238 キューラとファリスの旅立ち
子供の治療のためせめて傷口を洗おうとしたキューラ。
しかし、それは駄目だという兵。
どうやら時間が決まっているとの事だが、それはどんな事があっても守られなければならないという……。
納得できないキューラだったが、子供も逃げ去ってしまったため彼は街を出ていく事を急ぐのだった。
街を出た俺達はそのまま真っ直ぐに進む。
街道なんてない、何処に居るかも分からない。
俺達が行くべき先は何処だろうか? そう思いながらもどうにもできない以上、前に進むしかない。
そうだ、俺達には戻るという選択肢はないんだ。
「ファリス、疲れたら言えよ?」
俺よりも幼い少女であるファリスに対して言った言葉。
これは彼女には何の意味もなさないだろう。
何故なら彼女はその見た目以上の強さを誇る……いや、事実俺では勝てないだろう。
しかし、子供は子供、気にかけないなんて事は出来ない。
「えへへ……キューラお姉様は優しい……」
「優しいのはともかく、そのお姉様って言うのは止めないか? ちょっと、いやかなり恥ずかしいんだ」
俺はそう訴えるとファリスは少しの間を置き。
「キューラ様」
とだけ言ってきた。
思わず転びそうになった俺は訴えるような瞳を彼女に向けると……。
「キューラ様!? どうしたの? どこかいたい?」
と心配されてしまった。
「いや、キューラ様って言うのも止めて欲しい……というか、さんとかじゃだめなのか?」
そう改めて伝えると、ファリスは驚いたような表情を浮かべ……すぐに瞳に涙を溜め始めた。
「……ああ、分かった分かった様を付けないなら姉と呼んでも良い……」
そう言うとファリスは納得いかないのか頬を膨らませるが……。
「キューラお姉ちゃんがそういうなら……」
真っ直ぐこっちを見つつ頷いた。
意外と聞き分けのいい子だな……まぁ、この様子なら必要以上に誰かを傷つける事はしないだろう。
そこは安心しても良いんじゃないか? と確信した俺は改めて辺りを見回す。
「それにしても……」
だが、当然見覚えのある景色ではない。
「ここ、何処だよ……」
まるで異世界に来てしまったのではないか? そう思う俺だったが、俺の疑問にはファリスが答えてくれた。
「たぶん神大陸……の真ん中ぐらいでも、こんな所知らない」
「神大陸の真ん中ってなんで分かるんだ?」
大陸を出ていないと言えるのは可能性としては高いだろうし分かる。
だが、何故真ん中と言ったのだろうか?
「キューラお姉ちゃん達が居た牢獄の街は神大陸の中央首都の近くにある……だから、此処も近くのはず……」
なるほど、つまり……だ。
迷わずに中央都市には行ける、そしてそこにはクリエが居るはずだ。
「……クリエは無事なのか……」
俺の独り言、それにファリスは頷き……。
「たぶん……キューラお姉ちゃん達をおびき寄せる為に無事だと思う……」
ああ、なるほど今はまだ人質としての価値がある訳か……事実勇者を殺した所で俺達に襲われたらたまらないだろう。
ましてやあれだけ仲間が居たんだ。
組織的な物があると考えてもおかしくはない。
そうなればこの世界がおかしい事を露見させてしまうかもしれない俺達は奴らにとっては邪魔ものそのものだ。
そうそうに消したい所だろう、つまり……クリエは良い餌になってしまっている訳だ。
「……なら、中央都市を目指すか……?」
俺はそう口にしながらペンダントへと視線を向ける。
分かっている、今言った事が愚策である事ぐらいは……。
クリエを助けなきゃいけない、だが相手はその事ぐらいは理解してるだろう。
「今、いってもあぶない……」
ファリスもそう言うように俺達は一度敗北した。
イリスや他の仲間のお蔭で脱出できてはいるが……一度俺達は捕まり、敗北したのは間違いない。
「分ってる……」
俺はそう言うとこれからどうしたら良いのかを考える。
まずは仲間を探さなきゃいけない。
何処に行ったのかは分からないが、きっと生きているはずだ。
そして、俺は――強くならなきゃならない。
「………………」
治っている腕を見つつ俺は夢での言葉を思い出す。
アウクは怒りや憎しみで魔拳を使った結果だと言っていた。
つまり、そう言った感情では魔拳が使えない……いや、それを前面に押し出してしまえば俺は死ぬ。
最初に俺が魔拳を使った時、あの時もクリエを助けたいという思いよりも、クリエを傷つけられ怒った。
だから俺は腕を焼かれたのか?
なのに、あの時アウクは自分の言った事を押し通して見せろと言って力をくれた。
どういう意味なんだ? 矛盾しているようにも思える。
「キューラお姉ちゃん……魔物いるよ?」
「……ああ」
ファリスに注意され俺は前を向く……そこに居るのはコボルトだ。
旅立ちのあの日……出会った魔物。
クリエとカイン、チェルと一緒に戦ったんだよな。
思い出しながらも、俺は魔物へと目を向け……。
「行くぞ、ファリス……魔法で対処するぞ!!」
「うん!」
咆哮を上げる魔物へと向かって走る。
俺は――どうしたら良い? 憎しみでも怒りでもなく、どうやってクリエを助ける?
いや、深く考えるな簡単な事じゃないか……助けたいから助ける。
理由なんてそれで良いはずだ。
だから――俺は、いや……俺達は――。
「こんな所でくたばるつもりはない!!」
そう叫んだ俺は腕を真っ直ぐ伸ばし――ファリスも同じように手を伸ばす。
「――フレイム!!」
「焔よ――焼き払え! フレイム!!」
そして、二人の魔法はほぼ同時に放たれるのだった。




