多忙のわけ
本編121話目あたりの裏側。
旦那様とお義父様が忙しかったわけ。会話中心です。
~ 旦那様の場合 ~
騎士団屯所内、サーシスの執務室。
自分の執務机に斜に構えて座り、長い足を組んでいるのはご本人。
机の上に置いてある書類をにらみ、コツコツと机を指で叩いている。
「イラついてますね。どうかしましたか?」
いつもと違う様子に、ユリダリスが声をかけた。
「オーランティアがフルールに来るのはいいが、なぜ人数が確定しない?」
じっと書類を睨んだまま、サーシスが言った。
「え? 昨日は50って言ってませんでしたか? それで昨日の会議で警護の配置も決まったじゃないですか」
「ああ、昨日はそうだった。しかしさっき訂正の連絡が入り、40になると言ってきた」
「は? まあ、少なくなる方がこっちとしては楽ですけど」
「しかし……。訂正は今回が初めてじゃない。その前も訂正が入ってたよな」
「ああ、確か最初は20っつって、その後70に増えて……」
口に拳を当て、少し前のことを思い出すユリダリス。
「20が70って、もはや誤差の範疇じゃないよな……とまあ、それはいい。なぜそんなに人数が二転三転する?」
そう言って眉間にしわを寄せるサーシス。ユリダリスも、先ほどサーシスが目を通していた書類を手に取り目を通す。
「どれが本当の数字でしょうかね?」
「さあ。……なんにしても怪しい」
「ですよね」
「もう一度警備計画を見直そう。なにか企んでいそうだ」
「わかりました」
「至急。それから、向こうの人数をなるべく確定できるように探りを入れろ」
「そうですね」
ユリダリスが団員を集め瑠ために足早に部屋から出て行った後。
「くそっ、また帰るのが遅くなる……!」
悔しそうにつぶやくサーシスであった。
~ お義父様の場合 ~
場所は変わって、国王陛下の執務室。
「こんな手紙が来たんだが」
そう言って前フィサリス公爵が陛下から見せられたのは、先日のオーランティアからの手紙。
それを丁寧に受け取り中身を取り出した。
「これは……!」
前フィサリス公爵は、サッと一読すると驚きの声を上げた。
「驚いただろう。あちらの王女がフィサリス公爵に一目ぼれしたそうで、嫁に行きたいらしい」
椅子に肘をつき、呆れた声で補足する陛下に、
「あ~でもうちには押しも押されぬ、歴とした、みんなから愛されて止まない、他に変わりなどいるはずもないかわいい嫁がいますから、もうこれ以上は要りませんので他所様をあたってください」
きっぱり断りを入れる前公爵。
「そんなに重ねて言わんでも重々承知しておるわ!!」
「ならいんですよ。まさか離縁を強要して、この王女と結婚しろとか言いませんよね?」
にこ~っと笑う前公爵だが、後ろからは黒い何かが立ち昇っている。
「まさかそんなことを言うわけないだろうが!!」
「ですよね」
大慌てで否定する陛下に、またまたニッコリ笑いかける前公爵。
「当たり前だろう……ったく」
「で、うちの息子はなんと?」
じと目で前公爵を見る陛下をしれっとスルーする前公爵。
「即却下してた。おまけにその手紙まで破ろうとしてたな。執政官に止められていたが」
「そうですか。破いてもよかったのに」
「いやいや、いちおう親書だからな? まあ、すぐさま断りの返事を書いて、使者にもたせた」
「それはそれは。ではうちの息子に代わる婿殿候補を選ばないといけませんね」
「そうだなぁ。でも凡庸な人物では務まらなさそうなんだよなぁ」
それまでの雰囲気とは変わって、ちょっと砕けた口調で陛下が言うと、
「おや、なにかありますかな?」
その些細な変化を察知した前公爵の眉がクイッと上がる。
「ま、ちょっとしたことなんだけどな。あちらからフルールに来る人数が二転三転してるんだよ。この数日で」
「ほほお」
「それについては現在フィサリス公爵たちが動いているからまあ、なんとかなるだろうけど」
「ちょっとオーランティアは反省が足りないのでは?」
「そう思うよなぁ」
ニヤリ、と笑いあう陛下と前公爵。
「そういうことですか……。では、アルゲンテア宰相のところの息子さんはどうでしょう? ああ、上は婚約者がいますからダメですけど、下はまだいないはず。うちの息子と同い年だし、身分も家柄も申し分ない」
「ふむ、それはちょうどいい!」
「さっそく宰相に打診いたしましょう」
こうしてオーランティア王女の相手が、サーシスの代わりにセロシアに決まろうとしていたその頃。
ぶえっくしゅん!
盛大なくしゃみとともに悪寒に襲われたアルゲンテア執政官。
「なんだろう……ものすご~~~く嫌な予感がした」
わけのわからない予感に青ざめた。
そしてこの後、この縁談を回避すべく走り回り、陛下と前公爵に推薦しまくるのであった。
ありがとうございました(*^-^*)
お義母様は王妃様とのんびりお茶w




