新婚旅行4日目 アイリスとデートのはずだった
昨日は、マリーと回ったので、今日は、アイリスと一緒に回る。
「ユーリ!急いで急いで!」
「分かってるって!」
俺は、アイリスに手を引かれながら、ある目的の為に走る。
「間に合ったな!」
舞台の上では、間もなく旅一座による劇が始まろうとしていた。
街を探索していた俺たちは、昨日には無かったポスターを発見。
内容は、旅一座による『湖の精霊物語』の公演のスケジュールだった。
どうやら、昨日着いたらしく今日から公演するが、本日は一度のみ。
さすがに、マリーも誘おうと考えて2人で戻ったら、残念な事に彼女は出かけていた。
俺たちは、一度宿に戻った事で、開演まで時間がなくなり走ったという訳だ。
「これより行いますは、実話を元にいたしました物語と相成ります。それでは、皆様、一時の時間をお楽しみ下さい」
劇が始まった。場面は、勇者が湖に聖剣を落とした所からスタートした。
「困った!あの聖剣が無いと勇者とは認められない!」
えっ、何? 剣が勇者の証なんですか?
「困り果てる勇者。その前に、湖の精霊が姿を現しました」
「貴方が落としたのは、この聖剣ですか?それともーー」
あっ、この話知ってる。泉の妖精だ。正直者に全部あげるってやつ。
「水の精霊たる、この私でしょうか?」
……はい? 今、自分を落としものって言わなかった?
「実はというと水の精霊は勇者に、一目惚れしていたのです」
聞き間違えじゃなかったな。
「それに対する勇者の返答はというと……」
「貴方です。貴方を落としました!」
「勇者も勇者で、水の精霊に一目惚れしていたのでした」
「まぁ、正直なお方! そんなに貴方には私の全てを差し上げましょう」
「こうして水の精霊は、勇者の妻となり旅に同行する事となりました」
ここから何度か場面が変わり、魔王軍との戦いが始まった。
まず、魔王の四天王との戦い。何故、全員で当たらないのか不思議でならない。
そして、魔王との一騎討ち。
「ぐぐっ!?まさか、この俺がヤラれるというのか!?」
「ふっ、お前には、そもそも敗因がある!」
「なっ、なんだと!?」
「妻がいない事だ!!」
「………」
……それ、関係ないよね? 魔王役も黙っちゃったよ。
「そうか……我に足りなかったものはそれか……ふふっ」
あっ、それで納得するんだ。劇だからおかしくないけど。
「何が、おかしい?」
「出来るものならとっくに出来ているわ!愚か者ー!!」
「なっ!?きっ、貴様!?」
ドゴォオーーン!と、爆音が響き渡る。
「セリシオンーー!」
水の精霊役が勇者の名前を叫ぶ。後半になってやっと勇者の名前を知ったよ。
「魔王は、勇者を道連れに自爆しました。先の戦いで疲労していた勇者に避けるすべは無く、死の淵へと落ちて行きます」
「クソッ、……俺はもうここまでの様だ」
「そんな事はない!エリクサーさえ飲めば……!」
「ストックしていた物は、全て魔王にヤラれてしまったよ……。薬草のストックすら今はない」
「そんな!?月の雫ならいくらでも作ってあげれるのに!?」
えっ、月の雫を生成出来るの?
という事は、水の精霊には、アイリスの様なスライム性質が入ってる?
アイリスは、魔族になったけど月の雫を生成出来るしな。
「死にかけの勇者は、己が聖剣を水の精霊に渡し、彼女に告げます」
「俺は、また、帰ってくる。約束の印にこれを受け取ってくれ」
「ホントに帰って来れるの?」
「転生の秘術を使う。時間はかかるだろうが必ず君の元へ帰ってくる」
「……分かったわ。新しい貴方にまた会うわ。そして、また、好きになってあげるから」
「ああ……必ず……また……会おう」
「その言葉を最後に勇者は亡くなりました。彼の最後を看取った水の精霊は行動を開始します」
「全く、貴方は、忘れていたのかしら?私は、ただ待つだけの女じゃないよ」
「水の精霊は、勇者の剣と家を水で包むと湖の底に沈めました」
「これで、良し。これなら私たち以外には見つけられないし、触れられない。……ねぇ、セルシオン。前は、貴方が私を見つけたけれど、今度は、私が見つけてあげるわ」
水魔法の演出だろう。水の妖精役の人が泡に包まれると消えていた。
「こうして、水の妖精は、もう一度勇者に巡り会うため転生する事にしました。彼女の残した思い出の品は、今でも封印が施され水底に眠っているそうです」
こうして劇が終わった。パチパチパチッと拍手が鳴り響く。
「「………」」
そんな中、俺とアイリスは、何とも言えない表情で黙っていた。おそらく同じ事を考えている。
「ねぇ、ユーリ。家って……」
「……あれだろうな」
水底の家に心当たりがある。湖水浴した時、アイリスたちと一緒にダイビングしたら水底で見つけたのだ。
しかし、他人には見えない様で、マリーには見えていなかった。
「じゃあ、聖剣っていうのは?」
「コレですかね?」
アイテムボックスから剣を出す。これも、水底にあった物だ。
水底の家に近付いた際、玄関前に突き刺してあった。
マリーは、抜けなかったが、俺とアイリスは、抜けたので貰ってきた。
ずっと水底に置いておくのは、勿体無いと思ったからだ。
「どうする?」
「どうしようか?」
「ねぇ、私、あの家詳しく探索したくなったんだけど」
「実は、俺もなんだよな〜」
ただ、今は、デート中だから止めようかと悩んでいる。
「お互いに興味が湧いたならそっちにしよう」
「良いのか?」
「うん!この街、一通り見たしね。それより、話に聞いた商業都市ウェンに行ってみたい」
そういえば、妊娠中だったから連れて行ってないんだよな。
「ok。そっちでデートをやり直す事にして探索しよう」
「わぁ〜い♪」
俺たちは、再び湖へ向かうことにした。
「結界。風」
ルーン文字による障壁を自分たちの周囲に宇宙服の様に展開して、中の空気を風で循環させる。
タコ探しの為、海底に潜った際に学んだ。これなら、長期間潜っていられる。
「行こう」
「わくわくするね♪」
一度、訪れているので、水中とはいえ転移出来る。
「剣を引っこ抜いて、何か起こるかと思ったけど変化ないな」
水底の家は、前と変わっていなかった。
「それじゃあ、入ろう」
玄関の扉を開けて中を見た。テーブルやコンロが置かれている。
どうやら、玄関から直ぐにキッチンへと繋がる様だ。
「おっ、邪魔しま~す♪……えっ?」
アイリスは、玄関をくぐると何故か、すぐに足を止めた。アイリスに続き、俺も玄関をくぐり中に入る。
「えっ?」
アイリスが足を止めた理由が分かった。中には、空気が満ちていたのだ。
「どういう事だ?術者もいないのに魔法が発動してるなんて?」
「この感じ……精霊魔法かな?」
「精霊魔法?」
「私たちが使う魔法とは違い、精霊の力を借りて行う魔法だよ。術者がいなくても精霊が存在し続ける限り、効果は続くの」
「なら、その精霊が護り手として、まだいるという事か?」
「おそらく」
「なら、はやく見つけて謝罪しよう。勝手に入った訳だし」
「そうだね。ちょっと、見てみるよ」
「その必要はないわ。私は、ここにいるもの」
「「!?」」
アイリスが魔力感知を行おうとしたら、第三者の声が聞こえてきた。
急ぎ、部屋を見渡すとテーブルの上に妖精の羽を生やした少女が座っていた。




