16.物凄く元気な人と話すと疲れるよね
7/4に投稿とか言っといて、もう7/5の夜! ごめんなさい!
いやはや、不甲斐ない……
「おじゃましま……す?」
「木嶋部長ー、約束通り巻斗くんを連れてきました!」
週が明けて次の月曜日。俺は栞に連れられて放送部の部室を訪れていた。
どうやら、栞は前回の部活の時に俺のことを話したらしい。それで連れてくる流れになるとは、なかなか自由な部活だな。まぁ告白の手助けをしたって時点で薄々勘付いてはいたが。
「約束したのは僕じゃないんだけどね……荒川くんだっけ? 僕は木嶋湊音。いらっしゃい、ゆっくりしていってね」
出迎えてくれたのは眼鏡を掛けた好青年。前髪が長く、中学生の頃の栞を彷彿とさせる。彼が放送部の部長とのことだ。
しかし、部長さんは俺を連れてくる計画には加担していないらしい。それなら、一体誰が俺を呼び出したのか……。
そんなことを考えていると、奥の方から女性の声がかかった。
「おっ、栞ちゃんじゃん! 隣は噂の巻斗くんかな?」
「副部長! そうです、彼こそ巻斗くんです! 副部長が会いたがってた!」
主犯、発覚。
明朗な声にニッコニコの笑顔で返す栞のおかげで、連れてこられた理由が発覚した。
確かにあの快活さなら、彼氏を連れて来いというお願いくらいしてきそうだ。
「初めまして、副部長さん」
「よろしくね巻斗くん! ささ、入って入って……」
促されるまま、部室の中へと入る。
大きさは大体教室の半分程度。真ん中に大きなテーブルがあり、それを囲うようにして座るようだ。
背後には多くの本が並んでいるのが分かる。
部室にいたのは木嶋部長と副部長、他部員数名。全員に挨拶し終わると、パイプ椅子に座るように促された。
「まぁ座りな、席は栞ちゃんの隣がいいよね?」
「副部長、私はそれ以外認めませんよ?」
「そっかそっか。愛されてるねー、巻斗くん!」
「ありがたいことに、めっちゃ好かれてますね……」
副部長さん、めっちゃグイグイ来るんだが。コミュ力が高いとかそういう問題じゃない。完全に流れを掌握してやがる。部長さんが完全に空気と化してるし。
「なるほど、君が巻斗くんか。確かにイケメンだね!」
「ほら、言ったじゃないですか。巻斗くんは世界一カッコよくて優しくて素敵な人だって」
栞はそう言いながら、机の下で手を握ってきた。ベタ褒めされて恥ずかしいので、恋人繋ぎに変えてギュッと握り返す。
「はは、そうだね。なんかそういうオーラを感じるよ。栞ちゃんのことが大切だーっ、みたいなやつ! 私、そういうのが『見えちゃう人』だからね」
「え、オーラが見えるんですか!?」
まさかの、サイキック副部長か。どこまでキャラを盛れば気が済むんだこの人。
「そんなわけないじゃん。本気にしなさんな」
「巻斗くん、最近の副部長は基本適当なのでそういうのは流したほうがいいですよ」
「そ、そっか……。忠告ありがとな」
俺の腕を撫でながら注意してくれた栞。今日は栞のスキンシップが多い気がする。そういうの嫌いじゃないし好きです。いいぞもっとやれ。
「やけに距離が近いねー。まだ二週間くらいじゃ……」
「副部長、荒川くんと水谷さんはそんな最近知り合った仲じゃないよ」
「え、みなちょ……あっ、そうか! 中学の頃からの知り合いだったっけ? 何年くらいになるの?」
ごめんなさい、俺はその頃の記憶がほとんどないんだ……。そういやいたな、ってくらいで……。
説明するのはめんどくさいから黙っておくけど。
にしても、部長の渾名かわいいな。湊音部長の略かな?
