嵐(いろいろな意味で) ⑩
「ねえねえ、これどうかな?」
「う~ん、こっちの方が正美には似合ってるんじゃない?」
「あ、そうかも。早速試着してみる」
司先輩と正美先輩が黄色い声を上げながら、服の品定めをしてるよ。傍目から見ると、美女JKが楽しそうにショッピングしている極々普通の光景なんだけど、あの2人の正体が体育系男子だと知っているこちらとしては、メチャクチャ複雑な気持ちになる。
はい、結局服やら何やらの長~い女の買い物に付き合わされております。どうせすぐ戻るのに、服や化粧品なんか買ってどうするの?と何度も言ったけど。
「いいじゃ。私たちのお金なんだし」
「それに、今後もこう言うことが起きないとは限らないでしょ?予備よ予備」
予備にしても結構買ってませんか?あんたら。
と正面切って文句を言う気力も失せたので、僕は服屋の外にあるベンチで本を読みながら、時間つぶし・・・と行きたいところだけど。
「ねえねえ忠一君。忠一君はどっちが似合ってると思う?」
はい、来たよ。採点係としてのお呼びが。
おちおち休んでもいられないよ。
「う~ん・・・右の方が今の先輩の雰囲気にあってると思いますよ。左も悪くないですが、ちょっと飾りが過剰に思います」
「そうね・・・うん、じゃあ右の方を買うわ」
と正美先輩のを見終えると。
「私はどう?個人的にはこっちの方がいいと思うんだけど」
「そうですね。今の先輩ならスカートもズボンも似合いますけど、僕としてはこっちの方がマッチしてると思いますよ」
「う~ん・・・忠一君がそう言うなら」
いや、別に僕の評価に従わなくてもいいんだけどね。
まあこっちとしては、気分を損ねない様に気を遣ってるんだから、意見を尊重してもらうに越したことはないけど。
それに加えて、今の先輩たちは僕の基準から言えば美人だ。その美人さんたちが、楽し気に話しかけてきてくれるのは、男として素直に嬉しい。普段の僕は、女気なんてないからね。
あと先輩たちも、さすがに男である僕に気を遣ってくれてる節もあるし。例えばさっき2人してランジェリーショップを見に行った際は、かなり手前で待っているよう言ったし。
本当、今考えると本当にありがたい・・・しかし、ランジェリーか。下着はさすがに見えないからな。
いや、成り行きとは言え正美先輩の裸を見てしまった僕が言うものなんだけど、そんな下品な話題を2人の直ぐそばで考えるなんて「忠一君」
「わ!?なんですか、いきなり声なんか掛けて?」
「そりゃ一人で何か考え込んでいる姿を見れば、声の一つも掛けたくなるって」
「まあ、どうせロクなことじゃないでしょ。私たちが着ている下着の色とかが、気になったんじゃない?」
ガッデム!だからこの人たちは、どうしてこうも人の心読むのが上手いんだ!?
「元男なんだから、若い男子が考えることなんて大体想像つくって」
あの司さん、頼むから追い打ち掛けるのやめてください。それに、今の発言の内容も問題ですよ!
「ちょっと司。あんまりそう言うこと公共の場で言うもんじゃないわ」
正美先輩が司先輩を諫める。ナイスです。そう、ここは公共の空間。どこに目あり耳ありかわからない。
「あら失敬」
可愛く舌を出して・・・反省しているのかこの人?
あと「元男」て、本当に女に染まっていますなあんたら。まあ、今の2人は外見だけじゃなくて精神も完全に女なんだから、そう言う発言しても仕方がないか。本当に恐ろしいな、あの性転換装置。
「よし!じゃあ買う服も決めたし、私たちお会計してくるからちょっと待っててね」
「はいはい。荷物番の御役目に備えさせてもらいます」
とちょっと皮肉ぽく言ったら、司先輩がジト目で。
「そう言う皮肉は言わない。モテないわよ」
やかましいわ!
たく、人の気も知らないで。
やれやれ。可愛い女の子が傍にいるって言うのも、考えもんだな。早いところ戻ってくれた方が気が楽・・・う~ん。でももし先輩たちがずっと女で、こういことを続けて言ったら僕も慣れるなんだろうか?
