一巻発売ss 十年後千秋
魁人は千秋に連れられて、近くのデパートに来ていた。小さい頃は魁人が手を引いていたのだが、今では魁人が手を引かれている。
「千秋、ちょっと落ち着いてくれ」
「ダメ! 我的に売切れたら最悪だから!」
手を引く、というよりも腕を組んで千秋が魁人を連れまわしているという表現の方が正しい。グイグイと彼女に引っ張られて魁人は喫茶店の前まで連れていかれる。
「ここで、カップル限定のスイーツあるから、食べよう!」
「あ、うん……そうか」
「ふふふ、食べまくろう」
カップル限定、という言葉に何とも言えないような表情になる魁人。別に深い意味はない、千秋はそれを食べたいから自分を連れて来ただけと言い聞かせているがそれだけではないような気もしていた。
特に魁人は色々と答えを保留している節がある。そろそろ答えを出してくれと言う千秋の遠回しの催促も見て取れるような気もしていた。
「おおー、ここのパフェ美味しそう! な? 魁人!」
「そうだな。美味しそうだ」
「我達、周りからはカップルに見えてるかな?」
「どうだろうな」
子供の頃にも魁人は千秋にこういったカップル限定のお店に来たいと言われたことがあった。しかし、千秋はその時見た目が幼かったので、一緒にこういった店に来ればとんでもない誤解を受けそうだったので魁人は却下をしたのだ。
あれから大分大きくなったなと思いつつ、魁人は席に着いた。前には幼いはずだった千秋が座っている。髪はさらさらなのは変わらないが、顔立ちは色っぽくなっている。
体も成長して、足も長い。千秋本人は太ももがちょっと太いと千夏に言われたことを気にしていたり、肩が凄く凝るほどに胸も大きかったり気にしていることもある。
「おおー、パフェ美味しそう」
「俺は良いから食べてくれ」
「いや! これは二人で食べる奴だから! あーんしてやろう!」
スプーンでアイスをすくって、魁人の口元に彼女は運んだ。眼をキラキラさせながら純粋な眼で差し出されたので断る事などは出来ずに、口を開けて食べた。
「美味しいな。良い牛乳で作ってる感じがする」
「カイトのお墨付きか! なら、我も一口! ん! 美味しい!」
キラキラした笑顔は昔から変わりないなと思いつつそれにつられてカイトも笑顔になってしまった。感情は伝染する性質があり、笑顔は人を幸せにすることもある。千秋の笑顔は魁人の心を優しくほのぼのとした空気にしていた。
「食べ終わったらね、我の服を一緒に選んで!」
「俺センスはあんまりないと思うんだが」
「そう言う問題じゃないの!」
食べ終わった後に、今度は服売り場に腕を組みながら魁人は連行された。千秋はジーパンを見ながらそれを腰元に当てる。
「我、太もも太いって言われた……千夏にむちむち過ぎてるって」
「だから、ジーパンで細く見せたいのか?」
「うん」
「そんなに太いって思った事は無いけど……」
「そうだよね! それに千夏も同じ位太いし」
「両方とも普通だと思うが……」
ジーパンを買った後は何故か下着売り場に千秋は行こうとしていた。
「いや、俺は行かないぞ。流石に」
「えー! でも、最近また大きくなったら買わないといけない!」
「一人で行ってくるんだ」
「でも、魁人が好きな色にしておきたいと言う気持ちもある」
「いや、そう言うのは大丈夫だ」
「……なら、また今度にする! 千春と一緒にくる!」
「そうしてくれ」
車に彼女を乗せて、二人は家に戻った。家に帰ると皆出かけていたのでまた、二人っきりだ。
「カイト、運転サンキュー!」
「あぁ」
「よーし、今度はお昼寝しよう!」
「急にか?」
「カイトは運転で疲れていると思うからな! 我の部屋のベッドを特別に貸してやろう」
「いや、別に――」
「――いいから!」
また、グイグイと力で連れまわされる。本気で力を籠めれば腕を振り払う事は出来るが、魁人はそう言う事をする気にだけはならなかった。だから、あまり眠くなくても千秋には逆らえない。
取りあえず、ベッドの上に彼は横にさせられた。
「眠くないんだが……」
「大丈夫、その内眠れる! ねーむれー、ねーむれー、かいとー、ねーむれー」
「子守唄は大人には聞かないんだけどな……」
暫く経っても魁人はなかなか眠れなかった。だが、千秋はずっと魁人が眠るのを待っているようだった……
「よーし、カイト今度は我が膝枕をしてやろう!」
「いや、それは」
「いいからいいから!」
彼女に直ぐによいしょと、カイトの頭を太もも付近に置いた。頭を撫でて、何度も囁く。
「……」
何とも言えない恥ずかしさを感じつつ、僅かに魁人は眠くなってしまった。そのまま彼は昼寝をする事になる
「寝た? 寝たよね?」
魁人が寝ると千秋は彼の頭をベッドに置いた。そのまま自身も彼の隣に横になった。
「流石に20超えて、我とか言ってる場合じゃないよね。厨二も程ほどにしないとって言うかさ……でも、大人のふりをするより、子供のふりをする方がカイトを好き勝手に出来るし、甘えられるから……」
千秋はひとりでに呟いた。子供っぽさは完全に抜けていた。彼女はもう、人として女性として、成熟をしていた。
「いつになっても返事くれないんだもんね……これはさ、《《私》》も我慢の限界だよ。焦らしたカイトが悪いよ」
「ふふ、千夏が我慢の限界って言ってた気持ち、分かるなぁ……もうそろそろ気持は抑えきれないよね。返事くれないなら、強硬手段しかないってことだぞ。カイト……でも、やっぱり愛してる」
「――私が一番貴方を愛している」
彼女は寝て居る魁人に身を寄せた。これは魁人が返事を渋った事で千秋が超肉食になってしまう未来の一つ。
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