「中三のこれくらいの時期からですから……もう二年くらいですかね、片思いの期間は」
「おー、そんでようやく結ばれたってわけね! いいねいいねそういうの! 思う存分幸せになんなさい!」
副部長の言葉に、少し胸が痛くなった。
そっか、そうだよな……。よく考えれば、栞は二年もの間俺のことをずっと想ってくれていたんだ。二次元にしか興味がないなどと宣っていた俺のことを。叶わない恋かもしれなかったというのに。
そう考えると、栞のことが余計に愛おしくなった。
「俺が幸せにするからな、栞」
「ちょっと、急にそんなこと言われたら恥ずかしいです……」
髪型が崩れない程度に髪を撫でてみると、栞は俺の方にもたれかかってきた。体温がダイレクトに伝わってくる。
「さすが、交際直後のカップルはお熱いねー」
茶化さないでください副部長。今の発言、言った後に後悔してんですから!
これはチャカを用意して副部長を……いや、何か別の話題を見つけなければ……。
「あ、あの! 皆さんが放送委員会にすればいいという意見を退ける理由って、何かあるんですか?」
いかん。謎のインタビューを開始してしまった。しかも今の割と失礼じゃない?
本当に楽しんでる人から「良さが分からんとは」とか言われそう。
「理由、ねぇ……。まずは、この部室が使い放題!ってとこかな。委員会になっちゃうと部室なんて貰えないしね」
「昼休みに好きな曲が流せるとこ、好き……」
「最近ボカロばかり流しすぎだって苦情入ってるけどね」
「今は禁止されちゃったけど、昼休みに放送部ラジオを流すのも楽しかったよねぇ」
「いやスルーしないで」
ありがたいことに、失礼極まりない質問にもかかわらずすんなり答えてくれる部員の方々。さっきまで惚気話で話に入ってこれなかったようで、無言を貫いていた人も口を開いてくれた。スルーされる木嶋部長が可哀想だけど。
なるほど、副部長の意見「部室使い放題」は確かに盲点だった。
そして、昼休みの音楽タイム……か。
うちの学校では、週に一回、昼休みに曲が流れる日があるのだが、曲目が放送部に委ねられていることは知らなかった。
「まぁボカロ云々は置いとくとして……。昼休みのラジオが今もあったら、間違いなく水谷さんと荒川くんの熱愛報道流してたよね」
「まぁ、そのせいで禁止になったんだけどね。触れてはいけない所に触れてしまってさ」
「とは言ってもさー、何を放送するかっていう権限はほぼ放送部持ちなわけじゃん? 復活させられなくもないよね、昼休みのラジオ」
「あ、確かに……やりたい……かも……」
部員達は、何やらニヤニヤしながらこちらを見てきている。
「え……、報道する気なんですか? 俺たちの関係……」
冷や汗がツーっと流れ落ちるのを感じた。
別に、俺はいくら情報が広がってもいいと思っている。
しかし、栞は違うんじゃないだろうか。人見知りなんだし。
「君たち、そういう冗談やめなさい。荒川くん達困ってるでしょ」
「えー、半分くらい本気だったのに」
「ちぇっ……」
「そういうので怒られるのは僕なんだからさ」
俺が苦笑いを浮かべているのを察したのか、部長が止めてくれた。
良かった、これで栞も安心……ってあれ? 何でちょっと残念そうなの?
「まぁみなちょが言うなら仕方ないよ! 迷惑かけらんないし。それより、せっかく栞ちゃんに春が訪れたんだから、お祝いパーティでも開かない?」
「珍しくあっさり引くと思ったら……。絶対にやめなさい」
副部長の「パーティ」という提案を聞いた瞬間頭を抱えた木嶋部長。報道より断然マシだと思うんだけど、何でだ?
