132 勝利……?
強敵を相手に死を覚悟するキューラ。
しかし、使い魔であるライムの危機にライムを守れないものがクリエを守れるのか? と自問する。
そして導き出した答えと意志を武器に再び魔法を唱えたのだった。
勝った! 俺の中で生まれた言葉はそれだけだった。
だが……現実はそんなに甘くない。
吹き飛んだ男は見事に受け身を取り、体制を立て直すと俺の方へとその鋭い瞳を向けてきた。
だが近寄って来る事は無い……俺の様子を見てどこかで仕掛けてくるつもりか……。
全く……格下相手だってのに隙一つ見せてくれない奴だな、こいつは……。
「…………」
怒りを声に出した男は剣をその場で振るい、此方へと向かって来ようとしているのだろう。
力を込めているのが分かった。
もう一度接近されたら今度こそ打つ手がない! そう思い俺も身構えると……。
「がはっ!?」
男はその場に崩れ、血を吐き出す。
どうやら俺の魔法は効果が合った様だ! これならこのまま追撃を――!!
「――――っ!?」
そう思った所で俺は思わず息をのみ、その場で固まった。
いや、正しくは腰が抜けそうになったと言った方が良い……。
ゆっくりと持ち上がった相手は血塗れの口元は歪み、目元も同じように歪んでいる。
そこには恐ろしいほどの笑みがあった。
まるで妖怪や悪魔が獲物を見つけたとでもいうようにさらに口元は歪み……。
「良いな、面白い……その力量で俺に一撃を与えるか……油断をしていたという事か、クククククク……」
顔を覆い、笑う男。
そいつは先程までとは違い、隙だらけだ。
だというのに俺に襲い掛かるこの恐怖は一体なんだ?
感じた事もないそれに耐え切れず、俺は腰を地へと着ける。
マズイ!! そう思っても身体には全く力が入らず……歯は勝手にガチガチと震えそうになる。
何とかそれだけを堪えていると男は首を傾げながら恐ろしい笑みで語り掛けてきた。
「気が変わった……今日は見逃してやる。お前の仲間もあの女達もだ。だが……いずれ、またお前には会いに行ってやる……熟した頃に力の差を見せつけ、今以上の恐怖をその身体に刻んでから弄ぶことを約束しよう」
「そ、そんな約束いらないな……」
俺は何とかそう返すと男は高笑いをし……。
「お前の答えはいらない、踏みにじる事に…‥‥凌辱するのに誰が許可を得る?」
おいおい、こいつ危険なんてもんじゃないぞ!?
言っている事も本気なんだろう、もしかして、俺が立てないのは女になった事でこうなっているのだろうか?
そんな事を考えていると男は剣をしまい身を翻し去って行く……。
やはり隙だらけだ。
それは分かっていた……だが、身体はいう事を聞かず。
俺は男が去って行くのをただただ見つめているのが精一杯だった……。
「は、はは……」
恐怖ゆえだろうか? 口からは別に笑いたくもないのに笑い声が勝手に出てくる。
もし、もう少し奴が去るのが遅かったら……俺はどうなっていたのだろうか?
まるで少女の様に叫ぶ? それとも怯えるのか? 全くこの身体の所為で……。
「いや、そうじゃない……男とか女は関係ない……アイツはヤバい奴だ」
あの瞳……あれは獲物を見る目じゃない。
例えるならそう……使い捨ての玩具を見るような目と言った方が良いのだろう……クリュエルとは違う……魔王の配下の男とも違う。
アイツの目は面白そうなモノで遊べることを喜んでいる。
そんな感じの瞳だった……。
「い、いやな奴に目をつけられちまったな」
そう口にした声は震え、歯もガチガチと音を立て始める。
足は痛みを訴え、もうボロボロだ。
「…………」
俺は弱い……今回はたまたま意表を突く事に成功した。
だが、次は無い。
アイツはきっとまた俺の目の前に現れるだろう……。
「あんな化け物と戦って勝てって事かよ……」
そう思うだけでも嫌気がさしてくる。
しかし、一つだけ分かった事がある。
それは――魔法だ。
「魔法って自分の思った場所から相手に飛ばすこともできるのか……」
恐らく魔法を発動させる場所、対象が見えているという事が条件のはずだ。
この条件はあくまで俺の予想だ。
それにしてもこの手段を冒険者学校で習わないという事は有名ではない、または有効な手段ではない、そのどちらかだ……だが、魔物相手でもこれは有効な手段。
教えない訳がないはずだ……つまり、この手は有名ではないもしくは使える人間が少ない。
「だけど、俺には使えた」
まぐれか奇跡か分からないがそれも確かな事だ。
なら、利用させてもらおう……。
「ライム……」
俺は一旦考える事を止め、使い魔の名を呼ぶ。
すると足の傷を覆ってくれているライムは恐らくこっちを向いてプルプルと震えていた。
「少し休もう」
早く合流しなければならないのは分かってる。
だが、腰は抜けているし何より疲れがある……俺はライムにそう告げた後、ズリズリと安全な場所まで身を引きずり、大の字になった。




