そりゃ当然な茹で時間
「しまったなぁ……本当にしまった」
「ヤッチャッタねー」
当初の目的であるワイバーンの卵と+ジュエルグリフォンの卵を入手することができた俺達は、嬉々として帰路についた。そして早速卵と壺蛸の壺を並べて――思わず額に手を当てた。
持ち帰ったワイバーンの卵、全部壺に入りきらない問題だ。2つの壺にそれぞれ卵1つずつ――残りの具を入れるならまぁイケるか?正直に言うと一目見た時から不安が過っていた。しかし、きっと気のせいだと……その可能性から目を逸らしていたのだ。その結果がこれだよ!
結局、卵5個の内2個は当初の予定通り漬けにして残りの3個は別の料理に使うことに決定した。ん?オーロラ、スマホなんて持ってきてどうしたんだ?え?何を調べてるんだい?え?なにこれ?卵まるごとプリン?作ってほしい?――あっはい、勉強します。
んじゃ早速ゆで卵を作っていきましょうかね――と思ったのだが、ここで大きな壁が1つ。スイカほどのサイズであるワイバーンの卵。当然鶏の卵と同じ茹で時間な訳もなく。調べてみたらどれくらい必要だと思いますか?「80 ℃の湯で6~8時間 ゆっくり温める」ですって。HAHAHAHA、明日ね!
あと巣守さんちに寸動鍋も借りよう。うちにも1つあるけど、卵1つしか入らないからな。
「ほんじゃま、今日の所はデュオジラの首肉で何か作るかね」
「ジョージー、キラキラのタマゴ見てていい?」
「キラキラ……?あぁ、ジュエルグリフォンのか。いいけど割るなよ?そう簡単には割れないと思うけど」
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「オイシイネ!」
「だなぁ!ビールも美味い!」
今日は初めて潜ったダンジョンで疲れていた。出来るだけ楽に済ませようということで考え付いたのが、電子レンジで作るデュオジラの首肉の酒蒸しだ。
作り方はとっても簡単。耐熱容器を用意します。だし昆布を雑に入れます。ぶつ切りした白菜を入れます。薄切りにスライスしたデュオジラの首肉を白菜の上に敷き詰めます。塩コショウをかけてから料理酒を回しかけます。みじん切りしたネギ、大葉、ショウガを入れます。ふんわりとラップをかけて――600W電子レンジで5分加熱!完成!
デュオジラの首肉は思っていた以上に癖がなく、なんなら食べやすいまである。デュオジラのモチーフであるキリンが牛の仲間だからか、牛に近い……かも。
これがビールは勿論なんだが、米にも合う。肉で米を海苔のように巻いて食べると昆布だしと料理酒が合わさった肉汁がご飯を染め上げて、それを喰らった時の幸福感と言ったらもう、ね。
このままでも美味しいのだが、七味唐辛子を散りばめたポン酢で食べるとまた一変する。ポン酢の酸味と七味の辛味が加わることでさらに食事スピードを上昇させる。いやぁ、こんなに簡単にご飯のお供が作れちゃうなんて電子レンジ様様だぜ。――あれ?簡単にできるご飯もといおつまみとしてこれこそ配信に出すにふさわしい料理だったのでは……?ま、まぁいいか。
「ジョージジョージ!このお汁もオイしいよ!」
「おっ、分かってるねぇ」
オーロラが言っているお汁というのは、容器の底に沈殿し具材のあらゆる旨味が溶け込んだスープだ。まぁ大本が料理酒だから酒弱い人にはちょっとキツい可能性はあるが俺達にとっては大したアルコール量ではない。とはいえ、俺も飲みたいので仲良く分け合おうじゃないか、オーロラ。ねぇ?
