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嵐(いろいろな意味で) ⑧

 映画が始まった。しかし、先輩たちは見る気がない映画だけに、見始めてからすぐに欠伸をし始め、そして30分もしないうちに眠ってしまった。


 僕が座っているのは、真ん中の席。すなわち、両隣に正美先輩と司先輩がそれぞれ座っている。そんな2人が寝てしまったのだから、僕の方にもたれ掛かる形になった。


 化粧品の甘い匂いに、はらりと掛かる美しい髪。何より、2人の寝顔が間近にある訳で、動くことのできないもどかしさとロマンチックな状況の嬉しさと恥ずかしさが同居・・・


 何てリア充的な光景が、早々起こるわけないんだね。これが・・・はい、ここまでは完全に僕が映画見る直前まで見ていた幻想です。


 現実はどうかと言えば、まず2人とも全く寝る気ない。座るなり、ポップコーンを食べながら、ジュースを飲んで、小声でお喋りしながら宣伝や予告映像の暇な時間を潰してるし。というか、僕に非難の声あげたくせに、何2人とも勝手に人のフィッシュアンドチップス横取りしとるんですか!


「いいじゃない、一つくらい」


「私もポップコーン分けて上げるから」


 自分からポップコーンの器差し出してくれた正美先輩はいいとしても、その後しぶしぶ出した司先輩!あんた、人に恨みでも・・・あるか。見たい映画見られなかったのまだ根に持ってるか。


 でも、映画が始まると2人とも。


「スゴイ、偉い人たちに堂々と特攻反対とか言ってるよ」


「ああやって、ダメなことはダメって言える人、カッコイイ!」


 て、普通に映画見入ってるしね。まあ、口にした意見そのものは同感だけど。


 今見ている『夜間爆撃』は太平洋戦争中に実際にあった話がモデルで、特攻に反対して夜間攻撃を続けた部隊と、その司令官が主人公になっている。


 冒頭でその司令官が、お偉いさんだらけの会議で特攻に真正面から反対する場面は、確かにカッコイイ。同じ男として、あういうふうにありたいと強く思う。


 そこから先も、エンジンの取り扱いが難しい「彗星」爆撃機を必死に整備するシーンや、若いパイロットの訓練シーン、さらに敵に見つからないように秘密基地を作るシーンも、リアルに作られている。派手さはないけど、コツコツと勝利のために邁進するその姿が何とも言えない。


 そしていよいよ出撃の場面。夜の闇の中を、秘密飛行場から1機1機がバラバラに出撃していく。そしてその機内の様子が描写される。


 戦争映画にありがちな勇壮さとは無縁の、真っ暗闇の中を敵地目指して2人だけ。しかもいつ敵機が現れるかわからず、神経を張り詰めて敵に対して警戒する。


 地味だけど、緊張感あふれるシーンだ。そしてそれが終わると、いよいよ沖縄の敵飛行場に突撃する。その途端、画面が真っ白に染まった。


「キャ!?」


 眩しさに司先輩が思わず声をあげる。次の瞬間には対空砲火の轟音が室内に響き渡る。サーチライトの光と、さらに機体目掛けて撃ち上げられる対空砲火の嵐だ。


 その中を、出演者たちの乗る「彗星」が爆弾を投下して、機銃を撃ちまくりながら突撃していく。さっきまでの地味な夜間飛行シーンから一転しての、激しい戦闘シーン。


 そして被弾し、後部席の乗員が血を噴き上げる。前席のパイロットが声を上げる中、撃たれた乗員は自分を気にせず飛べと、いき絶え絶えに言う。


 再び夜の闇の中を、今度は九州へ向かって帰るシーン。そんな彼らに、闇夜から敵の夜間戦闘機が撃ちかけてくる。必死に攻撃を避けるパイロットだが、レーダーを積んだ敵機に徐々に追い詰められる。


 だが、撃ち落とされそうになったその時、敵の射撃が突然狂った。その一瞬の隙を衝いて、なんとか脱出に成功する。


 終に九州に帰りつく「彗星」。だが後席の搭乗員はこと切れていた。その手には、敵のレーダー電波をかく乱するアルミ箔が握られていた。死ぬ間際、彼はそれを散布して敵の夜間戦闘機を撒いたのだった。


 そんな苦しい地味な戦闘シーンが何度も続く。それでも何度も出撃を繰り返し、徐々に戦果が積み重なっていく。ついに将軍からもその戦果を認められ、お褒めの言葉をもらうが、最終的には終戦を迎えて部隊の戦闘は終わる。


