220 ヘレンの元に
無事目を覚ました領主。
彼とその妻と話をしたキューラはロッシュが死んでいたという事実を聞いた。
彼らの話では死体も見たという……そして、それを娘であるヘレンは知らない。
キューラはロッシュが偽物である事に気が付き急ぎ、ヘレンの元へと向かうのだった。
屋敷の中を走る俺は焦りつつ、心の中で語り掛ける。
『クリエ、クリエ!!』
その相手はヘレンの傍にいるはずのクリエだ。
そう、彼女達には俺の魔法であるドールで作った人形を渡している。
それを使えば会話ができる、はずだった……。
「なんでだよ! なんで反応が無い!?」
クリエの事だドールが喋り出せばすぐに反応してくれるはずだ。
なのに、反応が無い……不自然なまでに無い……。
まさか、もうすでに? ドールの弱点は作った人形を壊されても分からないって事だ。
魔法は便利な反面、不便な部分もある。
ドールの場合がそれだ……。
「くそっ!!」
俺は焦りつつ、保険として動いてもらっていた彼女へと声をかけた。
『イリス……聞こえるか?』
もし、彼女のドールまで壊されていたら? そんな不安を感じつつ、返事を待つ。
「えと、どうすれば良いのかな? このままえっと……あ、は、はい!」
恐らく急に喋り出した人形に驚いたのだろう。
イリスの戸惑う声が聞こえた。
『イリス! そのまま聞いてくれ、近くにレムスが居る! レムスには君の命令を聞くように言ってある……だから、名前を呼んで頼んでくれ!!』
そう、レムスはイリスの護衛としてこっそりつけさせていた。
賢い奴だそうそうばれる事は無い。
だが、勿論護衛というだけではない……。
『良いか? レムスに頼むのは、クリエ達を探して見つけたら俺の所に来るように言うんだ! それと――』
イリス自身に頼んでいた事もある。
……それは、この屋敷内いたる所に精霊石の道具を忍ばせるという事だ。
何故そんな事をしたのか? 理由は簡単だ。
もしも何か起きた時、逃げ切る為の手段にしようとしていたのだ。
仲間達にも隠していたのはヘレンが敵だった場合を想定してのことだった。
『君は此処から逃げてトゥスさんと合流してくれ……だけど、まず向かってほしい所がある。場所は――執務室だ! 領主達も連れて逃げてくれ! 危険だと思ったら頼んでおいた精霊石の道具を使ってくれ!』
「え、あ……キューラちゃんは?」
彼女は戸惑ったまま俺の事を聞いてくる。
だが……。
『今は時間が無い! 早く!!』
「は、はい!? レ、レムス? クリエさん達を探して、その……見つけたらキューラちゃんの所に行って? …………ひゃぁ!?」
彼女の言葉は大きな羽ばたきの音によってかき消される。
その後レムスの「カァ!!」という声が聞こえたという事は何か彼女自身に危機があった訳ではなさそうだ。
『逃げる時は気をつけてくれ……』
俺はそう告げるとすぐにトゥスさんの方へと声をかけた――勿論イリスの保護とこっちの支援をしてもらうためだ。
『トゥスさん! 非常事態だ! すぐにイリスと合流してくれ……場所は執務室……後でレムスを飛ばす安全な所に行ったらこっちに合流を』
「……何が起きたんだい? って聞きたい所だけど、どうやら急ぎのようだね、良いよ任せておきな」
トゥスさんはやはり頼りになる……そう思いながらも俺はヘレンの部屋の扉を開く。
ノックなんてしている暇はない! とにかく早く中を確認しなくては……。
そう思い開けた部屋の中には……。
「クソ!! 遅かった!」
誰も居ない、クリエの姿もないし、誰かが暴れた形跡もない。
恐らく……言葉巧みに連れていかれてしまったのだろう。
「一体何処に……!!」
何処に行った? レムスが探してくれているはずだ。
そんな事は分かっていた。
だが、それでも……。
「黙って待っていられるかよ!!」
俺は屋敷の出口へと向かい走る。
何時連れていかれたのかは分からない。
だが、誰かが出入りしたのは分かるはずだ。
門兵はあてにならない……何故ならロッシュの名を告げてきたのはあいつらだからだ。
なら……。
「なぁ! ごめん! ヘレン達が何処に行ったか知らないか!?」
俺は適当なメイドを見つけて声をかける。
彼女は首を傾げつつ……。
「はぁ……先ほど護衛のお爺さんと一緒に外に買い物に出かけましたよ?」
「買い物? 何処にだ? それにクリエもか?」
俺の質問に彼女はその時の事を思い出しているのだろう、頬に手を当て応えてくれた。
「さぁ、そこまでは……それと勇者様は最後まで止めてましたが、お嬢様は何やら不機嫌なようで……困った様子で二人を追いかけてはいましたよ」
つまり、朝のやり取り……あれで不機嫌にさせてしまった俺の不手際って事か……。
くそ……余計な事を言うんじゃなかった。
いや、今そんな事を後悔しても遅いな。
「とにかく何を買うのか言っては無かったか? それである程度は予想がつく――!」
「す、すみません……お嬢様も何処に行くのかは言ってないんです……」
くそ! まぁ……ただのメイドに伝える必要はないのかもしれない。
伝えてるとしたら門兵だが、敵だとしたら俺には嘘を言うだろう……。
「そんな事言っていられるか!!」
「きゃぁ!?」
俺は思わず叫び声をあげ再び屋敷の外へと向かう。
叫び声にびっくりしたらしいメイドには悪い事をしたとは思ったが、今は少しの情報をくれた事にも感謝の言葉を伝えている暇はない。
「……!!」
嫌な予感……不安は一向に収まってくれる気配はない。
頼む……このまま何も起きないでくれ……そう願うしかなかった。




