不審な旦那様
書籍発売時の特典SS用に書き下ろしたものですが、使わなかったため、ちょっと手直ししてこちらに掲載します♪
本編53話目の朝の風景w ミモザ視点「ブロック!」に続き、ダリア視点です。
私こと、フィサリス家侍女長ダリアの一日の最初の仕事は、奥様をお起こしすることでございます。
簡単に今日の仕事の打ち合わせを使用人全員でした後、私はいつもどおりミモザを従えて奥様の寝室へと向かいました。
よほどお疲れでない限り奥様は寝過ごしたりはなさいませんので、私どもがお部屋に行く頃にはすでにお目覚めになっているか、眠っていたとしても軽くお声掛けするだけで起床なさいます。
今朝も奥様をお起こしするにはまだ少し早い時間でしたが、部屋の前で待機していようと奥様の部屋に向かったのですが。
私たちの前に、奥様のお部屋に侵入……いや突撃……こほん、訪れようとしている人物を発見してしまいました。
「……旦那様?」
「あ」
ドアノブに手をかけようとしていたのは旦那様でございました。
こんな時間にあなたは何をしてるんでしょうか?
視線にその気持ちを込めれば、旦那様は行き場をなくした手をびくっとさせておられます。どうやら何か下心がおありですね?
私たちに見つかってビクついたところを見ると、旦那様、奥様の許可は得ていませんね? いくらご自分の妻とはいえ、レディのお部屋に無断で侵入はお行儀が悪いですよ! ご領地にこもられている大奥様が聞いたら激怒ものです。
旦那様は悪戯が見つかったような、ばつの悪そうな顔をしていますが、
「こちらで、このような時間に、何をしていらっしゃるのでございましょうか?」
まだ奥様はお休みでしょうから、低くひそめた声で問いかけました。ええ、ちょっとドスをきかせたなんてことはございませんよ?
すると、
「い、いや、早くヴィオラに見せたいものがあったから、部屋まで誘いに来たんだ」
同じくひそめた声ながらもしどろもどろに弁明する旦那様です。やはり何か下心がおありのようでございますね!
最近の旦那様は奥様に大変ご執心です。それはとても喜ばしいことなのですが、ここは奥様のお気持ちというものも尊重していただかねば。奥様のお気持ちが旦那様に向かない間は、私も見張らせていただきます。
「こんな早くにでございますか?」
じっと旦那様を見据えながらお聞きすると、
「……そうだ」
何かやましいことを考えていましたね。目が泳いでおりますよ!
「では私が奥様をお起こししてまいります」
「いや、僕が起こそう」
どうしても部屋に入りたいのか、やけに食い下がってくる旦那様でございます。
「では私どももご一緒にお部屋に参りましょう」
「……」
このように不審な旦那様を、みすみす奥様の元に行かせるわけにはいきません! ここはしっかり同行させていただきます。
部屋に入れば一目散に奥様の眠る寝台に直行する旦那様でございました。嬉しそうなのはいいのですが、無防備に眠る奥様に手出し無用でございますよ!
「ヴィオラ、ヴィオラ」
愛しいものを見るように嬉しそうな顔をして奥様を起こす旦那様。
ワタシとミモザは空気に徹します。ここは主夫妻を見て見ぬふりが、使用人の鉄則でございますから。
「ヴィオラ、起きて」
奥様を揺さぶって起こしています。まあ、ここまでなら許しましょう。
「~~~‼」
ああ、やはり奥様は驚かれておりますね。おや、横に控えるミモザから、何か黒いオーラが滲み出てきています。ミモザは奥様思いですからね。
このことはあとで、私からロータスさんに報告をしておかねばいけませんね。……冷静に。
今日もありがとうございました(*^-^*)




