そりゃ行きます
「「「乾杯!」」」
前回のあらすじ、ネイムル牧場ダンジョン探索初日終了で須藤さんと同じホテルだった。あらすじ終了。
まぁダンジョン省としてはわざわざ冒険者たちを別々のホテルに泊まらせるメリットは無いようなものだから当然だろうな。気づかなかった俺がお間抜けだったわけだ。
「行く?」「行きます?」という短いやり取りから須藤さんを加えた俺たちは、日がまだ高いうちにジンギスカン専門店に向かった。そして現在キンッキンに冷えたグラスを割れない程度に勢いよく合わせ、酒好きなら振り向いてしまいそうな音を醸し出していた。
そして肉を焼くよりも先にグラスに入った生ビールを一気に呷る。冷え過ぎてもはやビールの泡が少し凍ってしまっているがそれがいい。あまりにも良すぎるから、案の定ここにいる3人ともに一気飲みできてしまった。
「ア゛~ッ!」
「労働の後の一杯は最高ですね……!」
「オイシー!」
ビールのお代わりを頼んでから早速、ジンギスカン鍋の山の部分にラム肉をのせていく。っていうかこの店で初めて知ったんだけどジンギスカンって鍋料理に分類されることもあるのだとか。どおりでこの特徴的な鉄板の名前がジンギスカン鍋な訳だ。
「あっとそうでした。これ付けておかなきゃですね」
思い出したかのように須藤さんが両手を合わせると、ホテルから出る際に持ち替えてた手提げバックから見覚えのある小さな箱を取り出した。
あれはVTuberとして活動する須藤さんの所属する事務所、ExStremerの社長であり吸血鬼のエンケス・シェイドグレイスと出会ったとき、飲み会で彼が使用した指定範囲内の会話を外に漏らさないアイテムだったな。何で須藤さんが?
「社長が貸してくれたんですよ。同じものは複数持っているから一つくらい大丈夫だって」
「へぇ、価値がありそうなものなのに。流石は社長ということか。おっ、そろそろいいか?ほら、オーロラ」
「アリガト!」
エンケスの大盤振る舞いに感心していると、いい感じにラム肉が焼きあがったようで、そのうちの1つをオーロラの取り分け皿にのせてやる。
ちなみに今現在オーロラは俺と須藤さん以外には見えないよう認識阻害アイテムを調整している。そのため、食器類はないのだがそこはちゃんと家からオーロラ用のものを持ってきているので問題なし。
ではでは、ラム肉いただきましょうかね。店のオリジナルと謳うタレを少しつけてから一口。
「うンま……っ!」
「これはすごいですね……酒もですがご飯も欲しくなっちゃいます」
「ジョージ!ツギ!ツギちょうだい!」
ラム肉――当然牛豚鶏そのどれとも違う、少し癖のある味わいだがそれがいい。脂ものっていながらもくどさを感じさせず、それどころかさっぱりしていると言ってもいいな。オーロラや須藤さんもラム肉は好みだったようで次々と食べ進めている。負けてられないな……!
しかもこのジンギスカン、ラム肉は一旦当然美味いとして肉を囲むように鍋の周囲の窪みに配置した野菜たち。こいつらがまたいい味を出している。盛り上がった部分に置かれたラム肉から流れた甘い脂を吸い取って普通の焼野菜とは一線を画すほどの出来栄えとなっている。うめぇ、もやしうめぇ。
「あっ、木原さん。この羊肉ソーセージとかも美味しそうじゃないです?」
「おっいいじゃーん」
「ジョージ、タン食べたい!」
「じゃあ俺はラムユッケ頼んじゃおうかな」
もちろん3人前のラム肉と野菜で俺たちが満足するわけもなく、各自思い思いのメニューを注文していく。なんだか厨房がザワッとした気がしないでもないが、まぁ頑張ってくれ。夜の忙しい間にじゃないだけマシと思ってほしい。
さて、注文し終わったところで一旦食べ進めるスピードは落ち着く。口に残ったラム肉の脂をビールで洗い流し、今日の探索について話し始めた。
「須藤さん的には今日はどうだった?」
「ネイムル牧場ダンジョンですか?そうですね……少し肌寒くて足場が悪くはありますが今のところ問題ないですね」
「ハダ寒いテイドなの……?」
どうやらドラゴニアは寒さに対しても強いらしいな……珍しくオーロラが「マジかこいつ」みたいな目をしている。確か須藤さん今回の装備いつもと変わらない奴だったもんな。俺が言えた義理じゃないけど。
「モンスターは――氷烏はちょっと失敗しちゃいましたけど今度は多分大丈夫です。あとは……あの浮遊する武器はなんでしたっけ」
「ゴーストウェポン?」
「そうそれです。それもいましたね。」
「俺はゴーストウェポンとワイルドオークとスノーウルフって感じだな」
「え、ワイルドオーク!?あー、モチベあがりますね……!あれ、じゃあボスはワイルドオークキングとか何ですかね?」
「その可能性は十分にあるなぁ」
韮間ダンジョンは追加階層が発見される前はゴブリンキングが最奥のボスだったが、今ではブロックザウルスにその座を奪われているからな。ワイルドオークキングがいる可能性は高いが、ダンジョン内のラスボスだと決めつけるのは早計かもしれないな。
お、そんな話をしていたら追加のラム肉とかがやってきた。一旦ダンジョンの話は打ち切って再びジンギスカンに舌鼓を打つ時間が戻ってきた。堪能するぞー!




