表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

99/484

新婚旅行4日目 アイリスとデートのはずだった

 昨日は、マリーと回ったので、今日は、アイリスと一緒に回る。


「ユーリ!急いで急いで!」


「分かってるって!」


 俺は、アイリスに手を引かれながら、ある目的の為に走る。


「間に合ったな!」


 舞台の上では、間もなく旅一座による劇が始まろうとしていた。


 街を探索していた俺たちは、昨日には無かったポスターを発見。


 内容は、旅一座による『湖の精霊物語』の公演のスケジュールだった。


 どうやら、昨日着いたらしく今日から公演するが、本日は一度のみ。


 さすがに、マリーも誘おうと考えて2人で戻ったら、残念な事に彼女は出かけていた。


 俺たちは、一度宿に戻った事で、開演まで時間がなくなり走ったという訳だ。


「これより行いますは、実話を元にいたしました物語と相成ります。それでは、皆様、一時の時間をお楽しみ下さい」


 劇が始まった。場面は、勇者が湖に聖剣を落とした所からスタートした。


「困った!あの聖剣が無いと勇者とは認められない!」


 えっ、何? 剣が勇者の証なんですか?


「困り果てる勇者。その前に、湖の精霊が姿を現しました」


「貴方が落としたのは、この聖剣ですか?それともーー」


 あっ、この話知ってる。泉の妖精だ。正直者に全部あげるってやつ。


「水の精霊たる、この私でしょうか?」


 ……はい? 今、自分を落としものって言わなかった?


「実はというと水の精霊は勇者に、一目惚れしていたのです」


 聞き間違えじゃなかったな。


「それに対する勇者の返答はというと……」


「貴方です。貴方を落としました!」


「勇者も勇者で、水の精霊に一目惚れしていたのでした」


「まぁ、正直なお方! そんなに貴方には私の全てを差し上げましょう」


「こうして水の精霊は、勇者の妻となり旅に同行する事となりました」


 ここから何度か場面が変わり、魔王軍との戦いが始まった。


 まず、魔王の四天王との戦い。何故、全員で当たらないのか不思議でならない。


 そして、魔王との一騎討ち。


「ぐぐっ!?まさか、この俺がヤラれるというのか!?」


「ふっ、お前には、そもそも敗因がある!」


「なっ、なんだと!?」


「妻がいない事だ!!」


「………」


 ……それ、関係ないよね? 魔王役も黙っちゃったよ。


「そうか……我に足りなかったものはそれか……ふふっ」


 あっ、それで納得するんだ。劇だからおかしくないけど。


「何が、おかしい?」


「出来るものならとっくに出来ているわ!愚か者ー!!」


「なっ!?きっ、貴様!?」


 ドゴォオーーン!と、爆音が響き渡る。


「セリシオンーー!」


 水の精霊役が勇者の名前を叫ぶ。後半になってやっと勇者の名前を知ったよ。


「魔王は、勇者を道連れに自爆しました。先の戦いで疲労していた勇者に避けるすべは無く、死の淵へと落ちて行きます」


「クソッ、……俺はもうここまでの様だ」


「そんな事はない!エリクサーさえ飲めば……!」


「ストックしていた物は、全て魔王にヤラれてしまったよ……。薬草のストックすら今はない」


「そんな!?月の雫ならいくらでも作ってあげれるのに!?」


 えっ、月の雫を生成出来るの?


 という事は、水の精霊には、アイリスの様なスライム性質が入ってる?


