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悲しい嘘  作者: 海星
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番外編1 僕の嘘34(コンラート視点)

長くなったので中途半端なところで切って申し訳ありません。なので、二話連続で投稿します。

「アイリーン……?」


 父上は怪訝な顔で母上の様子をうかがっている。僕はそんなことはないと言いたかったが、母上がどんな気持ちでその言葉を言ったのかわからないので、母上の次の言葉を待った。


「……わたくしは生まれてからずっと、いい家に嫁ぐようにと言われ続けてきた。わたくしが両親にとって初めての子どもだったのに、女だったのが悪かったのでしょうね。両親はわたくしに見向きもせずに、後から生まれた後継である弟ばかり可愛がっていた。いてもいなくても同じならいない方がいいのにと、両親に言われたこともあるわ」

「母上……」


 僕は後継だから、まだ必要とされていたとは思う。性差で変わることもあるだろうが、僕もずっと孤独だったから、母上の辛い気持ちは理解できる。


「そして、両親がわたくしを見下すから、後継である弟もわたくしを見下すようになった。弟には役立たずと罵られることもあった。だから、わたくしは家族を見返したくて、いい家に嫁ぐことを目標にするようになった。自分の価値はそれしかないのだと思ったから」


 母上はその頃のことを思い出して辛いのか、泣きそうに顔を歪めている。そんな母上を心配するように、隣に座るユーリが母上の手を取って握り締めた。

 母上はユーリに向けて頷くと、また父上の方を向く。この話は僕らではなく、父上に聞いて欲しいのかもしれない。僕は黙って耳を傾けた。


「……そうしてあなたとの縁談が決まった時は嬉しかった。その時ばかりは両親によくやったと褒めてもらえたの。そして、そんな環境から抜け出せることも嬉しくて、救ってくれたあなたに感謝したし、わたくしはあなたを好きになった。わたくしはそう()()()()()

「思っていた?」


 不思議な言い回しに僕が問い返すと、母上は答えてくれた。


「……今考えると、わたくしはそう思い込もうとしたのかもしれない。救い出してくれたこの人が、わたくしを思ってのことだと勝手に勘違いしたから、思いを返さなくてはいけないと……わたくしの気持ちは全て作られたものかもしれない。そんなわたくしに価値なんてないわ。所詮偽物なのだから──」


 母上は自嘲するように俯く。そんな母上をユーリは気遣わしげに見て話しかける。


「……お義母様は自分を殺してまでも頑張ってきたのですね。だからご自分の気持ちを見失ってしまった。今も自分の気持ちが作り物だと思いますか?」

「……わからないわ。だから、自分を見つめ直すために独りになりたいのかもしれない」


 どうして。ようやく家族になれると思っていたのにまた家族を切り捨てようとするのか。僕の胸に母上に対する怒りが湧いてくる。


「……アイリーン」


 静かに押し殺した声が静かな食堂に響く。父上も怒っているようで、目を眇めて母上を見ている。

 母上も気づいたのか、怯えた顔で僕の顔を見る。僕が険しい表情で首を振ると観念した母上は恐る恐る父上を見る。


 これだけで、母上がいかに他人の表情をうかがいながら暮らしてきたのかがわかる。だからこそ、父上とも向き合えなかったのだと。


 父上もはっと気づくと、母上を怯えさせないように表情を和らげる。


「……アイリーン、すまない。怖がらせたいわけじゃないんだ。だが、また家族から目を逸らそうとするのはやめてくれないか? もう私は皆が壊れていくのを見たくはないんだ」

「わたくしは目を逸らしてなんていません」

「だったら何故離れようとするんだ? 君はコンラートに自分と同じ思いをさせて悔いているのかもしれないが、また同じことをしようとしてる。コンラートにとって自分がどんなに大切な存在かわかっていないだろう? それに私にとっても君は大切な家族だと思っているよ」

「……嘘は結構です」


 母上はきっと父上を睨みつけると、唸るように吐き出す。父上は否定するように首を振るが、母上は納得していない。射抜くように父上を睨み続ける。

 父上はほとほと困ったように、母上に語りかける。


「私は確かに君のことをわかろうとしなかった。そんな君に甘えてしまったところがある。だから、君がどういう人なのか、ちゃんと知りたい」

「……同情ならいりません。余計に惨めになるだけです。わたくしはどうせ誰にも必要とされないのだから……」


 母上は自分の中に閉じこもって、僕らを見ようとしていない。母上の辛かった気持ちはわかるが、今の母上は不幸に酔って自分から不幸な道を選ぼうとしているようにしか思えなかった。


 ──厄介な人だ。僕と同じ──。


「母上、もう素直になってはどうですか?」


 同じように育った僕だからこそわかることもある。母上は体は大人になったものの、心は子どものまま、愛されることを願っているのだ。だけどまた、実家の家族の時のように、父上を信じて裏切られるのが怖いのだろう。


 母上は色々な建前を身につけて本音を覆い隠しているようだが、僕には通じない。


 そして、今の母上には足りないものがある。それに気づいて欲しいのだが。

読んでいただき、ありがとうございました。

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