そんなことがあったらしい
「今日は小雪程度か。これならオーロラもその服でも寒くないな?」
「うん、ダイジョウブ!」
ちらほらと降る雪が1粒手のひらに触れると瞬間溶けていくのを見届けてから、俺の服の外で楽しそうに舞うように飛ぶオーロラに話しかける。
ネイムル牧場ダンジョン5日目――そうです、5日目です。いやぁ、3日目と4日目は激戦でしたね……という訳ではない。
3日目は2日目同様に薬草採取をメインに、たまに襲ってきたモンスターを狩っていたが特にめぼしい成果はなかった。対峙したモンスターも特にコメントするようなものでもなく、ウォーハンマーの馴らしの犠牲になったのだ。
では4日目はどうしたかというと……休んでました。怪我をしたとか病気になったとかではなく、単純に連日ダンジョンに潜ってばかりは飽きてきたので、休ませてもらった。もしかしたら苦言を呈されるかなーっと思いつつ職員さんに聞いてみたら問題ないらしい。
そりゃ調査してくれた方がダンジョン省的には助かるが強制するものではないし、むしろ無理がない程度で休んでほしいとのことだった。
というお墨付きをもらったので、昨日は全力で北海道を楽しませてもらった。――観光4割飲食6割ってところか……楽しい一日を過ごさせていただきましたよ。
寿司にハンバーガーにスープカレーにいかめしにメロンに生キャラメルにじゃがバターにラーメンサラダに焼きトウモロコシに海鮮丼に豚丼に生牡蠣にザンギにスパカツに石狩鍋……訂正します、観光2割飲食8割でしたね。
「オーロラは何が特に美味しかった?」
「ンー、どれも美味しかったケド……あのおっきいチーズスパゲティ!」
「あぁホールチーズパスタかー、アレは美味かったなぁ……」
「家でもヤロウ!」
「流石にあんなデカいチーズ置いてけねぇよ……?」
オーロラは食べた料理の中で巨大なホールチーズを器状にした上で熱々のパスタを絡めたチーズパスタをお気に召したようだ。俺としても赤ワインと濃厚なチーズが絶妙に合って満足した一品だったが……家であれをやるのは難易度が高い。
ちょっと焦ったのが、あまりに食べるもんだから店によっては「フードファイターの方ですか?」なんて聞かれたことだ。なんとか誤魔化したが……俺がジョージってことはバレてはいない、はず。念のためTwitterみたけどそんな書き込みなかったしセーフ!確信したやつも確信してなくても書く奴は書くからな!載ってなかったらセーフ!
そんなこんなで俺視点では3日目と4日目は動きはなかったのだが……ネイムル牧場ダンジョンの中ではしっかりと動きがあったらしい。昨日夜に合流した須藤さんと今さっき受付の職員さんから聞いた話なんだけどね。
あのグラキエル・ペンギオスが装備していた鎧ゴーストウェポンに似たモンスターが複数体現れたそうだ。それもそれぞれペンギオスのようにこのダンジョンに生息しているモンスターに装備された形でだ。
まずは兜のゴーストウェポン。これは知り合いではない冒険者パーティが遭遇したそうだが、装備していたのはスノーウルフの大きな群れの親玉だったそうだ。狼の頭に西洋の鎧兜が装着されている様は中々に愉快で、雪中に隠れるスノーウルフの性質とミスマッチな姿だったが、そのスキルは笑えるものではなかったそうだ。
そのスキルとは、恐らく味方の強化及び視界の共有というもので、スノーウルフの死角から攻撃を仕掛けていても他のスノーウルフがそれを見ていれば振り返ることなく躱すことが出来たそうだ。そして純粋な身体能力の強化は言わずもがなだろう。遭遇したパーティは苦戦を強いられたようだ。
ではどうやって討伐したかというと、途中で別のパーティが合流したそうだ。その合流したパーティのメンバーのうち1人が強烈な閃光を放つ魔法を用いたことで群れの目を潰すことに成功。正確には群れのボスは兜のおかげで直接的には防げたが、共有した視界から激しい閃光がお届けされたので問題はなかった。あとはボスを含めて各個撃破して終了となった。その後?案の定兜ゴーストウェポンには逃げられたってさ。
はい次、両足の脚甲ゴーストウェポン。
まさかの2体同時に1体のモンスターに装備された状態で現れたようだ。その装備したモンスターというのはフォートレスマンモ。本物の砦とまでは行かないが、動物園にいる象よりも巨大な体躯をしたマンモスだ。脚甲ゴーストウェポンは2本の前脚に装備されていたそうな。
さて、それに遭遇したのは我らがドラゴニアの巫女、須藤辰希さんだ。ガハハ勝ったな。事実この話を聞かせてくれたのは当のご本人なので勝っているのは至極当然なことではあるが。
だが須藤さん曰くそれなりに苦戦したそうで、その原因はやはりというか脚甲ゴーストウェポンのスキルにあり――両脚とも踏んだ地点を罠化するというスキルだった。ただし、その罠の内容は異なる。
まずは左脚の「罠化」だが、行動阻害の罠になるらしく、気づかずに罠の真上に立った場合、影の手が出現し罠にかかったものをその場に押しとどめてしまうそうだ。力で振りほどけないこともないが、突然のことに驚くとすぐに振りほどくという判断に切り替わるのが難しいそうだ。
右脚の「罠化」は攻撃性のもので、踏んだ相手を衝撃波で吹き飛ばすというものだ。爆薬で爆発する地雷ほどの致死性はないが、それでもかなりの衝撃に襲われ、下手すりゃ遠くまで吹き飛ばされかねないほどだったという。
でも雪の上で戦うなら足跡まるわかりだし踏むことなくないですか?と思わずにはいられないだろう。実際俺もそう思ったわけだが、すぐに厄介さに気づいた。ここのダンジョンの特性として、雪が沸いて足跡なんてすぐに消えてしまうのだ。足跡が埋まった場合でも罠の効果は残っているそうでそれで踏んでしまうらしい。
ただでさえ、フォートレスマンモは2体分のゴーストウェポンを装備していることで移動速度を含めた身体能力が向上した状態だ。須藤さんの苦戦も当然というものだ。で、どうやって斃したのか聞いたところ――「罠、関係なくすればいいやって気づいちゃって。マンモスには申し訳ないことしたかもです」と言ってたな……何をしたんや……
ちなみにフォートレスマンモは無事ヤマダへのお土産のメインディッシュへと決定したらしい。まぁ……食いでがあるのは間違いないよな。マンモス肉かぁ……夢だよな。狙ってみるかな?なんてことを考えていたら、急に異質な気配を感じ取れた。
「オーロラ?」
「なんかデテキタ!」
オーロラも感じ取ったようでその気配の発生地点であろう方向を指差す。それと同時に俺たちの後ろをついて撮影していたドローンが急にアラーム音を鳴らし始めた。え、何故障!?などと焦ったがすぐにそのアラームは止まり、代わりに女性の声が流れ始めた。
『こちらは現在ネイムル牧場ダンジョンに入場している冒険者の方にアナウンスしております。ただいま仮称手甲ゴーストウェポンの討伐および逃走を確認いたしました。それと同時にダンジョン内に異常を検知いたしました。可能な方は異常を検知した地点まで移動及び対処をお願いいたします。こちらは強制ではありませんが何卒宜しくお願い致します』