「君、つい最近牡蠣パーティで当たったばかりでしょ」
「そんなの日常茶飯事だし。牡蠣の美味しさには敵いませんて。ねー、やろうよ! 牡蠣パーティ!」
牡蠣パーティ……食中毒……。
あれ?ついこの間聞いたような単語ばかりだ……。
「……副部長さんって、まさか副会長なんですか?」
「えぇ、知らなかったの!?」
驚愕の視線を向けてくる副部長もとい副会長。
こいつだったのか。俺と栞が修羅場になりかける状況を作り出した元凶は。
牡蠣狂いの副会長さえいなければ、栞にあんな悲しい顔をさせずに済んだのに……。
そう思うとちょっとムカムカしてきたぞ。
……あれ? でも、だったら時系列合わなくない?
「副会長さん、金曜日休んでたんじゃ……?」
「あー、部活はリモートで参加してたから」
「リモート」
「荒川くん、これだよ」
木嶋部長が持ってきたのは、一台のタブレット。部長曰く、休んだ生徒と簡単に連絡が取れるようにテレビ電話等の設備も完備しているのだそう。
「放送部の設備は一歩進んでるんだよ、巻斗クン」
「ドヤ顔やめてください。副会長が休んだ分の仕事、俺と会長の二人で片付けたんですから」
「あ……そういえばそういう話をあやちから聞いていた気が……ごめんね!」
両手を顔の前で合わせる副会長を見ていると何故か可笑しく思えてきて、さっきの言動も許せてしまう。なんか憎めないんだよなこの人。
「お詫びを兼ねて私持ちで牡蠣パーティってことで……」
「やりません!」
「うぅ……」
緑野会長ですら手こずったらしい副会長をキッパリと諫める木嶋部長は、意外と相当なやり手なのかもしれない。
「あ、みなちょのこと見直したって顔してるね。さすが巻斗くん、お目が高い! 何を隠そう、うちの部長は隠れイケメンで仕事も出来るパーフェクトウーマン!」
「ちょっと黙ってくれない? そもそも僕男だし」
……なんで考えが分かったんだ、本当にサイキック副部長なのでは?
◆
それから一時間ほど経った頃、俺と栞はお暇することにした。
副会長と話し続けたせいで、どっぷりと疲れてしまった。栞はいつもより元気そうだ。放送部の時の方が、教室にいる時より活きいきとしている気がする。
「どうでした? 放送部の方々は」
「なんか……凄かったな」
特に副会長。いや、副会長限定で。
「まぁ、あんな感じなので私でもすぐに打ち解けられたのかもしれませんね。感謝です」
感謝……感謝といえば、栞の告白の後押しをしてくれたことにお礼を言うのをすっかり忘れてた。まぁ今度でいいか。これ以上副会長のノリに付き合っていると体が持たない。
そうして二人並んで廊下を歩いていると、自分達の教室が見えてきた。
「……あ、まだ電気点いてますね」
「居残り組の男子達だろうな。ほら、課題やってなかった人達を残らせるって梅田先生言ってたじゃん」
怖い女教師ナンバーワンと名高い梅田先生が担任となった今年。早速一部の生徒がその毒牙にかかっている。
「そういえば。こんな時間まで居残りなんて、溜め込んだら大変ですね……」
「反面教師にしないと……」
……と。教室の前を通りすぎようとすると、中から話し声が聞こえてきた。
「荒川のやつさー、最近ウザくね?」
「わかる。前まであんなギスギスしてたのに、水谷さんから告られた途端デレデレだもんな。マジキモいって」
「俺、目安箱に『イチャイチャしすぎです』って書いて入れたぜ?」
「マジか、勇者じゃん! よくやるなー」
「まぁそれくらいウゼーんだよ、あいつ。金魚のフンかよってくらいベッタリじゃねーか。水谷さん可哀想」
「それ言えてる」
……目安箱に入れたの、お前らだったんかい。
まぁ、栞の悪口を言っているわけでもないのでスルーでいいか。俺がどういう評価を受けたのかなんてどうでもいい。栞さえいてくれれば。
「栞、急ごう……栞?」