 アイリスは、魔族になったけど月の雫を生成出来るしな。


「死にかけの勇者は、己が聖剣を水の精霊に渡し、彼女に告げます」


「俺は、また、帰ってくる。約束の印にこれを受け取ってくれ」


「ホントに帰って来れるの?」


「転生の秘術を使う。時間はかかるだろうが必ず君の元へ帰ってくる」


「……分かったわ。新しい貴方にまた会うわ。そして、また、好きになってあげるから」


「ああ……必ず……また……会おう」


「その言葉を最後に勇者は亡くなりました。彼の最後を看取った水の精霊は行動を開始します」


「全く、貴方は、忘れていたのかしら?私は、ただ待つだけの女じゃないよ」


「水の精霊は、勇者の剣と家を水で包むと湖の底に沈めました」


「これで、良し。これなら私たち以外には見つけられないし、触れられない。……ねぇ、セルシオン。前は、貴方が私を見つけたけれど、今度は、私が見つけてあげるわ」


 水魔法の演出だろう。水の妖精役の人が泡に包まれると消えていた。


「こうして、水の妖精は、もう一度勇者に巡り会うため転生する事にしました。彼女の残した思い出の品は、今でも封印が施され水底に眠っているそうです」


 こうして劇が終わった。パチパチパチッと拍手が鳴り響く。


「「………」」


 そんな中、俺とアイリスは、何とも言えない表情で黙っていた。おそらく同じ事を考えている。


「ねぇ、ユーリ。家って……」


「……あれだろうな」


 水底の家に心当たりがある。湖水浴した時、アイリスたちと一緒にダイビングしたら水底で見つけたのだ。


 しかし、他人には見えない様で、マリーには見えていなかった。


「じゃあ、聖剣っていうのは?」


「コレですかね?」


 アイテムボックスから剣を出す。これも、水底にあった物だ。


 水底の家に近付いた際、玄関前に突き刺してあった。


 マリーは、抜けなかったが、俺とアイリスは、抜けたので貰ってきた。


 ずっと水底に置いておくのは、勿体無いと思ったからだ。


「どうする?」


「どうしようか?」


「ねぇ、私、あの家詳しく探索したくなったんだけど」


「実は、俺もなんだよな〜」


 ただ、今は、デート中だから止めようかと悩んでいる。


「お互いに興味が湧いたならそっちにしよう」


「良いのか?」


「うん!この街、一通り見たしね。それより、話に聞いた商業都市ウェンに行ってみたい」


 そういえば、妊娠中だったから連れて行ってないんだよな。


「ok。そっちでデートをやり直す事にして探索しよう」


「わぁ〜い♪」


 俺たちは、再び湖へ向かうことにした。






結界(ソーン)(ラド)


 ルーン文字による障壁を自分たちの周囲に宇宙服の様に展開して、中の空気を風で循環させる。


 タコ探しの為、海底に潜った際に学んだ。これなら、長期間潜っていられる。


「行こう」


「わくわくするね♪」


 一度、訪れているので、水中とはいえ転移(シフト)出来る。


「剣を引っこ抜いて、何か起こるかと思ったけど変化ないな」


 水底の家は、前と変わっていなかった。


「それじゃあ、入ろう」


 玄関の扉を開けて中を見た。テーブルやコンロが置かれている。


 どうやら、玄関から直ぐにキッチンへと繋がる様だ。


「おっ、邪魔しま~す♪……えっ?」


 アイリスは、玄関をくぐると何故か、すぐに足を止めた。アイリスに続き、俺も玄関をくぐり中に入る。


「えっ?」


 アイリスが足を止めた理由が分かった。中には、空気が満ちていたのだ。


「どういう事だ?術者もいないのに魔法が発動してるなんて?」


「この感じ……精霊魔法かな?」


「精霊魔法?」


「私たちが使う魔法とは違い、精霊の力を借りて行う魔法だよ。術者がいなくても精霊が存在し続ける限り、効果は続くの」


「なら、その精霊が護り手として、まだいるという事か?」


「おそらく」


「なら、はやく見つけて謝罪しよう。勝手に入った訳だし」


「そうだね。ちょっと、見てみるよ」


「その必要はないわ。私は、ここにいるもの」


「「!?」」


 アイリスが魔力感知を行おうとしたら、第三者の声が聞こえてきた。


 急ぎ、部屋を見渡すとテーブルの上に妖精の羽を生やした少女が座っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