出産前夜
マジックアイテムによる診断だと、今日の夜にアイリスとマリーは産むそうだ。
順番も予定通り、アイリスの直ぐ後にマリーだと判明したので急遽部屋を改装して2人を同じ部屋に寝かせた。
「体調はホントに大丈夫か?」
「私は、大丈夫」
「私も今の所、問題有りません」
「そうか。何か違和感有ったら、直ぐ助産婦さんに言うんだぞ」
夜までの間に急変してもおかしく無いので部屋に常時待機して貰っている。
「ユーリ、居る?」
「どうした、リリィ」
リリィが部屋を訪ねてきた。薬師として彼女も呼んでいる。
「状態が急変した場合に備えて、いくつか薬を作って置きたいの。手伝ってくれる?後、ウノカミ草とタマヨリ草を分けてくれない」
「確かに必要だな。畑から採って来るよ」
「お願いね。私は、研究室にいるから」
俺は早速、薬草畑に向かった。
「ありがとう、リリィさん」
「あら、なんのこと?」
「薬の件です。彼を落ち着かせる為の口実でしょ?」
「ユーリにしては珍しく、オロオロしていたもんね」
「うふふ、そうね。でも、仕方ないわ。初めてですもの。という訳で少し彼を借りるわね」
「「は〜い」」
俺が畑に行っている間にこんな会話をされた様だ。
「よし、これだけ有れば何があっても大丈夫だろう」
薬草の並べられたザルを持って階段を降りる。ザルの上には、頼まれた薬草以外も乗せてきた。必要になった時、直ぐに使える様にだ。
「うん?」
地下一階に着くと下から誰かが上ってくる気配がした。
「おっ、ユーリじゃねぇか!間に合ったな!!」
「カトレア!」
それは、懐かしき半巨人カトレアだった。
「私たちも居ますよ、師匠」
カトレアの影からベルが顔を出した。
「私もいる」
「私も居るのだけど、見えないわね。カトレア、はやく上って」
「おっ、悪い悪い」
シオンとセレナは、声だけだがいる様だ。
俺は、薬草をリリィがいる研究室に持って行き、来客で手伝えないと伝え、カトレアたちを談話室へと案内した。
「ホントに出産日に帰ってきたな!」
「なに、ある竜が教えてくれたんだよ。しかも、ここまで運んでくれてさ」
「竜?俺の知り合い?」
「ペンドラゴンの副ギルドマスター、ビリーさんだよ」
「ビリーさんが?」
「一緒に飯を食ったとき教えてくれたのさ」
「ユーリ、聞いて聞いて」
セレナは、ニヤニヤしながらとても話したい事がある様だ。
「最近、カトレアとビリーさん付き合ってるのよ」
「ええっ!?……あっ、夢か?」
「おい、そんな驚くこたぁねぇだろ!現実だよ!!」
「いやいや、普通。そう思うだろ!?」
ビリーさん、貴方正気ですか?こんな筋肉隆々で、女子力の欠片も無い奴と付き合うか?
「カトレアから言い出したのか?それなら分からなくもないが……」
「何言ってんだい。ビリーさんからだよ」
ビリーさーーん!? ホントに大丈夫ですか!?
人の趣味にとやかく言う気は無いけれど、相手がコイツで良いんですか!?
「しかも、カトレア満更でもない」
「ふん!別に良いだろ、人の色恋なんて!」
「まぁ、一緒になるにしろ、ならないにしろ楽しみだな」
その面白さに俺もニヤけが止まらない。
「後は、これとか貰えばガチだな」
俺は、常時クビから下げているペンダントを彼女たちに見せる。
「それは?」
「マリーの竜心の欠片」
マリーに貰った紅い鱗をペンダントに加工して、彼女を嫁と認めた日から下げている。
「うん?これの事か?」
カトレアは、服を漁るとマリーのとは少し違う形状だが、紅い鱗を取り出した。鑑定結果は、竜心の欠片。
『!?』
「カトレア以外、全員集合!」
皆を集めて、円陣を組む。緊急会議を行う為だ。
「うおぉい、ビリーさんガチじゃねぇか!?知ってたのか?」
「知らないわよ。ビリーさんの背中から降りた後、何か手渡されてるなくらいしか!?」
「カトレアがあの行為の意味を知らないのがマズい」
「師匠!説明してあげて下さい!」
「俺が!?」
「そうね。それが一番かも。貴方は経験者だし」
「ユーリの言葉なら真実味がある」
「さすがに、私たちだと茶化されたと感じるかもしれませんので、お願いします」
「……分かったよ」
緊急会議は、終了。俺が真実を告げる事になった。
「おいおい、皆どうしたんだよ?顔が引き攣ってるぞ」
「カトレアが気付いていなかった事が原因なんだよ」
「ああ、どういう事だい?」
「竜種がその鱗を渡す意味は、プロポーズなんだよ!!」
「はぁああーー!?いや、それは……ちょっと待て、『貴方にこれを。やはり私の隣に立てるのは、貴方しかいません』ってそういう事か?」
「普通にプロポーズされとるやん!?」
「『隣を歩くくらい簡単だろ』ってしか返してないぞ!」
『了承してた!?』
「カトレア。今すぐ、ビリーさんの所に行って話し合ってこい!!」
「あっ、でもよ。まだ、アイリスたちに会ってーー」
「そんなの後でも、出来るだろが!行け、今すぐ行け!!」
「そうよ、カトレア!ここで逃したら一生縁が無くなるわ!!」
「行ってしっかり話し合うべき」
「大丈夫。こっちは、まだ時間有ります」
「おっ、おお……」
俺たちに圧倒されたのか、カトレアはタタラを踏んだ。
「これを貸そう。宮殿とここを繋ぐ転移門の鍵だ。これが有ればガイアス爺さんやリリィの助けなく通れる」
「おお……とりあえず話してくるよ」
「そうしろ」
「「「頑張っ!!」」」
カトレアは、地下に向かって消えて行った。その後、俺は彼女たちをアイリスたちの元に案内して別れた。
他にも客人が来ているからだ。
屋敷には来賓室を作っていないから、ガイアス爺さんと神社にいる。
一階の空き部屋を改装して、貴賓室にしても良いかもしれない。
「悪いな、待たせてしまって」
「遅かったのう。何か、あったのか?」
ガイアス爺さんたちは、社の中に入ると御茶を飲みつつ、羊羹を突っついていた。
「カトレアの件で色々な……それより紹介してくれないか?」
俺の前には、2人の男女がいる。赤髪の少年と黒髪の幼女だ。
赤髪の少年は高校生くらいで、黒髪の幼女はマリーと同じくらいか。2人は、兄妹の様な印象を受ける。
「お初にお目にかかります。私は、ベディヴィエール・フォレスト。べディとお呼び下さい。そして、彼女は妹のーー」
「フィロパトル・フォレストです。フィロとお呼び下さい。どうぞよしなに」
これが、彼らとの出会いだった。




