121 選択
悩むキューラ、村へと進む彼らの前に現れたのは馬車と冒険者。
彼らは何かを警戒しているようだが……。
トゥスはそれを後ろめたい何かがあると言う……果たして、彼らは何者なのだろうか?
そして、クリエの運命は?
もし相手がトゥスさんの予想通り犯罪めいた事をしているのであれば……。
その命を刈り取る事は造作もない。
「何て言える訳がないよな……」
俺は誰にも聞こえない様に口の中でその言葉をつぶやいた。
事実この世界に来るまで人と刃を交えたと言えばゲームの中だけだ。
それも、俺は苦手だった。
だからこそ、最後の日……俺は逃げるようにアイテムを置いてログアウトをしたんだ。
疑り深いくせに臆病者、人を傷つけるのが怖い訳じゃなく本当に怖いのは別の事……。
今回の場合、俺は何を気にしているのだろうか?
いや、考えるまでもない……。
とっくに何が一番怖いかなんて分かっていた。
俺が怖がっているのは人を犠牲にしクリエを助け……彼女に嫌われることが怖いんだ。
だからこそ、人が死ぬと言われて俺は躊躇っている。
方法が他に思いつかないというのにも関わらず、俺は……クリエに避けられるのが怖いと感じている。
彼女を守りたいから……勿論それはある。
だけど、何て言ったら良いか分からない感情がそうさせているのかもしれない。
「どうやらあそこに向かうみたいだね」
クリエを背負ったまま歩く女性トゥスさんは顎で方向を示す。
俺はそちらの方へと目を向けると、そこには真新しい小屋があった。
そこにも人が居り、彼らもまたなにかを警戒しているみたいだ。
一体なにをしているのだろうか? 疑問に思っていると彼らは馬車の中からなにかを降ろしていく……。
「……大きな袋?」
それは呟いたとおり大きな袋だ。
人一人簡単に入りそうな袋には生き物でも入っているのだろうか? もぞもぞと蠢いている。
いやな気分だった。
それが、なんなのか大体予想が付いたからだ……。
人が入るであろう袋に生き物が入っている。
そして、必要以上に警戒をしている冒険者風の者達。
外れて欲しい、俺はそう思いつつ彼らの動向を見ていると袋を絞める縄が緩かったのか、そこから慌てて這い出てきたのは若い女性だった。
彼女は裸同然と言っても良いぐらいの服装で駆け始めるもあっけなく捕まり、再び布袋をかぶせられる。
「奴隷だ……それも非合法だろうね」
闇奴隷……クリードでも取り扱っている闇商人と対峙したが……今回の奴らは別格だ。
何人も降ろし、小屋へと放り込む。
彼女達は何処から連れてこられたのだろうか? そう考える必要もない。
「俺達が行こうとしてる村から連れてきたのか?」
「多分ね、脅したのか……村を焼いたのか、それとも騙したのか、分からないけど普通正規の奴隷ってのはあんな袋に入れられない、大事な商品に傷がつくだろ? 丁重に運ばれるはずだよ」
「………………」
相手は悪人だ。
それも、罪もない人を今まさに傷つけている悪党。
遠慮なんかする理由もない、なのに……何故か俺は躊躇ってその場から動くことが出来ずにいた。
実際に銃を撃つのはトゥスさんだ。
俺じゃない……俺はせいぜい魔法で牽制するぐらいだ。
「大丈夫だよ、手を汚すのはアタシで良い」
「…………」
トゥスさんには俺の考えていることがばれてしまっている様だ。
だけど、本当にそれで良いのか? クリエを助ける手段がそれしかないとしても……彼女にだけ手を汚させるのか?
いや、それは駄目だ。
俺だけ手を汚さずに済ませる? そんなの仲間ではない。
それに――。
「一人殺れば、他の奴らだって黙ってないぞ……」
「ここで撃ってそのまま逃げるのさ」
おいおい、つまりあの子達は見殺しにするって事か? あの布袋の中身全部が女の子……人だとは限らない。
だが、少なくとも一人はそうだった。
俺達が例え勇者一行じゃなかったとしてもここで見捨てるのは人としてどうなのだろうか?
そう思いつつもトゥスさんの判断は正しいと思った。
相手の力が分からない現状、下手に手を出すのは危険だ。
危険……なんだ……。
でも、この状況をもしクリエが見たらどうする?
彼女はきっと……。
「助けよう……」
クリエならきっとそう言う。
例え彼女が危険な状況にあれど、これを見捨ててはいけない。
そう思い口にした言葉だった。
しかし、トゥスさんは大きなため息をつくとクリエをそっと地面へと降ろし……。
「正気かい?」
「そもそも、クリエを担いで逃げ切れるか? もし捕まったらその時はどうする?」
一睨みされ思わず後ろに下がりそうだった身体を何とかその場に保ちつつ、俺は彼女にもっともらしい事を告げる。
「だからってね……」
納得いかない様子のトゥスさんだが、しっかりと説得しなきゃいけないな。
「それに、彼女達を助ける事には旨味がある」
「旨味?」
繰り返された言葉に頷き俺は馬車へと指を向けた。
「あの馬車を奪おう……あれでなら村へも早く着くはずだ」
そう言うとトゥスさんは一瞬呆けた表情を見せるがすぐに歯をむき出し悪人の様な笑みを浮かべると……。
「驚いた……それで、手はあるのかい?」
「ああ、油断をさせて一気に叩く……」
納得してくれた彼女に俺は策を伝える。
すると、トゥスさんは眉をひそめ咎めるように俺を睨み……。
「お嬢ちゃん、あのね……」
「大丈夫だライムも居る……それにトゥスさんだって傍にいるだろ?」
俺はそう言って、準備へと取り掛かる。
その前にクリエへと目を向け……彼女を絶対に救おうと誓った時の事を思い出していた。




