タコ焼き
アイリスたちが妊娠10ヶ月に入ったある日の出来事だ。
「タコ焼きが食いたい」
「どうしたの突然」
アイリスとボードゲームをしていたらフッとそう思った。
「なんか無性に食いたくなった」
「ああ〜、あるよね。そういう時」
「ちょっとベレチアに行ってくる」
「行ってらっしゃい。ご飯楽しみにしてる」
「おうよ」
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「トカレフさ〜ん!」
ギルドマスター室に駆け込む。
「おい、唐突だな。何か用か?」
「タコって、何処で取れるの!?」
市場で聞いてみたが、誰も知らなかった。ここ、港街ですよね?
「タコって、何だ?」
「oh……」
トカレフさんも知らない様だ。
「タコってのは、俺のいた場所でそう呼ばれる生き物。軟体の身体と吸盤の付いた8本足が特徴。攻撃手段に黒い液を吐いたりする。逃走の際、足を自分で切り離すこともある生き物」
「ちょっと待て……えーっと……何処だったか?あっ、これだ」
トカレフさんは、部屋に置かれた本棚へと向かう。一通り見た後、目的の物を見つけた様だ。
「確か、これに書かれて……あった。これの事か?」
本を開いてあるページを見せてくれた。
「そう!それ!!」
俺の知るタコがそこにいた。ただ、イソギンチャクみたいな絵も添えられている。
「オクトポーダ。水生トレントの一種だな」
「トレントって、あの森にいるトレント?」
「そうだ」
良く物語にも出て来る木の形をした魔物だ。分類としては、昆虫に近く、木に擬態して獲物を待ち受ける。
カリーナの森にも潜んでおり、あの森が危険と言われる原因の一つだ。ただ、これには攻略法が存在する。
魔力感知を行うと生物故か、木からは考えられない程の魔力を感じる。これにより先制攻撃したり、回避を行える。
弱点は火と雷だ。しかし、火は中級程でないと倒せない。体内の水分量が多い為、発火しにくい。それに引き替え、雷なら下級でも倒せるのだ。これは、普通の人は知らない情報でもある。
「全く似てなくない?」
「水生だからな。環境影響で進化したのだろう。こっちの図で見るなら分かるだろ」
トカレフさんが指差すのは、イソギンチャクの様な形状。
「基本は、この形だな。潮が満ちる洞窟や海底に棲息しているぞ」
「これを狩るクエストある?」
「今、Bランクの奴らが行ってるやつだけだな」
「それ、ちょうだい」
「いやいや、SランクがBランクの仕事取るなよ」
「だったら、クエスト外で狩ってくる!」
「正気か?それ以外なら海の底だぞ」
「海の何処?何処ら辺?大体で良いから教えて!」
「はぁ?まぁ、大体で良いなら、クラーケンがいた辺りなら居るんじゃねぇ?」
「分かった!行ってくる!!」
では、早速行こう。ついでに空間制御で水中も可能か実験だ!
「おい、本気なのか!?さすがにーー」
無理だったら普通にBランクの子たちのを買い取ろう。
俺は、そう思いながら海に向かうのだった。
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「行っちまいやがった……」
アイツ、ホントに分かっているのか?
クラーケンがいた場所の海底に行くって事は、水深1000m以上を潜るって事だぞ。
潜れたとしても洞窟とかの弱った状態ではなく、通常の状態だから危険度増すんだが……。
「まぁ、諦めて帰って来るだろ」
10分後。
「マスター、失礼します。お時間宜しいでしょうか?」
港を管理している部下がやってきた。
「どうした?港で何かあったか?」
「いえ、ユリシーズさんが空を飛んでいたとか、海に飛び込んだとか噂になってまして」
「………」
マジで狩りに行ったみたいだ。あり得ねぇ……。
「飛んでいたってのは、どういう話なんだ?」
潜るのに飛ぶ必要はないだろ?
「なんでも、沖に行くのに船より飛んだ方が速いって言った後、港から沖に魔法で飛んで行ったらしいです」
「飛行か?」
「それが聞いた所、違う魔法の様でして」
風か、何かの応用か?そもそも、飛べる冒険者自体が片手で数えれる程しかいないし分からんな。
ドッゴオオォーーン!!
「「………」」
海の方から爆音が聞こえた。起きた原因に心当たりしかない。
「副マスターに言って、解体師を集めておいてくれ」
「了解しました」
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「あ〜、ウザかった」
海中での戦いを終えて港に戻ってきた。
魔法は問題なく機能し、水圧を利用した高速移動も可能だった。
そして、目的のオクトポーダは海底にちゃんといた。
名称:オクトポーダ
危険度:A-
説明:トレントの系統。水生に特化した為、軟体の身体に変化。身体の殆どが筋肉で強い力を発揮する。食用可能。
オススメ:タコ焼きも良いですが、酒のツマミとしてタコわさなんてどうでしょうか?もし、やる場合は、塩でよく揉む必要があるので気を付けて下さい。
傷が少なくて済むように、雷魔法を使用。水中でも魔法銃を使える事が判明した。
ただ……。
「しつこい」
「………」
大型のウツボに襲われた。水中故に、相手の叫び声は聞こえない。
名称:ナマダ
危険度:S
説明:ゼラチン質が多く含むうえに強い旨味がある。食用可能。また、外皮からは良い革製品が作成可能である。
オススメ:タタキや野菜を加えて煮凝りにする事を推奨します。
相手をする気は無いので、陸に上がろうと水中を進むが何時までも追ってくる。その上、魔法による氷柱を飛ばしてきた。
「マジで、ウザいわ!!」
空間制御の効果範囲を拡大。相手の全体が入るまで飲み込む。
「せいのっ!!」
水圧の向きを変更して俺もろとも打ち上げた。その結果、あっという間に水中から空中に移動。そして、フラガラッハで頭と胴体を切断した。
ナマダをアイテムボックスに入れて港に帰還。
「お前……何をしたんだ?」
帰り着いたら、トカレフさんや港の関係者が待っていた。
「うん?ちょっと水深1000mまで潜って、狩ってきただけだよ?」
『ちょっとじゃねぇよ!?』
「それより聞いて。ナマダに襲われて大変だったんだよ」
「あぁ、Sランクの魔物だからな。さすがに海中だと無理だーー」
「これも解体お願いします」
アイテムボックスからナマダの頭を引きずり出して見せる。
「シャアー」
『………』
何故か、周りの空気が死んだ。あれ、鳴き声似てなかったかな?
まぁ、鳴き声知らないし。仕方ないよね。
「あれ?なんかマズかった?」
「いや……なんかもう……どうでも良いわ。解体所に運んでくれ」
「分かった」
解体は、直ぐに終わり屋敷に帰った。
そこから、ティアたちも呼んでタコ焼きを焼きまくる。
『ほふほふっ!』
皆、熱々ながらも沢山、口に詰め込んでいるのが見て取れた。
「アイリス。はい、あ〜ん」
「あ〜……はむっ、もぐもぐ。美味しい!!ユーリも、あ〜ん」
「おうよ、あ〜ん……ぱくっ。もぐもぐ、やっぱり美味いな」
『………』
はいはい、大丈夫です。皆にもして上げます。
ティアたちの前だというのに、イチャイチャを見せつけた。
彼らもたまにやるから、別に良いだろ?
というか、ティアとグレイは既にしていた。
さすが、新婚さんめっ!熱々だな!!……俺も新婚だった。
次は、何をしよう。秋らしく、今度は焼き芋でもしようかな?
そんな穏やかな1日だった。




