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The Great Hope of the Universe  作者: 佐久謙一
第三章 黒虫の女王
18/38

3-2

 二人のやり取りを見守っていたマイクは軽く咳払いしながら口を開く。

「そういえばジュンから聞いたが、君は変わった武器を使うそうだな」

 マイクの目はコウキのホルスターに向けられていた。コウキは戸惑った表情でホルスターに視線を落とし、その後、顔を上げ、ゆっくりと頷いた。

「はい。色んな形に変形できる人工知能搭載の武器です。自分はよく刀にして使っています」

 コウキは説明しながらアミィを手に取り、刀に変化させる。その形状変化に、皆一様に驚きで目を丸くする。その反応から、やはり誰もアミィについては知らないようだ。

 マイクは明らかに困惑した顔でアミィを見つめている。そしてコウキとアミィを交互に見ながら口を開いた。

「……それで――その武器は会話が出来るのかい?」

「……アミィ、喋れるか?」

 コウキはアミィを球体に戻しながら尋ねる。少しの間を置いてアミィが淡く光り出した。

「はい。皆様初めまして。私はGHUにより開発されたモジュレートウェポン。コウキからはアミィという名を貰っています」

 アミィの言葉を聞いて、再び全員から驚きの声が漏れる。

 マイクがアミィについて二三質問する。アミィの形状変化のこと。開発者のこと。その都度、アミィは丁寧な言葉でその質問に答えた。

「――現在は衛星を通じて本部と通信している状態です。それはあなたも把握していることだと認識していますが」

 アミィの言葉を受けてマイクは静かに頷いた。

「あぁ。俺達が黒焦げにした第五研究所。そこのコンピュータを使って、まだ稼働している研究所があることを確認した。我々はこれからそこに移動するつもりだ。目的地はボルチモア。そこに目的の研究所が存在している」

 マイクは研究所の住所を告げた。アメリカの地理に疎いコウキにはピンと来なかったが、周りの人達が苦い顔を浮かべていることから、ここから相当距離があるのは読み取れた。

「また質問してもいいかな。アミィくん」

 マイクが静かな声で言った。

「何でしょう?」

「何故、私が話しかけるまで君はずっと黙っていたんだ?」

 マイクの質問はコウキも疑問に思っていた。彼らと出会ってから、アミィは明らかに沈黙を守っている。

「君が最初に身分を証明してくれたならコウキくんに銃を向けることも無かった。変異体のデータも持っているのだから、もっと良い撃退方法も提供できたはずだ」

「……それは――」

 アミィは一瞬口ごもる。

「……それは――出来るだけ干渉を避けた方が良いと思ったからです」

 アミィは弱弱しい口調でそう言った。その言葉に、マイクは眉をひそめてアミィを見つめる。

「……それはつまり――GHUは我々を見捨てるつもりということか?」

「いいえ。そういう意味ではありません。GHUでもあなたたちを捜索しています。あなた達は貴重な――その、貴重な研究データなのですから」

 アミィから出た、研究データという言葉に、場の空気が張り詰めていくのを感じた。

「へっ、つまり俺達は檻から逃げたモルモットって訳かい」

 ダッチが肩をすくめながら言った。マイクは険しい表情でアミィを睨んでいる。

「か、勘違いしないで下さい。あなた達は分類上は成功に近いのです。あなた達の遺伝子データを解析すれば、エチスに対するワクチンの開発や、変異した遺伝子の修復も夢ではないのです! あなた達は人類の希望なのです!」

 アミィが慌てた様子で言った。周囲の者達は訝し気な表情でアミィを見つめている。

「その言葉、信じていいのか?」

 マイクはアミィ越しにコウキを見つめる。今の言葉はコウキにも向けられたものなのだろう。コウキはしばらくアミィを見つめたのち、しっかりと頷いた。マイクは大きく息を吐き、口元に笑みを浮かべた。

「分かった。信じよう。元々俺達には研究所以外に行く当てはない。歓迎してくれるかは分からないがな」

 マイクの言葉に、周りの面々も深々と息を吐いた。

「ご安心を。あなた達を丁重に扱うよう、私が掛け合います」

「あぁ、期待しているよ」

 マイクはそう言って、手を叩きながら立ち上がった。会話は終わりという事なのだろう。

「さて聞いた通りだ。明朝、研究所に向けて出発するぞ。夜明けまでまだ時間があるから、各々しっかり休息を取るんだ」

 マイクの言葉に、皆小さく返事を返しながら、それぞれ床に寝転がった。それほど眠気は無かったが、コウキも彼らに倣って横になった。マイクは銃を取り出し残弾を確認している。

「見張りかい?」

 ジゼラが尋ねる。マイクは頷きながら銃にマガジンをセットした。

「あぁ。見張りはいつも俺とジュンが交代でやっている」

「私にやらせてもらっていいかい? 代わりにあんた達は休んでなよ」

 マイクがジゼラに向き直る。

「交代も無しで?」

 マイクの問いにジゼラは頷く。

「あぁ。どうせ私は明日離れるんだ。それに私はどちらかというと夜行性でね」

「そう、か」

 マイクは怪訝な表情を浮かべながらも頷いた。ジゼラも頷き返し、ボウガンを担いで小屋の扉に手をかけた。

「……最後に睡眠をとったのはいつだったかねぇ」

 ジゼラがそっと呟く。その言葉は小さく、誰にも聞き取られなかった。



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