そうだよな。まだ女性としての2人と付き合って3日目だもんな。人はどんな環境でも慣れるみたいだし。
そうなると可愛い先輩2人と甘い青春・・・言うような光景よりも、尻に敷かれて使われる未来しか今のところ思いつかない自分が情けない。
そもそも自分自身、女の子と付き合うって言うシーンが思い描けないし。今まで女の子と付き合ったこともないし、女の子よりも趣味の方が好きって言う人生だったし。むしろ、女の子と付き合ったとしても、趣味の方を優先してしまうような気がしてならない。
なんて考えてるうちに。
「お待たせ~」
「じゃあ可愛い後輩君、荷物持つの手伝ってちょうだい」
お嬢様がたがか戻ってきた。
「了解です。お嬢様がた」
先輩たちの荷物の一部を引き取り、荷物持ちに回る。
「じゃあ、私たちの買い物はこれで終わったし」
「約束通り、本屋に行きましょうか」
おっと、すっかり忘れていた。それを交換条件に出してたんだっけ。
「じゃあ、行きますよ・・・と、その前にあそこに寄らないと」
「「あそこ?」」
「て、金券ショップか」
「確か忠一君は、本代浮かすために金券ショップで先に本用の商品券買うんだったわね」
司先輩が呆れ、知っている正美先輩も苦笑い。
「余計なお世話ですよ。1%でも2%でも、浮かせる部分は浮かしたいんで。すいません、3000円分お願いします」
ほんの数十円でも、塵も積もればなんとやらだ。もっとも最近は喫茶藍でのアルバイト代が入って来て、懐は大分暖かいんだけどね。もう習慣化しているので、やめる気はない。
僕は店員さんにお金を払い、商品券を受け取った。
「じゃあ、行きま・・・先輩たちも何か買いますか?」
2人ともガラスケースの商品を見定めている。何か欲しいものでもあるのかな?
「いや、ちょっとアイスクリームショップの券があったから」
「あ、こっちはコーヒーショップの回数券。へえ、こんなものもあるんだ」
2人ともめちゃくちゃ興味深そう。金券ショップをよく使う僕としては、全然珍しい光景でも何でもないんだけどな。まあいいや。
「じゃあ、買いますか?」
「う~ん・・・まあ今回はいいや」
「そうね。じゃあ、行こうか」
結局買い物をしたのは僕だけだったけど、2人がアイス店や喫茶店に興味を示すなんてね。
そして、本屋でも。
「先輩たちどこかな?」
自分のお目当ての小説や文庫本を買い込み終えたものの、先輩たちの姿が見えない。なので、2人を探して歩き回っていると。
「いた!司先輩!」
「あ、買い物終わったの?」
「ええ、終わりましたよ・・・先輩。それ買う気ですか?」
僕は先輩が手にしていた本を見ながら訪ねる。司先輩が手にしていたのは、同年代の女の子向けのファッション雑誌だった。
「別に、ちょっと見てただけよ」
と特に気にする風もなく、棚に戻してしまった。買う気は起らなかったみたいだけど、しっかり読んではいたな。
「正美先輩は?」
「さあ?そこら辺にいるでしょ」
どうやら司先輩と正美先輩は別行動みたいだ。キョロキョロと見回して見ると。
「あ、いたいた」
割と近くにいてくれた。ただし、司先輩と違って明らかに品定めしているけどね。
「・・・先輩、それ欲しいんですか?」
「わ!?いきなり声掛けないでよ・・・う、うん。どっちにしようか迷って」
先輩が手にしているのは、最近流行の付録が付いている本。と言うより、付録がメインの本だ。パッケージを見ると、女性向けの小型バックとポーチで、どちらを買おうか迷っているらしい。
「両方買うのは?」
「服とかにお金使っちゃって、片方しか買えないのよ」
やれやれ。ここに来て金欠てわけか。
だったら。
「足りない分、僕が立て替えましょうか?」
「え!?いいの?」
「ええ。ちゃんと後で返していただけるのなら」
「じゃ、じゃあお言葉に甘えて」
「いいのかな?忠一君。この娘にお金貸したら返ってこないかもよ~」
と司先輩が意地悪くからかってくる。
「もう司たら、私がお金にだらしないみたいじゃない!」
ちなみに、男の時の金銭感覚が残るかはわからないけど、正美先輩も司先輩も、僕が知る限りは他人から借金をすることはない。まあ、持ち合わせがなくて「ごめん」くらいの範囲なら何度も経験しているけど、今のところ踏み倒されたこともない。
だらこそ、こちらも気軽にこんなこと言えるわけだし、司先輩も冗談半分でからかっているわけなんだけどね。
「さあ、さっさと買っちゃいましょう」
こういう場合はさっさと前に物事を進めるに限る。僕は先輩を急かしてレジに向かい、すぐに購入した。
「はい、先輩どうぞ」
「あ、ありがとう」
中に買った商品の入った服を手に取りながら、恥ずかしそうにお礼を言う正美先輩の顔は、普通に可愛かった。
ただし、すぐに正美先輩の携帯が鳴ったので、あんまり長いこと見ていられなかったけどね。
「もしも~し?・・・ああ、店長・・・え!?直った!」
それは待ちに待った連絡だった。
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