236 決裂
勇者を助けられなかった。
そう伝えられたキューラは話を聞く……。
だが、聞けば勇者は転生者にしか救えないという。
転生者を探せと言われた彼はそれをはっきりと断るのだった。
俺はファリスを連れ部屋を去ろうとする。
それでも俺は彼が本当に勇者を救いたいと思うのならば止めてくるだろう、そう思っていた。
しかし――。
「出口は扉を出て左側だ……だが、少し待ってほしい、簡単ではあるが旅支度をしておこう」
一応止められはしたが、出て行くのを拒否されている訳ではない。
疑問に思いつつ――。
「止めないのか?」
俺は彼に尋ねてみる。
すると彼は……。
「………………」
何も答えなかった。
何がしたいんだ? こいつは……。
「お前達は勇者を助けたいんだよな? それで俺の協力を仰いだ。なのに拒否されて止めもしないのか? 本当に救いたいなら――」
俺は性格が悪い、そう思いつつも思った事を口にしてみる。
すると――。
「止めても無駄なのだろう? それにとうの昔に諦めていた事でもある」
「……あきらめた?」
ファリスがその言葉に反応すると男は大きなため息をする。
「世界は勇者によって滅ぼされる……いずれそんな時が来る。だというのに動けずにいる自分達が居る……それがこの世界の終わりだ」
………………なんて身勝手だろうか?
勇者がその選択をする、その可能性は俺も考えた。
だが、あの村の村長のように転生者でもない人々が呪いの様なモノに抗っているのも知っている。
こいつらは常識と考えている事を呪いだと言い、自分達で変えようとしていないだけだ。
違和感を感じたなら行動できたはず。
クリエを助けようとしてとは言ったが……恐らくは正直な所。
「そうか、ならお前達はクリエが死ねばその選択がされない、そう思って助けることが出来なかった訳だ」
俺がそう言うと男はびくりと身体を震わせた。
図星か……。
「尚更お前達と組むつもりはない……」
俺はそれだけを残し、部屋の外へと出る。
旅支度はされていない、今手元にあるのは来ている服、そして……本は……。
「本は何処かにいったのか」
「本? キューラお姉様……本ってこれ?」
俺が落胆しているとファリスは自分が身に着けていたバックの中から一冊の本を取り出した。
見覚えのある本だ……。
「お前、それ何処で……?」
「あの処刑場……キューラお姉様に必要だって変な爺が……」
変な爺って……まぁ、恐らくこの本をくれたあの爺さんって事だろう……何にせよ。
「それは大事な物だったんだ、ありがとうなファリス」
俺は彼女の頭を撫でてやった。
「――っ!!」
すると彼女は一瞬驚いた顔をするが、すぐにへにゃりと表情を崩し……。
「えへ、えへへへ……」
初めて年相応らしい笑みを浮かべた。
それから俺達は屋敷から出る。
そこから見える街並みは普通とは違った。
窓からではよく見えなかったが、なんというか……質素だ。
いや、貧困の街……そう言っても良いのかもしれない。
影になっている場所には襤褸布を纏った人々。
良く見れば街を歩く人も痩せ細っている。
そんな中、一人の少年が走っていき、転んだ。
彼もまた子供なのに食事をまともに取れないのかガリガリだ。
転んでからは暫く立ちあがる事は出来ず……だというのに誰も手を貸さない。
「…………」
そんな中で一部目立つ者達が居る。
武装をした者達だ。
彼らは街の住民のように痩せ細ってはいない。
きっと良いものを食べてるのだろう……恐らくあの貴族も。
「胸糞悪いな……」
そう思い俺は転んだ少年の方へと向かう。
いつまで経っても助けに向かわないあの武装集団に苛立ちながらだ。
「大丈夫か?」
少年に声をかけると彼はうめき声をあげる。
どうしたのだろうか? そう思いもう一度声をかけた。
すると――。
「痛い――痛いよ……」
擦りむいたのだろう、大粒の涙を流している。
「おとこなのになさけない」
ファリスの突込みは棘があるな……。
「そう言うな転んだんだ……ファリス何かないか?」
彼女に尋ねると首を横に振られてしまった。
とは言え、俺も何も持っていないかと言ってほっとく訳には……。
そう思い近くにあった井戸へと俺は向かう。
「――!! お姉ちゃん駄目!!」
するとかすれた声で俺を呼び止めるのは先程まで泣いていた少年だ。
「駄目って傷口を洗わないと――」
井戸水ならある程度綺麗だし、飲む訳じゃなければそのまま使っても大丈夫だろう。
ライムが居てくれれば安心なんだが……そう思い水を汲む桶に手を伸ばした時。
「何をしている?」
俺に声をかけてきたのは武装した男。
「見て分かるだろ? 傷口を洗ってやるんだ」
そう言いながら井戸へと桶を落とそうとしたが……俺の腕を男は掴む。
「勝手に水を汲むな!」
怒鳴り声をあげながら男は掴んだ俺の腕を上の方へと持ち上げる。
「――っ!?」
「キューラお姉様!!」
その力は……こんなに強く握る必要があるのか? と疑問に思うほどだった。




