嵐(いろいろな意味で) ⑥
部屋を出てから10分ほど。ほとぼりが冷めたのを見計って、僕は先輩たちの元へと戻る。本当は気乗りしないけど、戻らなかったら戻らなかったで、何か報復を受ける予感がするので、戻る以外の選択肢は採りにくい。
ただし、無防備で戻る訳じゃないけどね。
「戻りましたよ、先輩方」
「やっと戻ってきた」
「食器を片づけるにしては随分となが・・・何持ってるの?」
不満を口に仕掛けた正美先輩(司先輩もだけどね)が僕を見て、正確には僕の持っている物を見て嫌そうな声を上げる。まあ、それを狙ってましたからね。
「何って。電子辞書に参考書ですよ」
「「げえ~!!」」
「げえ~、じゃない!あのですね、今やっているのはお2人の課題なんです。ここから先は余分なこと考えず、まずは課題を片づけることを目標にしましょう!今日1日、お2人の課題が終わるまでは、勉強の時間とします!」
「鬼だ!」
「異議あり!」
へへへ、そんな反論想定済み。あと悪いけど、可愛い顔で下から言われても怖くないですよ。そして、こちとら心を鬼にするだけだ!
「鬼で結構!異議は認めない!オラ~!!2人ともつべこべ言わず勉強に集中しろ~!!答えはイエスかはいだ!!」
「「ヒエ~!!」」
やったぜ、勢い任せでやったら案外2人とももろいもんだ。これが男の2人だったら、迫力と反論で終わりだったけど、今の2人なら何とかなったな・・・あ、言っておきますけど、これは言葉による押さえつけなどではないです。あくまで、話し合いでお2人に課題に集中するよう仕向けただけです。
うん、それで間違いない。
まあ、それはともかくとして、2人がさぼらないように、そして余計なことをしないように見張っておかないと。さっきみたいに付け入る隙を与えてはいけない。
こうして、この後昼食と時折挟む小休止を除いて、結局昼過ぎまで掛かって課題を片づけました。
そして、2人が何とか課題を終わらせた時には。
「「・・・」」
返事がない。まるで(中略)状態。と言うか、本当に2人とも寝ちゃいましたよ。
「普段使わない脳を強制フル回転させたから、流石に疲れたのかな?」
まあ、課題も終わったことだし。昼寝も悪くないだろう。
「にしても」
スー、スー。
2人ともメチャクチャ寝顔が可愛いんですけど。良く考えれば、お店では寝てるところなど見たことないし、昨日の夜も2人が寝入ってからは顔を見てないから、寝顔見るのこれが初めてだよな。
机に突っ伏してる正美先輩も、床に腕を広げて仰向けに寝ている司先輩も、普通に可愛い。
悪いとは分かっていても、2人の視線を気にせずマジマジと今の姿を見てしまう。2人とも顔は美少女と言っても差し支えない程に美形になっていて、しかも今は寝ているから目を閉じている。それがまた新鮮で、なおかつカワイイ。
胸も、正美先輩は司先輩より小さいのを気にしているけど、別に貧乳とか微乳とか七十二とか、とにかくそういうレベルではないから、気にするほどじゃないと思うんだけど。いやつまり、充分存在感ありますということで。
おまけに。2人とも着ているのは膝下丈のワンピースとロングスカートだけど、そこからチラッと見えている部分だけの細く白い脚が、男の煩悩をくすぐって来る。お店でもメイド服、それもロングスカートの正統派デザインを着ているから、生脚を見るなんてない。
普段見られない姿を見るだけで、やっぱり男としては嬉しいわけで・・・
「いかんいかん」
頭を振って現実を思い出す。目の前の2人はあくまで仮初の姿。本当は自分よりも大柄で筋肉質な男であると言うことを、忘れちゃいけない。
このままじゃ風邪を引きそうだから、起こそうかとも思ったけど、疲れてる2人にそれはさすがにかわいそうだ。
「母さん。先輩たち寝ちゃったから、何か掛けてあげて」
夕飯までのちょっとの時間だけど、ここは寝かせてあげよう。
「ねえねえ、忠一君~」
う~ん、デジャブを覚える光景。またも司先輩が猫撫声で僕に向かって口を開く。
時間は夕飯。ちなみに今日のメインディッシュは鮭の塩焼きと、サーモンのカルパッチョという鮭尽くし。ちなみに、両方とも僕の好物です。
「何ですか?」
鮭の切り身を白いご飯でかき込みながら、聞き返す。まあ、何となく予想はできてるけど。
「課題も終わったことだし。明日こそ出かけようよ」
やっぱりね。まあ、今度ばかりは断る理由もないし、明日の予定もないし。
「いいですよ。ただ出かけるって言っても、どこへ行きます?」
「ショッピングとか」
「ショッピングて何買うのよ?」
「グ」
