249 勇者の来る日
勇者が来る。
その話を聞き困惑するキューラ……それもそのはずだ。
この世界において勇者とは金髪金色の瞳を持つ者の事を指す。
全く同じ者が他に居たのだろうか?
そう思いつつ、キューラは寝れない夜を過ごしたのであった。
「ふわぁぁ……」
俺は仕事中に大きな欠伸をしてしまった。
慌てて口元を押さえるとメアリーとエウレカは笑みを浮かべる。
ぅぅ、これは男だろうが女だろうが恥ずかしいぞ……。
そう思っていると彼女達は近寄って来て俺の頬を突っつき始めた。
「な、なん…………ですか!?」
なんだよ!? と言いかけて慌てて言い直すと彼女達はからかうような表情に変えた。
「勇者がくるって言われて緊張したんでしょ?」
「ま、まぁ……」
俺はどう答えたら良いか迷いつつ頷いた。
緊張はしていない、だが勇者が来るという事は気になっていた。
ファリスはどうだろうか? 疑問に思いつつ彼女の方へと顔を向けると眠そうではない。
「大丈夫」
俺の視線の意味に気が付いたのか彼女はコクコクと頷きそう言った。
「あら、ファリスちゃんは眠くないのですね、お姉ちゃんはおませさんなのかな?」
うーん、そう言った訳じゃないが……。
まぁ、勝手に勘違いしている分には黙ってよう。
俺の正体がばれなければ良い。
それにこれは逆に使えるはずだ。
「あの……メアリーさんちょっとお願いが……」
俺は先輩の一人に声をかける。
すると彼女は片目を瞑り頷いてくれた。
「分かった一目見たいって事ね? 大丈夫、それ位は平気よ」
「ありがとうございます!」
これで勇者の正体が探れる。
それにもしかしたらクリエの事が分かるかもしれないからな。
情報収集は旅の基本。
ましてやこの状況ではどんな情報でも喉から手が出るほど欲しい。
そんな事を話していると入口……エントランスの方が騒がしくなってきた。
これはもしかして……。
「勇者が来たんじゃないでしょうか?」
エウレカはそう口にし、エントランスの方へと目を向ける。
「それじゃ、行ってみようか?」
彼女の言葉に頷いたメアリーは俺達にそう提案し、こんなに早く願いが叶った事に感謝しつつ俺達はエントランスへと向かった。
「……本物」
そこで見たのは……ファリスの口にした通り本物と言っても良いだろう勇者の姿。
金髪で金色の瞳。
背が高くほどよく筋肉がついている事が分かる……男性だ。
仲間もいた……すぐ後ろに控えているのは戦士だろうか? 盾と剣を持った活発そうな女性と勇者の横に居るのは僧侶の格好をした透き通るような水色の髪を持った女性、そして首輪をつけられ少し汚れた格好のエルフの少女を連れている。
見た目からしてエルフは奴隷かもしれないな。
なんか、奴隷エルフ以外もどこか仕方なくついて来ているような……そんな雰囲気を感じるが……。
「ようこそ、我が宿へ……勇者ルイスご一行ですね?」
俺達が足を運んだ時同様支配人が真っ先に声をかけに行った。
すると勇者は一瞬その表情を歪め、すぐに笑顔を取り繕うと……。
「ああ、此処の宿の評判を聞いてね、所で僕たちの部屋はもうあるかな?」
なんか、嘘くさいというか胡散臭いというか……見た目だけなら勇者といって間違いないが嫌な感じだ。
「ええ、もうご用意してあります。ですが当店は前払いでして」
へぇ……今知ったがこの店は前払いだったのか、基本的な事なのに聞いてなかったな。
「キューラちゃん? 意外そうな顔してるけど最初に話してるからね」
「……へ?」
メアリーが呆れ顔と言う事はどうやら俺が聞いてなかっただけらしい。
ファリスの方へと目を向けてみると彼女は頷き始めている。
参ったな……。
「ねぇ、メアリー様子が変ですよ?」
エウレカさんに言われ俺達は勇者の方へと視線を戻す。
すると支配人に一歩近づいている勇者は何かを口にしている様だ。
なんか……いやな予感がする。
そう思っていると支配人の顔がみるみる内に赤くなっていき……。
「いくら勇者と言えど、特権を行使できる限度があります!」
支配人は怒鳴り声をあげた。
だが、勇者はそれを見て馬鹿にするかのように笑い。
「おいおい、限度って……僕は世界を救ってやる勇者様だぞ? そんな僕に対してそんな事言って良いのかよ?」
彼は大げさな態度を取ると止めようとしているのか近づいてきた僧侶の肩に手を回し……。
「なぁ?」
と一言を口にした瞬間、彼女はびくりとし……。
「は、はい……ルイス様、あの人は無礼極まりないです」
消え入りそうな声で答えた。
ああ、なるほどな……あの勇者は少なくとも勇者の条件は満たしていても、勇者なんかじゃない。
「胸糞悪いな……」
「キューラお姉ちゃん?」
俺が思わず口にした言葉。
それにファリスは反応しこちらへと目を向ける。
言葉にはしていない、だが、どうするか? とでも言ってるのだろう。
「待て……今行っても立場が悪くなる」
一日と言えど支配人には恩がある。
彼のためにと動いてそれで立場を悪くしたんじゃ意味が無い。
とは言え、例えそうなっても彼を助ける為にならいつでも出て行けるようにしていこう。
「とにかく、僕の言った条件を通せないというなら僕にも考えがある、此処の領主に頼んでこの宿を潰してやるよ?」
「そ、そんな横暴な事が――」
支配人は喰いかかるが、勇者はあざ笑うように……。
「なら、謝れ、頭を床にこすりつけて……そうだな、ついでにこの宿に居る年頃の綺麗な女全員好きさせろ、勿論客もだ。俺は勇者だ分かるな?」
彼の言葉に膝をつきかけていた支配人は顔を上げ――。
「そんな事は出来る訳が無いだろう!!」
声をあげた――。