手を引いて昇降口まで行こうとしたが、栞はその場から動こうとしなかった。
ずっと、扉を睨みつけている。
「あー……別に俺は気にしてないからさ、栞が怒ることないって」
そう声をかけるのと、栞がドアを思いっきり開けるのは同時だった。
「ふざけたこと言うのやめてくれませんか! 私が可哀想? 勝手に気持ちを決めつけるのはやめてくれません? 巻斗くんはずっと、私のことを第一に考えてくれる自慢の彼氏です! あなた方なんかに誹謗中傷されるような謂れはありません!」
居残っている男子に鋭い目を向けながら、激しい口調で言い放つ。そのまま栞は息を整えて、
「私は! 好きな人に対して全力な巻斗くんより、陰からこそこそ悪口を言っているあなた方ののほうが何百倍も気持ち悪いし、ウザいと思いますけどね」
ここからは中の様子が分からないが、一切反論が聞こえない辺り中の奴らも呆気に取られているんだろう。俺もそうだ。
人見知りで、智弘にも背中越しで話していたような栞が、俺のために同級生に立ち向かっているのだ。突然のことすぎて脳が追いついていない。
「まぁ、水谷の言う通りって感じか」
ふいに、背後から声が聞こえた。
「……梅田先生?」
振り返ると、担任の先生が仁王立ちしていた。
「荒川、水谷はいい彼女だな。大切にしてやりなよ?」
「は、はぁ……」
怒涛の展開すぎて、気の抜けた返事しか出来なかった。
梅田先生は、俺の背中を軽く叩いて教室へと入っていった。
「高校生の男女のあれやこれに対してとやかく言う先生もいるが、私は結構だと思う。そういうのは楽しめるうちに楽しんでおくべきだ。ね? 水谷さん。居残りをさせられておきながら陰口を叩くような余裕がある子達なんて私に任せて、彼氏と帰りなさい。荒川くん外で待ってるよ?」
「あ、あ……はい」
マジかよ……という声が中から聞こえた気がしたが、ここは梅田先生のご厚意に甘えて無視。今度こそ栞の手を引き、昇降口へと向かった。
「ありがとな、栞。俺のために言ってくれて。人見知りだっていうのに」
栞の足はガクガクと震えていた。やっぱり無理をしていたのかもしれない。
手を繋ぐのをやめて、栞の前で中腰になる。
「あの……巻斗くん?」
「今の、結構無理してたろ。おぶってやるよ」
「いえ……私が言いたいから言っただけですので、別に」
「じゃあ俺も栞のことをおんぶしたい。それでいい?」
「まぁ、それなら……」
おっかなびっくりという様子で俺の背中に乗ってくる。心配になってしまうほどの軽さだった。
「俺、栞があんな大胆なことをするなんて思わなかったよ。本当にありがとう」
「……私だって、好きな人の悪口を聞いたらそりゃ怒りますよ」
愛されてんなぁ、俺。
◆
「昨日はすみませんっした! 荒川くん!」
「これからはあんなことは言わないっす! お幸せにっす!」
「お、おう……」
翌日、男子数人から謝られた。
昨日の威勢はどうしたというのか。
一体、梅田先生はどんな説教をしたんだろう。
そして……
改心したら「っす」口調になるの、流行ってるの?
また約束を破ってしまいました。もう○○に投稿しますってのやめた方がいいかも。
二度も詐欺してしまい申し訳ありませんでした。
言い訳をさせてもらうと、今回の話はいつもより長めです。1.5倍くらい。
遅れた分楽しんでもらえたらと思います。
それでは!また明日からも頑張って参りましょう!
僕も約束を守れるように精進します!!
追記:更新が一ヶ月以上停止しているようです。
短編を書いてみたのでそちらでお茶を濁してくれると幸いです
すぐに続き書くので……
なんて言ってましたが更新は半年後くらいになりそうです
追記の追記
たまに本筋に関係のない修正が入ってます
ちょっとした会話が変化する程度ですのであまり気にせず、本編の更新をお待ちいただけたら……いいな……




