ――」

「は――?」


 詠唱と共に炎が腕を纏った。


「きゃぁ!?」


 僧侶は予想外のことに驚いたのだろう拘束を解いた。

 俺は――真っ直ぐと前を睨み、気持ち悪い笑みを浮かべたまま固まっているソレの頬を殴り飛ばした。

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