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【2025年1月16日4巻発売】ちっちゃい使徒とでっかい犬はのんびり異世界を旅します  作者: えぞぎんぎつね
四章

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143 南方への徒歩の旅

 三日間の楽しい空の旅はあっという間に終わった。


 三日目の夕方頃、海竜の領域から五十キロほど離れた場所に、レックスは着陸した。

 そこで一泊し、朝にミナト達は出発する。


「レックス、ありがとうね」「ばうばう」「りゃ」

「ああ、気をつけていくんだぞ」


 別れ際、レックスは特にルクスと離れるのをさみしそうにしていた。


 ミナト達は元気に海竜の領域に向けて歩いて行く。


「今日は訓練してないから、変な感じです!」


 コリンが歩きながら、何も持たずに剣の素振りの動作をする。


「コリンは籠の中でも、かかさず剣の素振りをしてたもんね」


 ミナトはそんなコリンを見て凄いと思っていたのだ。


「籠は揺れるから、足腰の鍛錬にもなるのです!」


 コリンが堂々と胸を張る。

 ちなみにミナトは籠の中では訓練せず、神像とかレトル薬を作っていた。


「わふわふ」

「そ、そんなことないです。えへへ」


 タロが頑張り屋さんでえらいと褒めると、コリンは照れた。

 そして、何も持たずに剣の素振りの動作をしながら、歩いて行く。


「んにゃ! んにゃ!」

「りゃ~」


 コリンの近くでは、コトラとルクスが追いかけっこをしていた。

 素早く飛び回るルクスを捕まえようと、コトラはぴょんぴょん跳びはねている。


 コトラとルクスの様子をすぐ側で、ピッピとフルフルが兄か姉のような目で見守っていた。


「ルクスも飛ぶのが速くなったね」


 ルクスは、グラキアスから竜の戦い方を教えてもらった。

 その際に、効率的に飛ぶ方法も教えてもらったのだ。


「僕も訓練したくなってきた! 歩きながらできる訓練とかないかなー」

「わふ~?」

「あ、そうだね! アニエス、ずっと気になっていたことがあるんだけど」

「どうしました?」


 近くを歩いていたアニエスが笑顔で返事をする。


「えっとね、鉱山で吸血バットとたたかったとき、なにかで怪音波をふせいだよね?」

「何か? ……あ、神のベールですね」

「そう! それ!」


 神のベールとは、呪神の使徒との戦闘時にアニエスが使った神聖魔法だ。

 神の力が宿った薄い膜で覆うことで、怪音波などから味方を守る効果がある。


 アニエスが神のべールを使ったときから、実はずっとミナトとタロは気になっていたのだ。


「あれって、どうやるの?」

「そうですね。ミナトには、私の方法より、仕組みを説明したほうが良さそうですね」


 聖女アニエスが神聖魔法を行使するとき、神に祈って奇跡を地上に顕現させる。

 だが、使徒、つまり神の代理人であるミナトは、直接奇跡を起こせるのだ。


 つまり、聖女と使徒では、同じ神聖魔法を行使するのでも、やり方が違う。


「簡単に言うと、神聖力の膜で味方を覆うだけなのですが、難度は非常に高くて――」

「ほうほう? こういうかんじ?」

「コツは……あ、もうできてますね」

「あ、僕、ちゃんと神のベールができてる?」

「はい、できてますよ。綺麗です」

「えへへ~」

「ばうばう~」


 タロが「さすがミナト!」といいながら、大喜びで尻尾を振って、ミナトの顔を舐める。


「……難度の高い神聖魔法も一瞬で習得とは。さすがは使徒ですな」

「ああ、もう俺はミナトについて驚くつもりはなかったが……驚くな」


 ヘクトルが目を見開いて、ジルベルトも驚いていた。


「さすがミナトね!」

「素晴らしい。魔力の流れが非常に美しいですね。勉強になります」


 サーニャとマルセルも感心している。


「魔力なのか? 神聖力じゃなく?」

「普通は明確に違いますな。私も神聖魔法を使いますが、その際に使うのは魔力とは別ですからな」


 ジルベルトの問いに、自身も神殿騎士で神聖魔法を使えるヘクトルが答えた。


「私の場合も、魔力と神聖力は多少違うのだけど、ミナトはほとんど同一なの」

 聖女であるアニエスがそういうと、ジルベルトは首をかしげた。


「つまりどういうことだ?」

 ジルベルトが尋ねると、マルセルは語り出す。


「普通の神官は魔力に神聖力は混じらないが、聖者の場合は魔力に神聖力が混じってくる。神の恩寵って奴だな。アニエスもコリンも魔力に神聖力が混じっているが、ミナトの魔力は混じるというレベルではない。ミナトの魔力すなわち神聖力と言っていい。魔力と神聖力に違いが無いんだ。サラキアの使徒、つまり地上での代理人であるミナトは半神に近いからだろうな。普通の聖者はアニエスを含めて祈ることで神聖力を神から貸与してもらい行使するのだが、ミナトは普通に自分の魔力を使うことができる。それは魔法の行使でも同様で、我らは精霊に力を借りるのだが、ミナトは自身の魔力をそのまま使い――」

「わかったわかった。ちょっと止まれ」


 マルセルが一気に早口で語り出したので、慌ててジルベルトは止めた。


「す、すまん。つい興奮してしまって」

「まあ、俺は慣れてるからいいけどな。話している内容はあまり理解できなかったが」

「……簡単に言うと、ミナトの魔力は、普通とは違って、神聖力そのものってことだ。タロ様の魔力もそうだ」


 興奮しているマルセルが話していることなど、ミナトは気にせずに、

「こうやったほうがいいかな?」

「ばう~」

「あ、このほうがいいかな?」

 タロと一緒に神のベールの使い方を、練習しながら歩いていった。


「ふんふんふん!」

「りゃっりゃ~」

「んにゃ! んにゃ! んにゃ!」


 そして、コリンは素振りの動作に、ルクスとコトラは追いかけっこに夢中だった。

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