腹五分目辺りで一旦酒蒸しが無くなってしまったが、やはり簡単な料理なのでそこまでの労力を費やすことなくお代わりを作り上げ、再び食べ始める。うめ、うめ。――梅?あ、梅入れたらポン酢とは別のベクトルの酸味で美味しいかもな。覚えていたら試してみようか。
「――ん?」
「どうしたノ?」
ふと、違和感を覚え顔を上げる。突然の行動にオーロラが少し驚いた風に聞いてくるが、その違和感の正体に気付けず、俺は首を傾げるだけで答えることができなかった。
なんかジュエルグリフォンのタマゴがある方で何かが動いた気がするんだけどな。でも親分は寝ている時間だし、カルーアは魚状態で泳いでいるしぴょんちゃんもカルーアの水槽の傍にある。勘違いだったのか?俺は白菜を口にしながらそう思うことにした。
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「長く苦しい戦いだった」
「ホントに長かったね」
翌日、早速巣守さんちから寸動鍋をお借りし、2つの寸動鍋でワイバーンの卵のゆで卵を作り始めた。俺だって人の子――両親は普通に人間だから言葉的には間違いではないはずだ――。流石に8時間も待ってられるか、時間短縮する方法があるんだろう!?と調べてみればインターネット先生から「ンな近道ねぇよはよ茹でろ調べる時間無駄」と怒られてしまったので泣く泣く作ることに。
当然火を使っているのだからキッチンから離れることは出来ないので、他の作業をやっておく。ゆで卵を漬ける前に先にタッパーで他の食材を漬けて置いたり、キッチン周りの掃除……掃除はカルーアがやってくれてるからしなくてもいいか。最近腕上げてないですか?
そんなこんなできっかり8時間、茹でましたとも。で、次の難関が割る作業だ。サイズがサイズだけに殻も硬い。が、この場合の問題は割れないかどうかではなく、割れ過ぎないかどうかだ。
当方、ハイエルフとなったことで力が増してます。制御は出来ておりますが、それで初めて触る割れ物をどうやって慎重に壊すかはまた別問題な訳で。
結論から言うと、何とかいい具合にヒビを入れてツルっと殻を綺麗に剥くことに成功した。ふっ、パンチでヒビを入れるのではなく、ドアをノックする要領でヒビを入れた俺を褒めて欲しい。……そうか、今の俺はノックで物を破壊できてしまうのか。面接の時気をつけよう。
綺麗に剥けたゆで卵はこれから麻辣のたれに漬けこまれてガングロになっていただきます。さ、この液体式日サロに染め上げられちゃってね。あ、大丈夫大丈夫。1人じゃ寂しいだろうから海老とかマンドラゴラとかイカとかも入れるからね。もう一方の壺にはジュエルグリフォンの卵も入れるからね。白身部分も宝石のように輝いているかは知らんけど。
さ、ワイバーンのゆで卵の漬け込み完了!次はジュエルグリフォンの卵だな。まずは茹でから――ってあれ?
「オーロラ、ジュエルグリフォンの卵しらない?」
「アレー?アッそこにあるよ!」
間違いなく置いた場所になかったので、またオーロラが持って行ったのかと思い聞いてみたらオーロラも気づいていなかったような反応だった。まぁあったからいいか。
いつのまにか物陰に転がり込んでいたジュエルグリフォンの卵を取り上げお玉に乗せる。そしてぐつぐつと沸騰し煮えたぎるお鍋の中に投入――あれ?なんかヒビ入ってない?え?いつ割れた!?え、茹でる前に見た10分前には綺麗な状態だったよな?やだもう!ヒビ入った状態で茹でると不格好なゆで卵になるんだよなぁ……ちょっとショックだ。
ほな改めて……待ってなんか音しない?パリパリいってない?音の発生源は――ジュエルグリフォンの卵?え?ちょ、ヒビ広がってない?嘘だろ、そんなまさか!
「ぴぇー」
本日、木原家のキッチンになんとも気の抜けた産声が響いた。
バロット(※検索注意)ルートはありました




