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247 メイドなキューラ

 無事仕事に就く事が出来たキューラ達。

 だが、彼らは風呂場へと連行されてしまう。

 嘗てクリエと一緒に入る事になったこともあるが……。

 今は彼女への気持ちもあり、心の中で一人謝るのだった。

 二人のメイド、メアリーとエウレカ。

 彼女達は同い年らしく17との事だった。

 つまり、俺より年上だ。

 この身体ではの話だが……とは言っても年齢の事はどうでもいい。

 問題は――。


「はい、じゃ……まずはキューラちゃんにファリスちゃん? これを読んでくれる?」


 そう言ってエウレカと言う女性から羊皮紙を受け取った。

 何だこれ? なんか……変な模様が……。


「あの、これ一体……」

「変な模様?」


 俺とファリスが首を傾げると彼女達は意外そうな表情を浮かべている。

 一体どうしたというのだろうか? と言うか読んでと言ったからには文字があるはずだ。

 なのにこれには文字が一切書かれていない……一体なんなんだ……。


「もう、変な事言ってないでほらちゃんと読んで!」

「お、おう……でも、これ文字じゃないだろ」


 俺は一歩後ろへと下がりながら、エウレカの言葉に頷きつつも反論をする。


「それ、その言葉遣いはお客さんに失礼ですよ?」


 ニコニコとしているが、その笑顔が絶対命令権のような物が見えた。


「は、はい」


 ため息をつきつつ、改めて模様を見る。

 確かに文字に見えなくも……無いか? なんだ? 頭がぼーっと……。


「「…………」」


 俺とファリスはそれを食い入るように見る。

 ふたつの決まり事……。

 宿リファルはスクルドの収入源となる大切な宿。

 その宿で働く場合には……ふり……ん? 違うかお客様の命には死や身の危険が無い限り快く受け入れる事。

 また、お客様に失礼のないように接する事?


「読み終わった? だから、その俺とか乱暴な言葉遣いは辞めてね? 普通はそんなもの見せる必要はないんだけど」

「さ、始めましょうか?」


 何をだよ!? と思ったが、にじり寄る彼女達に俺は恐怖を覚えた。




 それからどのぐらい時間が経っただろうか?

 俺は男……だが、今は女の子。

 それを知っているのは数名だけだ、勿論この二人がそれを知る訳が無い。

 そこで俺が俺と自分で口にしてしまった事から、特訓と言う名の花嫁修業のようなものが始まってしまった……。

 最初は必死にそれを止めようとしてくれた、頼もしい仲間ファリス。


「…………」


 そんな彼女も今はと言うと幼い少女は椅子にもたれかかり、心がどこかに行ったような瞳でこちらを見ている。

 時折、顔を赤らめては頬に手を当ててイヤイヤをするように首を振る姿を見ると不安になってくるな。

 とにかくもう俺の味方をしてくれるような状況ではない事は確かだ。


「はい、次は……その歩き方ですね」

「いや、これは俺は――」


 冒険者なんだし、流石に女の子っぽくは……と続けようとした所で失言に気が付いた。

 まずい……そう思ったのが最後……。


「俺? さっき教えたでしょ?」

「はい、私は……これでも一応冒険者なので……」


 と言い直すと溜息をついたメアリーとエウレカ。


「今はこの宿の使用人です。それに女性の冒険者は時に女性であることを利用している事もあるのですよ?」


 もっともな意見を言われてしまった。

 少なくとも、俺には何も言えないな。

 事実、俺は少女である事を利用した事がある。

 だが、男っぽい歩き方と言われると確かにそうだっというか俺は男なんだから当然だ。


「でもその歩き方じゃ、今はまだよくとも大きくなったら性格がばれて騙せなくなると思うよ……まぁ、私達は使用人だし今直してほしいんだけどね」


 うわぁ、そしてさらにもっともな事が……。

 俺は元に戻りたいが、戻れなかったら確かにそうなるかもしれないな。

 つまり、これは礼儀作法を身に着けた女性の修業とでも思えば良いのか?

 戻れない以上、女性であることを武器にする事は少なくないはずだ。

 なら、その時に怪しまれない様にするのは良いな。


「分りました」


 それに何より俺は下っ端だ。

 どっちにしろ先輩である二人の言葉には逆らい辛い。

 こうして、俺達はある意味修行……をすることになってしまった。

 とは言っても……。


「そういえば、ファリスちゃんは飲み込み早いわね」

「もう教える事も無いしね」


 器用なのか、ファリスの方がすぐに仕事を覚えて行ったんだが……。

 もしかして、魔王の影響だったりするのだろうか?

 考えないでおこう……。








 俺達が宿について、最初の夜。

 当然俺達は仕事を覚える事の方が先であり、実際に一人で何かをする訳でない。

 だが、この宿は相当人気らしい。

 先輩達につきながら宿の中を回るが満員だ。

 そんな中、先程の男性を見つけ、俺は頭を下げる。

 そう言えば彼のお蔭でここの仕事に就くことが出来たんだが、此処の店主は誰だろうか?


「おや、思った通り、良く似合ってる」


 微笑む彼に対しメアリーとエウレカも頭を下げて挨拶をしている事から、彼はやはり支配人か何かなのだろう。


「こんばんは、支配人様」


 っていうか、この世界にも支配人と言う言葉があるのか……。

 そもそも、この人が店主か……道理で一存で決めてた訳だ。

 そんな事を考えていると彼は困ったように笑い。


「いや、だから皆にもいつも言ってるだろう? 此処はもてなす場所で僕たちは皆、彼らをもてなすために居る、頭を下げる相手が違う」


 なるほど、この宿が人気な理由は分かった。

 だからこそ、人手が必要なんだろう。


「で、ですが、恩が……」

「それならもう返してもらってる、今日も頑張ってほしい」


 彼はそれだけを言うと去って行ってしまった。

 そんな彼をやや惚けた表情で追って行く二人……ふむ。

 つまり、この二人はあの人に惚れているっていう事だろうか?

 そんな事をぼんやりと考えていると……慌てたように彼が戻って来た。

 二人も慌てて姿勢を正すと。


「「ど、どどどどど、どう、されましひゃ!?」」


 おい、思いっきり噛んでるぞ。


「忘れる所だった、明日勇者殿がこの宿に泊まる。一番いい部屋を要求してきているんだが……もう埋まってしまっていてね、別の部屋を充てるつもりだ勿論僕が対応するが、何か言われたら流石にそれは出来ないと伝えてほしい」

「「は、はい!!」」


 二人は同時に頷き……俺とファリスはお互いに顔を合わせる。


「「ゆ、勇者?」」


 そして、同時に尋ねると彼は深く頷き……。


「ああ、勇者だ」


 そう、繰り返した。

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