 そして映画は、司令官が隊員の復員に飛行機の使用を許可し、発進する彼らを見送るシーンでエンディングとなる。


 夏空に、1機また1機と故郷目指して飛び立っていく零戦や「彗星」。その姿が見えなくなるまで、手を振って見送る司令官の背中をバックに、映画は終わった。


 いかん、不覚にも感動して涙を流しそうになってしまった。


 でも、女の子(本当は男だけどね)の前で泣くなんて恥ずかしい。ここはグッと我慢。


「さてと、じゃあ行きますか・・・て!」


 見れば、2人ともめちゃくちゃ泣いてるんですけど。


「いい映画だった・・・」


「感動した・・・」


 2人とも見る前は興味もなかったくせに・・・まあ、感動してもらえたなら、それはそれでいいんだけど。


「ええと、2人とも・・・とりあえず洗面所行ったらどうですか?」


「「うん、ありがとう・・・」」


 それじゃあ、せっかくの化粧も落ちちゃってるからね。


「じゃあ、僕はごみを片づけてロビーで待ってますので」


 ハンカチで顔を拭く2人を見送って、僕は2人の分のゴミも一緒にスタッフの人に渡して、ロビーへと出る。


 2人が戻ってくるまでに時間がありそうなので、ショップに行ってお土産を物色する。


「ええと、パンフレット。これは絶対だな。それから・・・お!」


 いいもの発見。この映画限定版の「彗星」と零戦がセットになった48分の1プラモデル。部隊番号や部隊マークが映画オリジナルで、ショップでしか手に入らない限定品。これは買わずにはいられないな。


「お待たせ~」


「ごめんね~」


 店内を物色すること数分、ようやく泣き止んで化粧を整えた2人が合流した。


「何買ってるの?」


「はい、パンフレットと映画限定プラモデルです」


 司先輩の問いに答えると。


「あなたらしいわね」


「うるせ~・・・先輩たちは何か買いますか?」


「そうね・・・あ、これいいかも!」


「うん?先輩・・・」


「何よ?」


「本気でそれ買う気ですか?」


「や、やっぱりダメかな~」


 司先輩が手にしたのは、今公開中の女の子向けアニメのキャラクターが描かれたピンク色主体のマグカップ。別に男女差別する気はないけど、さすがにそう言わずにはいられなかった。


「だって、明日には男に戻るのに、どこでそれ使う気ですか?」


 男に戻った司先輩が使う姿が全く予想できない。と言うか、本人も男の精神に戻ったら使う気も起らないと思うのだが。


 そう考えると、買わない方が賢明だと思うのは僕だけか?


「う、それは・・・あ!お店よ!お店の休憩時間にでも使うわ。今はお店のカップ借りてるけど、マグカップがあればその必要もなくなるし」


 なんだか言い訳してる感半端ないんですけど・・・まあ、最終的にお金払って買うのは先輩の判断だから、これ以上は言うまい。


「わかりました。決めるのは司先輩ですから、好きにしてください」


「えへへ。すいません、これください」


 嬉しそうにレジに行く先輩。


「そう言えば、正美先輩は?」


 と振り向けば。


「う~ん。迷うな・・・」


 品定めしている。それもかなり真剣に。一体何を見ているのか、回り込んでその正体を確かめる。


 先輩が見ているのは、メモ帳だった。今やっている猫映画の、子猫だらけのデザイン。


「・・・」


 司先輩と同じ流れになりそうなので、これ以上本当に何も言わないことにした。


 それから10分後、僕と正美先輩も会計を済ませて、映画館を出る。


「さてと、ちょうどいい時間だし。お昼御飯行こう」


「そうですね。フードコート行きます?それとも、どこかレストランにでも入りますか?映画の半券で割引も利きますし」


 ここの映画館はショッピングコートの中に入っていて、映画の半券を見せればショッピングコートのフードコートやレストランで割引を受けられる店がいくつかある。


「そうね・・・私はカレーライスが食べたいな!」


「私はハンバーガー」


「僕はラーメンと甘味」


「「「・・・」」」


 はい、正美先輩に司先輩、僕と再び希望するものが分かれました。


「フードコートが無難そうですね」


 僕の言葉に、2人とも頷いてくれた。


 と言うわけで、フードコートに移動。


「うわ~」


「混んでるね」


「お昼時ですからね」


 ちょうどいい時間なので、フードコートは人でごった返していた。


「とにかく、まずは席を」


「3人分座れる席・・・」


「空いてないかしら?」


 何とか空いてる席を探す。他にも席待ちの人は一杯いるから、一瞬の遅れが即敗北になる。


 僕は空いてなくても、空きそうな席に目星をつけようとするけど、中々見当たらない。


(こりゃダメかな?)


 と諦めかけたその時。


「空いた!」


 正美先輩が猛ダッシュした。見れば、先輩の向かう先でちょうど4人席の家族連れが食べ終えて立ち上がったところだった。


「やった!2人とも、こっちこっち!」


 見事先輩がキープした。


「やるわね」


「お見事」


 ここは素直に礼を言うところ。


「フフフ。それじゃあ、私から注文してきていいかしら?」


「「どうぞ」」


 さすがにこれは認めざるを得ない。


「じゃあ、行ってきます」


 荷物を置いた先輩が注文しに行く。


 数分後、彼女が戻ってくると。


「次司先輩どうぞ」


「いいの」


「ええ」


「ありがとう。じゃあ、遠慮なくね」


 レディー・ファーストじゃないけど、ここは譲っておく。


「随分とあしらい方が上手くなったじゃない」


「女の子に優しくするのは悪いことじゃないでしょ」


 と、何気なく返したんだけど、その時正美先輩の体が一瞬ビクンと震えたように見えた。




 


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