綺麗どころトリオの拷も……げふげふ、取り調べ♡ 〜フィサリス家の長い一日 オマケ〜
公爵家の愛人騒動が一段落して。
騎士団の屯所内にある、罪人を取り調べるための部屋——取調室。
罪人が窓ガラスを割って逃げ出さないようにと窓が小さく作られているため、昼でも薄暗い。
そんな取調室に男と、机を挟んで綺麗どころトリオが向かい合っていた。
ふて腐れて座っているのはモンクシュッド"偽"男爵。
椅子に腰掛け組んだ指の上に顔を乗せているアンゼリカ。アンゼリカの後ろに威圧感たっぷりにカモミールとアルカネットが立っている。
偽男爵をものすごくいい笑顔で見ている綺麗どころトリオ……あ、目が笑っていない。
「本名はソリダゴね。で、娘……愛人の方がアンブロシアね」
アンゼリカが手元の資料に目を落とし名前を確認するのに、
「………………」
プイッとそっぽを向き黙秘をする偽男爵。
「無駄な抵抗してないで、さっさと吐いちゃいなさ~い」
アンゼリカが偽男爵の胸ぐらをぐいっと掴んで笑いかけた。
「誰が! 何を!」
「これまでやらかしたコトを洗いざらいぜ〜んぶ」
「な、何もしておらん! ただ真実を告げに行っただけだ!! うちの娘が公爵の子を産んだから、それをお知らせに行っただけじゃないか、悪いことどころかいいことじゃないか!」
目を泳がせながら、それでも抵抗しようとする偽男爵に、
「残念ながらアンタが言う『公爵様が娘と付き合っていた時期』ってやつ? あの時公爵様にはそんな余裕なかったのよねぇ」
「そうそう。さっさと戦終わらせて家に帰りたい一心で仕事に励んでたのよ」
「仕事の手が空いたら寸暇を惜しんで奥様に手紙書いてたし」
「時間的にも精神的にも浮気なんてしてる時間なかったのよ残念でした〜」
証人はあちこちにいるわよ、と、三人が畳み掛けた。
「だ〜か〜ら、さっさと吐いちゃいなさい。って、ここに全部纏められてるんだけどね。脅しに行ったお家と、それにまつわる誘拐事件と」
アンゼリカが先ほど見ていた資料をピラピラと見せつけた。
「しっ……知らん!」
「あら、この期に及んでしらばっくれるつもりなのかしら。私たちを女だと思って舐めてる?」
カモミールが指をバキボキ鳴らしてみせる。
「あらやだどうしましょ~。私たち舐められてるの〜?」
「そうみたいよぉ、どうしましょ〜」
「仕方ないなぁ。私、ちょっと剣の素振りしていい?」
そう言ってアルカネットが腰に差している美しい剣に手をかけた。
「どうぞ〜」
「いいわよ~」
「じゃあお言葉に甘えて〜」
アンゼリカとカモミールの了解を得て、おもむろに剣を引き抜くアルカネット。細身の美しい剣がシュッという音を発しながら空を切ったかと思うと……はらり。
静かに短い毛が落ちていった。
「あらごめんなさ~い。ちょっと手元が狂っちゃった☆」
「…………!」
「おお〜、相変わらずいい切れ味☆」
「いい研ぎしてるねぇ」
お見事〜と拍手するアンゼリカとカモミール。
目を見開きわなわな震える偽男爵。その残っていた片眉がなくなっていた。
「吐く気になった?」
にっこり笑いかけるカモミールに、眉に手をやり思いっきり顔を引きつらせる偽男爵。
「は、はいっ!! 私はモンクシュッド男爵という田舎貴族でして……」
「ハイ嘘~」
シャッ!
次はアンゼリカの手元から細身の短刀が飛び出した。
それはくるくると回転しながらまっすぐに偽男爵の方へ飛んでいくと、デコから頭頂部にかけての髪の毛を綺麗に削ぎ落として行った。
「ひっ?!」
自分の頭に手をやり、青くなる偽男爵。
「わぁ~! 切れ味いいわねぇ!」
「昨日砥いだんだ〜☆」
褒めるアルカネットに、てへへ、と笑うアンゼリカ。
「さ、ホントのこと言いましょうか?」
「は、はいっ!!」
カモミールの凄みを帯びた笑顔にまた顔色を変えた偽男爵は、背筋をピンと伸ばした。
しかしいつもの癖で嘘に嘘を重ねてしまい、その都度髪がなくなっていく。
そして、取り調べが終わる頃にはマダラ禿げになっていた。
「うわ~……。つるっぱげにされる方がどんだけマシだよ……」
取調室の扉にびっちりと張り付いた騎士団メンツから、そんな言葉が漏れたのだった。
その後、誘拐された子供たちは無事に保護され親元に帰された。
そして偽男爵と愛人は国内でも一番労働環境がキツイ(=給金がいい)収容所に入れられて、その給金を誘拐した子供たちの家族への弁償にあてるという刑に処せられたのだった。
ありがとうございました(*^ー^*)




