107 帰宅
温泉は広くいい場所だった。
しかし、キューラの心は休まる事は無い。
当然だ……すぐそばには女性であるクリエが居るのだから……結局のぼせる寸前まで湯につかっていたキューラはライムに助けられることになったのだった……。
温泉から出た俺達は宿へと戻ろうとした。
そんな時あの村長の孫娘であるアイシャと言う少女がこちらへと向かって来るのが見えた。
「あの子は……」
クリエは首を傾げつつ彼女の方へと目を向ける。
そう言えばさっきどこかに出かけようとしていたし、何か用事でもあったんだろうか?
そんな事をぼんやりと考えているとアイシャは歩き方を乱暴な物へと変え、俺達の方へと向かって来る。
思わず口に出そうになったが、女性だろうが男性だろうがおいおいと思わず言ってしまいそうになる程大股だ。
いや、逆に長いスカートの為足が見えないからマシなのか? いや、やっぱりあの歩き方は無いな。
「短ければ……っ!!」
そして、うちの勇者様はとうとう百合なだけでなくただの変態に成り下がったのか?
いや、元々そうか……? うん、幾ら元男とはいえ今はただの少女の俺に迫って来るし元からだな。
というか、俺が元々男と言うのはあまり気にしないのは何故だろうか?
「でも、こちらに向かって来るという事は何かのようでしょうか?」
「いや、偶々見つけてイラっと来たんじゃないか?」
村長の家の前でも何故か怒っていたし、もし本当にクリエの身を案じてくれているなら嬉しいが……最初から喧嘩腰の彼女は苦手だ。
「イラついてなんかいません!!」
ああ、俺の言葉が聞こえたらしく、目を吊り上げたアイシャは少し大きめな声でそう告げてきた。
まずいな……目をつけられた。
「そして、何でそんな嫌な顔をしてるんですか?」
「いや、そりゃ誰でも大股でいかにも不機嫌ですって顔で近づいて来たら嫌だろ?」
まぁ、俺はこの子が苦手なだけだが……。
「そうですか……!」
乱暴な言葉ではないはずなのにどこか乱暴に聞こえるのはなんでだろうか?
俺が疑問を浮かべている間にアイシャは深呼吸をし、相変わらず怒った顔のままで俺の方へと目を向けた。
「お爺ちゃんから伝言です、貴女一人もう一度家に来るようにって」
「ん? 俺一人?」
何で俺だけ? というかそれを伝えるためにこの子は来ていたのか?
「宿に行ったら居ないし! 勇者様と二人で出かけたって言われたし! 態々ここまで来るの面倒だったんですけど……」
うわぁ、声は潜めてはいるような感じで呟いてはいるが、しっかりと聞えてるぞ?
「え、えっと……ごめんなさい?」
これにはクリエも驚いたようで一歩後ろへと下がりつつ謝った。
そんなクリエを見て途端に表情を変えた村娘は――。
「い、いえ! 勇者様”は”何も悪くないです!」
なんで今”は”を強調したんだ? と聞きたかったが、聞いたら聞いたで面倒そうだな。
「とにかく伝えましたから!」
彼女はそう言うと身を翻しすたすたと去って行く、その途中……。
「何で信用も出来ない人に」
その声は潜めようとしていたのかは分からないが、やはりしっかりと俺達の耳に届いており……。
「あの……キューラちゃん」
「ん? どうした?」
申し訳なさそう……いや、どこか悲し気な表情を浮かべたクリエは俺の方へと向き、呟いた。
「私、その……この村、嫌いかもしれません」
「………………そうか」
嫌いという言葉に驚いた俺だったが、もしかしたらこれまで俺が感じていた事を彼女もこの村で感じたのかもしれない。
そう思うとどこか、おかしい気持ちにもなった。
「とにかく戻るか」
俺がそう言うと納得いかないように頷き、宿へと戻る。
そして、俺はそのまま一人で村長の元へと向かった。
俺に用途は一体なんなのだろうか? もしかして、先程の話が嘘で俺を捕らえる為とかか……?
駄目だそう簡単に疑うな……これはもう悪い癖になってるな。
「失礼します」
村長の家に着いた俺はノックをし、中へと足を踏み入れる。
すると、待っていたとばかりに先程話していた部屋から現れた村長はしわくちゃな顔にさらに皺を寄せた。
「おお、来たか……こっちだ」
「あ、ああ……」
彼は部屋から出ると家の奥へと向かって行く、当然俺は後を追うと……。
「不思議だろう? 何故勇者に奇跡を使えと言わないのか、村長の家が一番ボロボロなのか……」
「…………まぁな……」
村長の言葉に俺は思わずそう口にする。
事実、お告げだと言っても信じられるわけがないのだ。
ましてや――そう簡単に信じられない。
「質問だ……何で俺はアンタに呼ばれた? それに名前すら名乗ってないよな、失礼じゃないか?」
「……そうだな、ワシの名前はラルク……そして、何故勇者……神の子に奇跡を使えと言わないかは何もアイシャのお告げだけが理由ではない」
どういう事だ? そう思いつつも俺は一つの部屋に着いた事に気が付き……ゆっくりと開かれるそれに目を向ける。
そこは少し広い部屋だ。
そして真ん中にある物は――石碑の様な物。
「これに覚えはあるだろ?」
そういう村長は微笑んでいる。
だが、俺はその石板自体は見たことが無い! だってのに……。
「どういう……事だ?」
俺は其処に書かれている内容には見覚えがあった。
いや、内容と言ってもただ絵が描かれてるだけだ。
そこに描かれていたものは……。