正美先輩の突っ込みに、司先輩が口ごもる。予定通りなら、先輩たちは明後日には男に戻る。だから服や化粧品を買っても意味がない。今日、明日に着る分は買ってある筈だから、もし買ったとしても宝の持ち腐れになるし、置き場にだって困るだろうし。
そう言えばこういう系の小説で、女子の精神状態でフリフリの服とかカワイイぬいぐるみとか買って、あとで身もだえるって言うシチュ見たことあるぞ。
でも、こうした事情を知らない母さんが。
「あら?服とか化粧品とか買えばいいじゃない。2人とも可愛いんだから。それに、せっかくこき使える荷物番もいるんだから」
と、余計なことを言ってくれる。まあ、荷物番するのはやぶさかではないけど、それとは別ベクトルの問題があるわけで。
とにかく、反論はできないから、ここはさりげなく話を変えよう。女の子と男の子が出かける定番なら、やっぱこれでしょ。
「じゃあ、映画でも見に行きますか?」
「あ!それいいかも!」
正美先輩が賛成の声を上げる。
「私ね「メガ・ワーム」を見たかったのよ!」
「・・・正美ちゃん、ああいうの好きなの?」
「え?あ!」
母さんがちょっとビックリしてる。だわね~。「メガ・ワーム」て、確か今テレビで宣伝しているけど、タイトル通り、生物兵器として開発された超巨大ミミズが暴走して、建物や人間を丸呑みしまくるホラー・モンスター映画だから。
しかもこの映画、イケメン俳優や女優は基本喰われるチョイ役で、主人公は街でコックをしている中年の元特殊隊員ていう、なんかどこかで見たことある様な、いい意味で硬派。悪い意味だと暑苦しいとか、散々ネットでも言われてるし。
普段の先輩が好きな映画がそっち系なんだよな~
で、そう言うのが好きな女子がいるのは間違いないし、人を上面だけで判断するのもいけないんだけど、母さんとしては正美先輩が進んでみるというイメージがないんだろうな。
「まあまあ母さん。人にはそれぞれ好みがあるから」
とりあえず、フォローしておく。
「それもそうね」
母さんの言葉に、正美先輩がホッとしている。
「ただ、僕としてはやめて欲しいです」
「ええ!?」
ごめんなさい。ホラー系苦手なんです。
「じゃあ、忠一君は何か見たい映画あるの?」
そう聞かれて、僕はスマフォを取り出して今公開中の映画を見てみる。
「そうですね・・・あ!これ見たいです!大戦末期、特攻を拒否してひたすら夜間攻撃を続けた海軍芙蓉部隊を取り上げた「夜間ばくげ「「却下!!」」
は、同時に即却下いただきました。
わかってましたよ。男の時も通じて先輩たちが、そういうのに全く興味ないことは!
「司先輩は見たい映画ないんですか?」
「う~ん・・・強いて言えばこの「もふもふガーデン」かな?」
それは猫を飼っている家庭の、平凡日常系映画だった。出てくる猫が可愛いと話題だけど、先輩そう言うの好きだっけ?まあ、今は女の子になってるから趣向も・・・あ、納得。
「それ、先輩が好きなアイドルグループが主題歌歌ってるやつでしょ?」
「あは、バレたか」
「まあ、別に希望するのはいいですけど・・・三者三様見たい作品がキレイに分かれたな」
3人とも見たい映画バラバラだよ。上映予定時刻を見ると、3本とも昼間もやっていて見れないことはない。ただし、同時上映しているから、1本見れればいいところだろう。
「どうしますか?」
「私はやっぱり「メガ・ワーム」がいいな」
「私だって「もふもふガーデン」見たいし」
「あの、年下の希望も立ててもらえると嬉しいんですけど」
これだけは、いくら先輩たちが美女でも譲れないよ。
「「「・・・」」」
微妙な沈黙が場を包み込んだ。しかしそれを破ったのは、やっぱり母さんだった。
「まあまあ3人とも。ここはジャンケンで決めちゃいなさいよ」
単純だけど、確かにそれが手っ取り早いだろうな。
「そうだね。先輩たちと話し合うには時間が足らないと思うし」
「いいわ。白黒つけましょ」
「お互い恨みっこなしよ」
僕たちは立ち上がり、それぞれ自分の利き手を出した。
「じゃあ、せーの」
僕が音頭を取って。
「「「ジャンケン・ピー!」」」
3人とも全員チョキを出した。
「「「あいこで!グー!((ピー!!)」」
一人だけグー!それを出したのは・・・
「じゃあ、ええと・・・「夜間爆撃」で3人分予約ね」
食後母さんが映画館のネットで3人分のチケットを予約してくれた。
「うん、ありがとうね」
僕は笑顔で答えた。
と言うわけで、勝ったのは僕でした。これで見たい映画見れるぜ!
ただ明らかに先輩たちの機嫌を損ねたから、明日は出来るだけ御機嫌取りをしないとな。
嬉しい反面、ちょっとばかり憂鬱な気分になった。
御意見・御感想お待ちしています。
なお作中で出てくる映画のタイトルなどは適当です。




